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ヴェルガの牙  作者: ラグナウルフ
DATA01 異世界落下編
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ACT.007 ファーメルのお姫様

 それから二日ほど月日が流れた。

 光一の怪我もほぼ完治し(とんでもない回復力だった)、すでに床に伏せているのは逆につらい状況となっていた。

 シエナも何時間かに一度顔を出してきてくれる。まれに自分の作った料理なども運んできてくれた。

 そのたびに何故か男達に睨まれる光一だったが……今はもう特に気にしてもいない。

 二日経ったこの日、シエナから話を持ち出された。

「だいぶ怪我もよいようだな。なら、そろそろ私の屋敷に来ても大丈夫だろう」

「屋敷……ですか」

「私達姉妹が住んでいる館だ。このファーメルの一番の中心といっても過言ではない場所だ。来るだろ?」

「えっと、分かりました」

『いいえ』と言えない日本人な光一だった。気がつけばそのまま話は流され、彼女の屋敷へと赴くこととなったのだ。

 本当にこれでよかったのだろうか。光一は迷う。

 フィレディルカの人ではない光一がこの世界に来てしまった事には意味があるのだろうか。

 もしも来てはいけない人物なのだとしたら、シエナに迷惑がかかるのではないか。

 そういった迷いが彼の心を重くする。

 布団からはじめて出たとき、光一は眩暈を起こして少しふらついた。壁に手をつき、眩暈が治まるのを待つ。

「大丈夫か?」と心配顔で問いかけてくるシエナに大丈夫だと答え、壁から離れた。

 眩暈は本当に一瞬のもので、すぐに収まった。大きく深呼吸して心を落ち着かせながらこれからのことを考える。

(シエナさんの所にお邪魔するのが一番いいのかもしれない。俺はここでの生きるすべも持たないし、たぶんすぐに飢え死にしてしまうだろう。けど、命の恩人である彼女に迷惑をかけたくないのも事実)

「コウイチ? どうかしたのか?」

「い、いえ!! なんでもないです。にしても……服が……」

 光一が気にしているのは服のダメージである。

 ところどころボロボロで、さすがにみすぼらしい気がした。ちなみに、来ているのは学校の制服である学ランだ。

 この世界では学校というものは無く、勉強したい人のみ個人で開かれている塾のような所で勉強するらしい。まるで昔の中国や日本のようだな。そう思う光一だった。

「私の屋敷に男物の服もある。気にするな」

「そ、そうですか」

 現状に流されすぎている気がしないでもない光一だったが、さすがに断るのも気が引けるのだろう。

 とりあえずシエナの屋敷に行くということで決まった。

「にしても、シエナさんの服装、カッコいいですね」

「ん? そうか?」

 この世界にポリエステルなどがあるのかは分からないが、彼女の服はまるで地球のようにオシャレであった。

 襟のある少々濃い赤のジャンパーみたいなものを上に羽織り、その下にはラインの入ったブラウスのようなものを着ている。下は少々短めだが、プリーツスカートのようなものをはいており、ついているレースが可愛さを出していた。

 上は基本的にカッコいいのに、スカートは可愛いのだ。何故か少しギャップがあっていい服装だと光一は感じた。

 少し光一は笑っていたのだろう。シエナはほんのり頬を赤く染めながら「どこかおかしいか?」と聞いてきた。

「いいえ。普通に似合ってますよ」

「そ、そうか。それならいいんだが……」

 なぜだかシエナが無性に可愛く見えた光一だった。

「それよりも屋敷に行く準備とかは大丈夫なのか?」

「準備って言われても……俺は特に荷物もありませんし、このままで大丈夫ですよ」

「わかった。では行こうか」

「はいっ!」

 屋敷というフレーズで気になってしまうというのは光一もやはり男の子ということだろう。ちょっぴりワクワクしていた。

 その村から徒歩2時間弱。その時間をシエナとその部隊の兵士達20人程度と歩いていく。

 はじめてみる異世界の光景に光一は感嘆のため息を吐いた。

「こういった光景は珍しいのか?」

 ウェンズデイ草原と呼ばれるそこは草の多い茂る中で木が生えた特殊な草原であった。もっと木が多ければ草原というよりも森だろう。

 その木の隙間からの木漏れ日は優しく、特に蒸し暑さなども感じない。今の季節は何なのだろうか?

 夏ではない、冬でもなさそうだ。だとすれば春か秋だろうか。しかし、木々に色の変わった場所は無い。とすれば春か。

 その事を聞いたところ、シエナは「四季……とはなんだ?」と言ってきたので光一は驚いた。

「もしかしてフィレディルカに季節って無いんですか?」

「きせつ……いや、無いな。そもそも『きせつ』という言葉を私ははじめて聴いた。お前達はどうだ?」

「私も初めてですね」

「俺も聞いたことないっす」

「じゃあ季節の変化……つまり、とある時期に暑くなったり、とある時期に寒くなったりとかは……」

「無い。他の国は分からないが、ファーメルはずっとこのような感じだぞ」

「そ、そうなんですか……」

 空を見上げれば太陽と思わしきものが浮かんでいる。ということはここは地球のように何処かの天体なのだろうか。

 さまざまな推測が光一の頭に現われては消えてゆく。ここは地球ではない。そう考えることとした。

 四季が無いとすると地球ではどの辺りなんだろう……光一は終始そのようなことを考えながら歩いていた。

 やがて、町が見えてくると光一は目をきらきらさせながら叫ぶ。

「す、すげー……!!! こんなファンタジーみたいな場所なのか……!!!」

 ファーメルの王の住む町、グランファーメル。その一番奥にある大きな屋敷のような家がシエナの言っていた屋敷だろう。とにかく大きい。

 その屋敷から続くように街道が延びており、商人たちが忙しく商売をしている。

 あちらでは肉を売りさばき、またあちらでは見たことも無いような食べ物を売っており、童心のある光一はずっと興奮したままだった。

 その光一の様子に気がついたのだろうか。

 シエナは近くの店の黄色い実を二つほど買って着てくれた。

「食うか?」

「貰う」

 一つだけ貰い、どうやら皮ごと食べる果物のようで、そのままシエナはカリッとかじり始めていた。

 光一もガブリと噛り付く。風味は柑橘類に似ているが、甘さのほうが強く、酸味は少ない。蜜柑に似ているものの、中身の見た目はザクロに近い。

 ずっと普通の食事(驚くことに和食だった)を食べていたので果物を久しぶりに食べた光一は幸せそうな顔をした。

「これ、何て言う果物なんですか?」

「シンジェールだ。グランファーメルよりも南の方に行くと結構生っているらしい。私の好きな果実だ」

「そうなんですか。これすごくおしいです」

「喜んでもらえてよかった」

 先ほどから光一に突き刺さる兵士達の恨みがましい視線が痛いが、光一は気にしない方向で行くこととした。

(シエナさん人気者なんだろうなー綺麗な人だし、こんなにも優しいし)

 シンジェールと呼ばれる果物を食べている間に気がつけば屋敷の目の前まで来ていた。

 やはり女の子という事だろうか。光一はすでに食べ終わっていたが、シエナはまだあと四分の一ほど残っていた。

「さすがに食べるの早いな」

「まぁ、男の子ですし、果実なんて久しぶりに食べましたしね」

 この世界にピンポン(玄関チャイム)なんて存在しないので、そのまま入るようだ。

 門の所にはやはりというかなんと言うか、二人の兵士が立っており、シエナを見た瞬間に背筋ピィーンとさせた。そのまま

「「戦姫様!! ご帰還されました!!」」

(戦姫……?)

 疑問に思うが今はとにかく気にしないこととした光一。

 目の前の大きな門(高さ三メートルくらい)はゆっくりと開いていき、やがて全開になる。その門をシエナは歩いてゆく。光一も置いていかれないように着いていった。

 門をくぐった瞬間に庭師やら、庭にいた兵士達からいろんな視線で光一は見られた。

 興味の視線、威圧の視線、好奇の視線、ほんとうにさまざまだ。

 そして屋敷の目の前までたどり着くと、まるでRPGのような両開きの扉が目の前にあった。

 シエナの兵士たちが二人前に出て、その両開きの扉を同時に開いてゆく。

「「「おかえりなさいませ。お嬢様」」」

 扉をあけたとき、目の前には三人の着物を着た女性が頭をたれていた。

 それぞれ青、緑、薄い赤の着物を着ており、年も30代、20代、10代程度だろうと予想のつく年齢だった。

「誰なの?」という視線でシエナを見ると、答えは案外簡単に返ってくる。

「私の侍女だ。基本的に身の回りの世話をしてもらっている。ファーナは何処にいる?」

「部屋でお待ちです」

「分かった。これから向かうと伝えておいてくれ」

「わかりました」

 一番年配だと思われる青い着物の女性がそう言うと、緑と薄い赤の着物を着た少女たちがそれぞれの方向へと歩いてゆく。

 青い着物の女性は頭をたれたまま両手をシエナの前に突き出す。

 シエナはその両手に腰につけていた細い剣を渡して屋敷の中へと入っていった。

「あなた様もどうぞ、シエナ様について行って下さい」

「わ、わかりました」

 光一は地球でここまで恭しく扱われたことなど無いので思いっきり恐縮していた。

 シエナに着いて行き、さまざまな所を見回す。

 襖や庭の感じから見るとどうやらかなり和風の屋敷のようだ。玄関口は洋風だったので洋風かと思っていた光一だったが、少々肩透かしを食らったかのような気分であった。

 と、シエナはとある部屋の前で立ち止まり、壁を軽くコンコンと叩いた。

 部屋の扉にする行為だが、襖ではできないのだろう。和紙が張ってあるからだ。

「誰ですか?」

「私だ」

「どうぞ入ってください」

 襖を開け、中に入ると中では二人の女性が畳の上に座っていた。

 一人はシエナによく似た人で、髪は長く、シエナよりも4つか5つほど若く見える。

 もう一人はもう少し年配の人だろうか。光一と同じように黒髪で髪は長い。ただ、瞳は青く、一番の特徴といえばその胸か。

(でっか……)

 人間とは思えないほどの大きさに光一は驚いた。

「姉さん。そちらの方が異世界から来たという子ですか?」

「あぁ。そうだ。名前をコウイチ=ヤマモトというそうだ」

 どうやらシエナは光一が休んでいる間にその少女に連絡をいくつかまわしていたようだ。

 説明の手間が省けて助かると光一は思った。

「えっと、コウイチ=ヤマモトです。えっと……」

「私はファーナ=ファーメル。こちらはメリニア=セークリッドです」

「よろしく」

「は、はぁ、よろしくお願いします」

「姉さんもコウイチさんも座ってください」

「元からそのつもりだ」

「じゃ、じゃあ恐縮して……」

 ファーナと名乗る少女は幼いながらもかなりしっかりとした人物だなというのが光一の感想であった。

 だが、ファーナの視線はなぜだが光一を睨んでいた。光一は「?」と思いながらもファーナたちの説明を聞く事にした。

「で、姉さんはなんでコウイチさんを屋敷のほうまでつれてきたんですか?」

「あぁ、実は私に一つだけ考えがあるんだ」

 何故かすごく嫌な予感のする光一。こういった感覚の時は確実に面倒事が来るに決まっている。

 だが、いまさら逃げることは出来ない。光一は腹を決めてそのシエナの一言を聞く。

 それはあまりにも驚愕に値することで、ファーナもメリニアさえも驚かせる内容だった。

「私は……コウイチをこのファーメルの王とする事にした」

「「え…………えええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!???」」

「シエナ殿は思い切ったことをする……」

 叫び声は光一とファーナの分。メリニアは驚いているのか分からないような驚き方だった。

屋敷の内部構造をどうしようかと悩んだ結果、和風とさせてもらいました。

ACT.004で蝋燭の描写があったので、もともと和風だと考えていたんですけど……洋風の屋敷だと思っていた方はすいませんorz

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