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魔女と魔法使いの少女たち  作者: 野村勇輔
第5章 大学生の魔女

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第3回

   3


 そんなこんなで再び僕たちは砂治アストロ公園までやってきた。


 空は青く晴れ渡り、陽射しが強い。風はぬるく、湿度も高く感じられる。


 すでに気の早いセミが鳴き喚き、その声を聞くだけで汗が噴き出してきそうだった。


 山の中を散策するということで、長袖シャツにロングパンツといった格好で来ているが、薄手の生地を選んだとはいえ、さすがに暑い。


 榎先輩も前回怪我したことを反省してか、僕と同じく肌の露出を抑えた服装。真帆もまた、普段着はわりとふわっとした感じのものを好んで着ているのに対して、珍しくジーンズに白いボタンダウンの長袖シャツという格好だ。


「……まさか、またここまで運転させられるだなんて思ってもいなかったぞ」


 駐車場をあとにして、榎先輩が聴診器とみられる竹の破片を見つけた場所に向かって歩いている道中、疲れたような様子で井口先生がそうこぼした。


「いやぁ、感謝してます、井口先生!」

 と笑ったのは榎先輩だ。

「あ、師匠って呼んだほうがいい?」


「呼ばれ方の違いで疲れが飛ぶんならな」

 やれやれ、と井口先生は肩を落とした。


 榎先輩にとって、井口先生は魔法使いとしての師匠にあたる。これは全国魔法遣協会の取り決めにより、一人前の魔法使いとして認められるには魔法指導員による指導と許可が必要となるためだ。この許可を得ることにより、一人前となった魔法使いたちは全魔協に仕事の斡旋をしてもらえることになるらしい。榎先輩はその為に井口先生のもとで指導を受けている、と聞いてはいるのだけれど、どうやら実際のところは空を飛べない魔女である榎先輩の、現地調査へ向かうための運転手役としての務めの方がもっぱら多いらしいことを僕は今日、知ることとなったのだった。


「お前が空さえ飛べてくれたら、わざわざ車を出さなくてもよかったんだけどなぁ」


 嫌味というほどではないのだけれど、運転に疲れた(ここまで三時間近く運転し続けてくれている)先生からすると、心の底からそう思ってしまうのもわかる気がする。


「そんなこと言ったってしかたないじゃん? 先生だって飛べないでしょ?」


「まぁ、そうだけどな。――おい、真帆、今度からはお前が榎を運んでやれ」


「いいですよ。なっちゃんだったら喜んで乗せてあげますけど?」


 その言葉に、榎先輩は「えぇっ」とあからさまに嫌そうな顔をして、

「それはいいや。真帆の運転、超荒っぽいし。シモハライくんみたいに毎回吐いちゃうよ」


「え~? そんなことありませんよ~?」

 と真帆はそっぽを向きながら、

「あれはシモフツくんがひ弱なだけですよ~」


「いや、違うぞ、真帆。間違いなく真帆の運転は荒い」


 はっきりそう言ってやると、真帆は(本人も本当は自覚があるので)、

「ひっど~い! もう二度とユウくんは乗せてあげませんからね!」

 可愛らしく頬を膨らませてみせたのだった。


 ……まぁ、どうせ僕が乗りたくなくても、真帆は強制的に僕を乗せていくんだろうけど。


 なんて会話をしながら、アストロ公園からさほど遠くない山の中を歩くこと十数分。


 木々の間から盆地に広がるだだっ広い田んぼと点在する民家|(農家)が一望できるあたりの中腹に、榎先輩の言っていた民家の跡地が現れた。


 ざわざわと木々の葉はざわめき、至る所からセミの鳴き声が響いている。直射日光が木々の葉によって遮られているおかげで影になっていて比較的涼しいものの、今度は代わりにやぶ蚊が大量に発生していて、僕らは改めて虫よけスプレーを全身に振りかけてから改めて調査を開始する。


「ここに民家があったのは今から五十年ほど前までだったんだってさ。それまではずっとここに不思議な術を使って病気やけがを治療するお医者さんがいて、わざわざ遠くから病気を治療してもらいに来る人がいたりしたんだって。けど、ある日突然そのお医者さんが居なくなって、ここに建っていた家もあっという間に崩れて土に還ってしまった。っていうお話が残されてるって教授が言ってたんだよね」


「ふぅん?」井口先生は鼻を鳴らして、「その教授も物好きだな。わざわざこんな場所の昔話を調べたりしてるのか?」


「こんなところっていうか、山陰地方の民話を趣味で収集してるんだってさ。あくまで趣味の研究だから、そこまで詳しくは調べてないって言ってた。今回もまた行って来るって伝えたら、何か解ったことがあったら教えてくれ、改めて調査に行くからって」


 なるほど、と井口先生は辺りを見回し、

「しっかし、本当に木くずとか木片とか、そんなんばっかだな。長年の風雨とか虫食いかなにかでボロボロだし、よくこんなところで見つけたな、榎も」


「ですね~」と真帆も同意して、「ほとんど落ち葉とか土に埋もれちゃってますし、残ってるものと言えば陶器の欠片とかこれは――トタンか何かですかね?」


 汚いものを触るように、真帆は(軍手をしているけれども)抓んで言った。


 ここにかつて家が建っていて人が住んでいたらしい形跡は確かにある。けれど五十年という年月の中で、完全に朽ち果ててしまったそこに何が隠されているのか、探すだけでもひと苦労だ。


「というわけで、持ってきましたよ、いつものやつを」


「いつものやつ?」


 真帆は軍手を外すと背負っていた小さなリュックに手を突っ込み、ややしわがれたような声で、

「まりょくじしゃく~」

 小さな丸い、方位磁石のような代物を取り出して掲げてみせた。


「お、いいぞ、真帆。それなら楽ができる」

 井口先生もにっこりである。さっさと見つけて早く帰りたい、と顔がいっている。


「準備いいじゃん、真帆」榎先輩も親指を立ててウィンクひとつ。「確かにそれがあったらあっという間に魔法に繋がるなんかが見つかりそう」


 というわけで、真帆は早速その磁石に眼を向けた。


 僕も横から覗き込めば、磁石の針がゆらゆらと動き始めて、

「こっちですね」

 真帆がそのまま歩き始める。


 そこから真っすぐ進み、やや右へ折れ、ボロボロに折れた太い四角い木の柱を跨ぎ、さらにその先に歩みを進めようとしたところで、


「――危ない!」


 僕は咄嗟に真帆の腕を掴んで抱きしめていた。


 方位磁石を注視し過ぎていた真帆が、すぐ目の前の急な斜面でふらつき、転落しそうになったからである。


 なるほど、ゴールデンウィークに榎先輩が転げ落ちたのはこの斜面だったのか。


「す、すみません、ユウくん……」


 僕の腕の中で、真帆が小さく口にする。


「もう、気を付けてよ、真帆。周りも見なくちゃ」


「は、はい……」

 言いながら、何故か僕から離れようとしない真帆。


 ……いつまで僕に寄りかかってるつもりなんだ?


「ちょっと、そんなところでくっついてないで、早く探してよ」

 榎先輩も呆れたように口にする。


 真帆は「ちっ」と小さく舌打ちするように、

「いいじゃないですか、ちょっとくらい」


「それ今じゃなくていいでしょ? あんたたち付き合ってんだから、いつでもくっつけるでしょうに」


「は~い」


 渋々ながら、ようやく僕から離れていく真帆。


 やがて辿り着いたのは、家が建っていたと思われる際の際、すぐそばに聳え立つ木々の根がむき出しになった辺りだった。


「ここですね。ここに魔力の反応があります」


「んじゃ、掘ってみよっか」


 榎先輩は言うが早いか腰を屈めると、その根っこの辺りの腐った葉っぱをよけていく。下からはミミズやらアリ、見たことのない変な形をした虫がわんさか出て来て、慌てたように逃げていく。


「ひいぃ!」声をあげたのは真帆だった。真帆は僕の腕にしがみつきながら、「よく平然としていられますね!」


「え? そんなに気になる? 真帆の家だってあんだけのバラが咲いてる庭があるんだから、普通に虫くらいいるでしょ?」


「うちはおばあちゃんが品種改良したり土を調整したりしてるから、こんなに虫いません!」


「あ、そうなん? まぁ、こういう山の中とか調査してたら普通だよ。あたしは慣れちゃったね」

 それから榎先輩はくるっと井口先生に顔を向けて、

「ほら、先生も手伝ってよ!」


 井口先生はぼーっと木々の間の田んぼを見ていたが、

「――んあ? 俺も?」


「先生はあたしの師匠でしょ? 弟子が頑張ってんだから師匠も手伝ってよ」


「……おい、シモハライ、手伝ってやれ」


「僕は真帆がしがみついてるんで動けません」


「馬鹿言ってないで、お前がやれ、ほら、ほら」


「え~?」


 やれやれ、と僕は腕にしがみつく真帆の手からはなれると、榎先輩と並んで土を掘り返した。


 次から次へと出てくるミミズ、またミミズ、見たことのない虫の数々。


 ……ちょっとこれ、虫出てき過ぎじゃない?


「きっと魔力に引き寄せられちゃったんですね」

 真帆が遠目にその様子を窺いながら、絶対に近づくもんかという意思を露わにしつつ、

「魔力は生命力でもありますから、寄ってきちゃったんだと思います」


「……まるで自然の蟲毒だね」


 それは僕も同じことを思っていた。呪いの一種で有名な蟲毒。虫類を甕か何かに詰め込んで封をして互いに喰わせ合い、最後に残った一匹を呪い殺したい相手に送るとかいう、アレに似ている。まぁ、違うの甕ではなくて自由に出入りできる土の中であり、ついでに言えばどの虫たちも丸々と肥えていて尋常じゃない数が居るところなのだけれども。呪いというよりは、虫たちにとって生命力である魔力は祝うべき代物だったようだ。


「あ、なんか出てきた」


 虫と土を払い除けて、榎先輩はその欠片を拾い上げる。


「――なんだろ、これ」


 榎先輩が眼を細めながら口にした、その時だった。


「あんたら! そこで何しとんね!」


 急な斜面の下の方から、見知らぬおばあさんがしかめっ面で声をかけてきたのである。

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