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魔女と魔法使いの少女たち  作者: 野村勇輔
第9章 魔法使いの少女たち

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第2回

   2


「……コスプレですか」


 その日の放課後、僕は鐘撞さんと並んで歩きながら、部室へと向かっていた。


 真帆はと言えば、今日はおばあさんから「早く帰って認定試験の勉強をするように」と魔法の折り鶴が飛んできて(これまでも度々おばあさんからの連絡は折り鶴だった)、渋々といった様子で、屋上に隠していたホウキで字面通り飛んで帰っていた。


 なので、真帆の代わりに僕から鐘撞さんたちにハロウィン・パーティの話をすることになった次第である。


 真帆の提案に、鐘撞さんはあからさまに「イヤだなぁ」といった表情を浮かべているが、その気持ちはわからなくもない。


「まぁ、鐘撞さんは嫌だよね」


 あんまりそういうはっちゃけたタイプでもないしなぁ、鐘撞さんは。


 苦笑してしまう僕に、鐘撞さんは、


「あぁ、いえ、別にイヤってほどではないんですけど――」


「けど?」


「魔女の恰好、ですよね? みんなでコスプレするのって」


「うん。とんがり帽子に黒いローブ程度のベタなので良いと思うんだけど」


 けれど鐘撞さんは眉をひそめて「う~ん」と小さく唸ってから、

「……おばあちゃんが嫌がると思うんですよね、そういうの。ただでさえ全魔協や他の魔女を嫌っているっていうのに、そこへきて異端の姿である魔女の服装なんて、絶対に反対しちゃうと思うんですよ」


「あぁ、やっぱりそうなんだ」


「やっぱりってことは、先輩も知ってるんですか、お年寄りの魔法使いほどあの姿を嫌ってるってこと」


「朝、真帆から聞いたよ。あと以前、何かの本で読んだ気がする。そもそもとんがり帽子自体に異端の意味が含まれている、みたいなことが」


「らしいですね。本物の魔女があんな格好してるわけがない、あんな悪いイメージはよろしくない! って感じで、よくある魔女のイラストすら忌み嫌ってますからね、うちのおばあちゃん。なので、わたしがそんな魔女の恰好をしようものなら、半日くらいお説教されちゃうかもしれないので、それはちょっとイヤかなぁって」


「お、お説教までされるレベルなの……?」


 ただの魔女のコスプレで、そこまで?


「はい、そこまで。それに、昨年の真帆先輩の夢魔の件に関しても、おばあちゃんはまだ全然許してないです。真帆先輩のことも、ソレに関わっていた全魔協のことも。当然、わたしが魔法部に入り浸ってることも嫌がってます」


「……それなのに、真帆や僕が居ないときにも部室に行ってるよね、鐘撞さんって」


「まぁ、理由は真帆先輩と似たようなものですよ。うちに帰るとおばあちゃんから小言を言われちゃうので、逆にその時間を短くするために部室に入り浸っているんです。おばあちゃんのお説教って、どんなに長くても晩ごはんまでなので、晩ごはんスレスレの時間まで部室で時間を潰して帰れば、それだけおばあちゃんのお説教が短くてすむんですよ」


「……鐘撞さんも、なかなか大変だね」


「大変っていうほどではないですけどね。要は逃げてるだけですよ」

 言って、鐘撞さんはくすりと笑んだ。

「確かに色々ありましたけど、真帆先輩やシモハライ先輩、それに、肥田木さんや榎先輩との時間の方が今は楽しいんですよ、わたし。特に肥田木さんとは毎日仲良くやってます。可愛い後輩ですから」


「それならいいけど…… でも、そうか、魔女のコスプレはできそうにないね」


 はてさて、真帆はなんていうだろうか。


 残念がるだろうか?


 怒りだすだろうか? 


 いや、たぶん、真帆のことだから――


「真帆先輩なら、わざわざおばあちゃんに言わなくても、こっそりやっちゃえばいいだけですよ、って言うんでしょうけどね」


 鐘撞さんの言葉に、僕も思わず口元をほころばせてしまう。


「確かに」


 くすくす笑ってしまう僕と鐘撞さん。


 それから鐘撞さんは小さく吐息を漏らしてから、

「まぁ、とりあえず考えておきます。真帆先輩やシモハライ先輩と一緒の、高校最後のハロウィンですもん。どうせならみんなで楽しみたいですよね」


「そうだね。そう言ってくれると、真帆もきっと喜ぶよ」


 ――そう。僕らや真帆にとっては、高校最後のハロウィンになる。


 きっとこのままクリスマスを経て、正月を迎えて、そして来年には、僕は――


 実はまだ、真帆にはどこの大学を受けることになったのか、話していない。


 真帆はいまだに、僕が榎先輩と同じ大学に行くことにしていると思っているみたいだ。


 だけど、違う。


 僕は、結局井口先生の勧める、県外の大学を受けることになった。


 その事実を、僕はどうやって真帆に伝えたらいいのだろう。


 いつ、真帆に伝えたらいいのだろう。


 どのみち、大学入試は来年の一月だ。


 合格すると決まったわけではない。


 だから、今の段階では、まだ、真帆に言う必要はないだろう。


 真帆がどんな顔をするか想像するだけで、何となく言い辛くてしかたがなかった。


 でも、いつかは言わなければいけないことだ。


 ……真帆も自分の寿命を僕に伝えようとしていたとき、同じような気持ちだったのかも知れない。


 きっと言い辛かったことだろう。


 そう思えばこそ、どのタイミングで真帆に伝えるべきか、本当に悩ましかった。


「――どうしたんですか、先輩。神妙な顔して」


 鐘撞さんに声をかけられて、僕ははっと我に返った。


「あ、いや、みんなが魔女のコスプレするとして、僕はどんなコスプレすればいいのかなって考えちゃってさ」


「なるほど。それなら、妥当なところで吸血鬼とかはどうです?」


「確かに、魔女に続く定番中の定番だね」


「真帆先輩も喜びますよ、たぶん」


「たぶんかぁー」


 そんな会話を交わしながら、僕らは部室の扉を開けたのだった。

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