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ヴェルガの牙  作者: ラグナウルフ
DATA01 異世界落下編
9/21

ACT.008 異世界の日々

「ね、姉さん……このコウイチさんを王にするってどういうことですか……?」

「ファーナもカズマの話は知っていると思う」

 カズマとはカズマ=アリサワの事である。つまり、世界をはじめて統一した異世界人のことを指す。

 光一と同じ用に黒髪、黒き瞳を持った少年だといわれている。

「……姉さんの言いたいことはわかりました」

「わかっちゃったの!?」

「コウイチは少し黙っていてくれ。今一番大切なところなんだ」

「はい(シュン↓」

 当事者なのに会話に介入できない光一。そんな肩を落とす光一の姿をみてクスクスと少女のように笑うメリニア。

 ファーナはムスッとした表情を光一に向け、その瞳は少々怒っているかのように光一を睨んでいる。

 光一自身は喋るなと言われたのでどうしようもなく、「ははは……」と苦笑いを漏らしながら頬を掻くという行動しか取れない。

「つまり、シエナ殿はこう言いたい訳だな。ファーメルの王はあのカズマと同じ黒髪黒い瞳を持つ異世界人である。あのカズマと同じなのだからファーメルはもしかしたら世界統一をするかもしれない……そう思わせることで味方の士気を上げて、相手の士気を下げる」

「確かに有効な手ではあります。しかし、いくらなんでも外の者を王として崇めるのはどうかと思います。まだ素性も知れてませんし……」

 確かに急に「異世界から来ましたー」なんて人を信じろといわれたって無理な話だろう。ファーナの言うことももっともであった。

 しかし、シエナの言ったこともちゃんとした理由はあり、その内容も十分国的利益を得ることの出来る内容でもあった。

 だが、一番の問題はそこではない。

 今は沈静化したもののファーメルはまだ王の座の争いでにらみ合っている状態なのである。そんな中、急に王を――しかも一族の中からではなく、外から決めたりすれば、他の一族達から反感を買うことは間違いない。

 そうすれば一気にファーメルの士気も地に落ちる。さらには一族の中には商人でいくらかお金を回してもらっているところもある。そういった所からお金が回らなくなり、財政もきつくなる可能性もあった。

「これは……急に決められる内容ではありません」

 だからこそファーナの出した結論は尤もであった。

 シエナは一つ頷くと「考えておいてくれ」とそのまま部屋を出て行ってしまう。その場に光一を残して。

「えっと、俺はどうすればいいのかな?」

「………………」

「え、えーっと……」

(お、俺何か悪いことでもしたのかな……? 何故かファーナさんにめっちゃ睨まれているような木がするんですけど……)

 ファーナは先ほどから光一の事を睨むかのような視線で見続けている。

 さすがにそのような視線に耐えられるような光一でもなく、オロオロとするばかりであった。

 そんな光景を見てクスクス笑うメリニア。光一はわけも分からなくなり、ただ、心配そうな顔で二人のうちどちらかが口を開くのを待った。

「ファーナ殿、そのように警戒なさらずともよいでしょう。彼はかなり真っ直ぐでしっかりした男児のようだ」

「うぅぅ……姉さんが連れてきた人だから文句は無いんですけど、どうも気に食わないんです」

 本人の前でそんなこと言わないでほしいと光一は思ったが、口に出すことはしなかった。

 改めてみるとファーナも綺麗な人だと光一は感じる。

 姉であるシエナと同じように赤い髪。髪は長く、座っている状態で床のギリギリの所まで来ているという事は、腰くらいまであるのだろう。顔は整っているものの、シエナのような鋭い刃のような美しさよりも、幼い少女のような儚さのある可愛い顔だった。

 瞳も髪と同じように赤く、その視線の先は光一をジィと見つめている。睨んでいるのだろう。

 服装は姉と同じように赤を貴重としたもので、ワンピースタイプの洋服のような服であった。

 正直に言えば美少女だ。それもかなり可愛いタイプの。

 メリニアはどちらかといえば女性という印象の強い女の人だ。長い黒髪をした女性で、瞳は黒ではなく、綺麗な水色。

 だが、よく見ると顔にまだ少女っぽさが残っているので20代だと思われる。しかし、その体からあふれるオーラは大人の貫禄を見せていた。

 一番光一の気になるのは彼女の腕から下げている徳利である。

 徳利といえばお酒などの飲み物を入れる容器のはずだ。その徳利には漢字一文字、「酒」と書かれている所から見てお酒であると断定。

 この世界のお酒というものに少し興味がある光一はずっとその徳利に目がいっていたのだろう。その視線に気がついたメリニアが少々笑いながら「飲むか?」と誘ってくる。

「じゃあ、少しだけいただきます」

「ファーナ殿。たしか、もう一つくらい酒用の器が無かったか?」

「ありますよ。もともとこの部屋でメリニアさんがいつも飲んでますからね。ほぼ備え付け状態です」

 赤い容器を受け取り、トクトクと注がれるお酒を見る。

 濁った酒ではなくて透き通った酒で、久しぶりにお酒を飲む光一はゴクリと喉を鳴らした。何気に酒好きである。

 ただし、光一はその酒の匂いをかいだ瞬間にこれはやばいと感じた。

(あ、アルコール度数いくつなんだ!? これ!?)

 鼻に来る刺激は日本酒や焼酎では表せないほどのきつさ。まるでこれ一つで車のガソリンの代わりになりそうなほどだ。

 だが、貰った手前飲まないわけにはいかない。

「ええーい!! 南無!!」

 たかが酒と思うこと無かれ。

 一口で飲んだ瞬間に光一の意識は闇の底へと落とされたのだった。

 

 ★★★★★

 

「ちょっ!! コウイチさん!?」

「あちゃーそんなに強い酒かねー?」

 急にバタリと倒れた光一を心配するファーナと頭に「?」を浮かべたメリニア。

 光一は真っ赤な顔をしたまま畳の上でスースーと寝息を経てまま眠ってしまっていた。ファーナは呆れのため息を漏らした。

「メリニアさん、コウイチさんはどうみてもお酒に強そうな人じゃないんですから……あまり強い酒を飲まさないでください」

「そんなに強い酒なのか……? 私には普通だとしか思えないんだが……ファーナ殿も飲んでみるか?」

「いりません!!」

 怒鳴って否定するもその大声で光一が起きる様子は無い。

 さらにため息を吐く苦労人ファーナ。「誰かいるか!?」姉のように腹から声を出すものの、出てくるのは可愛い声のみである。

「ハッ!! どうかされましたか?」

「この少年を適当な空き室に寝かせてあげてください」

「了解しました」

 兵士はその光一を背負い、そのまま部屋を出てゆく。

 後に残ったのはやはりファーナとメリニアの二人のみだ。

「あまり他人にお酒を勧めないでください。あなたの感覚と他人の感覚は違うんですから」

「そうなのか? 私はいつも同じくらいみんな酒が強いものとばかり思っていたが……わかった。これからは気をつけるとしよう」

 そう言ったと同時に徳利に口をつけ、ゴクゴクとお酒を飲んでゆくメリニア。

(本当にわかっているのでしょうか……)

 ファーナがため息を吐く。それはいつもの光景だ。

 だが、ファーナはそんないつもの光景を見ているよりも考えなければならないことが増えてしまったことに肩を落とした。

 普通に政をするだけでも大変なのにさらに厄介ごとが増えてしまったからだ。

 ため息を吐いて机へと向かう。

「おや? 仕事を始めるのか?」

「今日は姉さんが帰ってくるという事で急いである程度片付けましたので仕事はもうほとんど無いです。ただ……」

「やっぱりコウイチのことを気にしているのだな?」

「………………はい」

 シエナに言われた光一をファーメルの王にするという計画。正直言えばファーナは反対であった。

 一番大きな理由としては光一の人柄が分からないせいである。

 もしも悪人であれば王にしたときにファーメルは一気に瓦解、そのままヴェルガやイールドに国土は奪われてしまうだろう。

 もしも善人でも能力や、人徳、その他さまざまなものが無ければそれでもファーメルの未来はく暗い物となってしまうだろう。

 少女を悩ませる問題はあまりにも大きく、あまりにも重たいものであった。

「私はあの少年の事を信頼するよ」

 まるで姉のようなセリフを言うメリニア。ファーナにも分かっていた。

 メリニアとシエナは似た所があり、シエナが認めた人間は大体メリニアも認める。それは逆もまた然り。

 今メリニアがあの光一を認めたという事はシエナも少なからず彼の事を認めているということになるのだ。

「私にだってわかっています。いえ、分かってしまうというのが正直な感想です。コウイチさんはとても真っ直ぐで、良い人です」

「なら王にしたって良いんじゃないか? 今この国は王がおらず、国の中心が無くなってしまっているも同然な状況だ。早々に王を決める事を私は推奨する」

「わかってます……私にだって……」

 太陽は空の一番高い所へと上っていた。

 まだ光一の異世界初日は半分も終わってすらいなかった。……酔いつぶれて寝てはいるけど……。

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