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魔女と魔法使いの少女たち  作者: 野村勇輔
第9章 魔法使いの少女たち

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第5回

   5


 そんなこんなで、あっという間に時は過ぎ、気がつけばハロウィン前日になっていた。


 部室の中は真帆たちの手によって、今まさになんとも騒がしい様相を呈しつつある。


 シルバーやオレンジ、黒や紫に輝くキラキラのモールが壁中に張り巡らされ、至る所にかぼちゃやカブ、骸骨、シーツを切り裂いたようなお化けの置物が並べられていく。


 僕も真帆に指示されながら、脚立|(勝手に事務室から借りてきた)に立ち、魔女や蝙蝠の形にくりぬかれた切り紙を、強力な両面テープを使って次々に天井から吊るしていった。


 あまりの飾り物の多さに、ハロウィンというより、まるでジャングルのようだ。


 どうやらこれらは真帆が自宅で認定試験の勉強|(どうやら筆記もあるらしい?)をしているふりをして自室にこもっている間、ひとり手作業で作り続けていたのだそうだ。


 ……全く、試験勉強と言いつつ何やってんだか。まぁ、真帆らしいけどね。


 ちなみに今日明日のために、真帆はおばあさんに「ハロウィンの前日と当日だけは、なんとか試験勉強を無しにしてほしい」と頼み込んでいたらしい。


 その願いが聞き届けられたからか、久しぶりに新旧魔法部の全員がこの場に集合することとなったのだった。


「いやぁ、それにしてもすごい賑やかだねぇ」

 と榎先輩は腰に手をあてながら部室を見回し、

「一昨年ここを見つけた時はほこりまみれのただの物置みたいな感じだったのにさ。こうして飾り付けると、なかなか良い雰囲気になるもんだね。去年もやればよかったなぁ」


「ですね」

 と僕もそんな榎先輩の隣に並んで辺りを見廻し、

「毎年やってもよかったかも」


「ほんとほんと」


 ちょっと飾りが多すぎるような気もしなくはないのだけれども。


 そんな僕らから少し離れた場所では、真帆、鐘撞さん、肥田木さんの三人が、置物の配置や飾りつけで何やらギャーギャー言い合いを始めている。


 昨年や春先ではあまり考えられなかった光景だ。


 特に鐘撞さんは昨年の春、あれだけ真帆の夢魔に命を脅かされたのに、今ではその夢魔の主である真帆の性格にすっかり慣れてしまったのか、なかなか真っ向から言い返せるようになっているのだから感心してしまう。梅雨時にあのヤンキー魔女と対峙した時から思っていたけど、実はなかなか肝の据わった子なんだなぁと感心せざるを得なかった。


 肥田木さんも肥田木さんで、入学したての頃は真帆の玩具のような感じだったのだけれど、今では鐘撞さんと一緒に――というか真帆と鐘撞さんのふたりの間で入れ代わり立ち代わり意見をコロコロと変えながら、楽しそうに笑っている。こちらもすっかりこの空気に慣れてしまっているらしい。


 そんな真帆たちの姿を見つめながら、榎先輩はしみじみと小さく息を吐き、

「……それにしても楽しそうだねぇ、真帆。最初会った頃は、そこそこ尖ってる感じだったのにさ」


「確かに」

 僕は深く頷き、

「でもまぁ、こっちの真帆の方が本来の姿らしいですよ。でしょ、セロ」


 僕はソファの上で丸くなっている(無理やり真帆に小さいとんがり帽子をかぶらされた)黒猫に声をかけた。


 その黒猫――セロは頭をもたげ、見るからに不服そうな表情で、

「……あぁ、そうだな」

 と人語を口にしたのだった。


 珍しく家からセロを連れてきた真帆だったが、真帆曰く、

「魔女といえば黒猫でしょう。雰囲気づくりに連れてきました」

 と、ただそれだけの理由だった。


 可哀想な使い魔である。


 むすりとした表情でセロはため息を吐くと、

「まったく、いつもいつも勝手なヤツだ」

 呆れるように、そういった。


「明日も来るんでしょ、セロ」


「……来たくはないがな。どうせ無理やり連れてこられるんだろう。こんなものまでかぶせやがって、まったく、ほんとうにまったく!」


「今日くらいはずしてもいいんじゃない? ハロウィンは明日なんだしさ」


「ムリだ。真帆のやつめ、いらん魔法で頭の上に魔力と一緒に括りつけやがった」


「あらら、セロでもはずせないのか」


「本当に、アイツときたら! 忌々しい。あぁ忌々しい!」


 セロは頭の上のとんがり帽子を何度もその前足ではずそうと試みるが、キラキラとわずかに魔力の光りが見えるだけで、残念ながらまったくはずせそうな気配もなかった。


 ……本当に、本当にかわいそうなセロ。


 セロは恨めしそうに真帆を一瞥すると、鼻をふんと鳴らして再び顔を伏せてしまったのだった。


 と、そこへ、


「――うわぁ、すごいじゃない!」


 聞き覚えのある声がして振り向けば、出入り口の通路から乙守先生と、それに付き従うように後ろを歩く、真顔の井口先生が部室に入ってきたところだった。


「いいじゃない、いいじゃない、賑やかで。わたしも参加していいかしら?」


 満面の笑みを浮かべる乙守先生に、真帆は作業の手を止め、唇を尖らせる。


「……いいですけど、ちゃんと魔女の恰好してきてくださいね?」


 もちろん! と乙守先生はうんうんと何度も頷くと、

「たまにはいいんじゃない? 昔みたいな悪い意味合いがあるわけでなし、今どきの可愛い感じでみんなで楽しみましょう!」


 うふふ、と本当に楽しそうにしている乙守先生だったが、けれど今日ここへ来たのは、きっと真帆の主催するハロウィン・パーティへの参加を表明するためではないのだろう。


 だからこそ、乙守先生の後ろに立つ井口先生が、神妙な面持ちで突っ立っているのではないだろうか。


 それは真帆も同じことを感じていたらしい。じっと乙守先生たちの姿を見つめていたが、やおら口を開いた。


「――それで? 今日は何か私に伝えることがあっていらしたのではないのですか?」


 いつもとは違うやや低めの声だった。あからさまに乙守先生たちを威嚇しているようだ。


 そんな真帆の様子に、乙守先生はふふっと鼻で笑ってから、

「……そんなに怖い顔しないで。可愛らしい顔が台無しでしょう?」


 けれど、真帆はそんな言葉には反応しなかった。ただじっと、乙守先生の顔を見つめているだけだ。


 鐘撞さんも肥田木さんも、当然榎先輩も手を止め、固唾を飲んでふたりの次の言葉を伺っていた。


 長い沈黙のあと、やがて乙守先生は深い深いため息を吐いてから、いつもとは全く異なる無表情で、その瞳に強い虹色の魔力を浮かび上がらせながら、重々しく、口を開いたのだった。


「――そう。今日は楸さんに、とても大切なお知らせに来たの」


 その言葉に、真帆は珍しく緊張した面持ちで、乙守先生から一歩あと退った。


 居住まいを但し、深いため息をひとつしてから、

「……はい、なんでしょうか」

 と小さく、答えて瞬きする。


 乙守先生は全く表情を崩すことなく、静かに頷く。


「……先日、我々全魔協は、あなたのこれからの処遇に対し、寄り合いを行ない、ひとつの決定を下しました」


 それに対して、真帆は、

「……認定試験のことですか?」

 と首を傾げた。


 肥田木さんも言っていたし、たぶんそうなのだろうと僕も思う。


 けれど、意外にもそうではなかった。


「いいえ」

 

 首を横に振り、それを否定する乙守先生。


 僕や榎先輩、鐘撞さんや肥田木さんの一同は、互いに視線を交わらせ、真帆同様に首を傾げる。


 真帆は眉間に皺を寄せて、

「……それじゃぁ、いったいなにを?」


 その寄り合いで、乙守先生をはじめとした全魔協の面々は、いったいどんな決定を下したというのだろうか。


 真帆だけでなく、僕ら全員の視線が乙守先生――いや乙守会長に集まる。


 そんななか、乙守先生は、改めて深く息を吸い、吐いてから、


「――あなたの身体から夢魔を引き剥がし……封印します」


 そう、言い放ったのだった。

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