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ヴェルガの牙  作者: ラグナウルフ
DATA01 異世界落下編
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ACT.003 少年とシエナ

「骨折の部分がかなり多かったです。他には頭のほうに少し傷が出来ていました。こちらはどうやら吹っ飛ばされた後に切った物のようです」

 村に着き医者に少年を見せるとすぐに手術すると言われてから2時間ほど。

 少年の手術は無事終了し、後遺症もなく完了したとのことだ。ただ、何故このような傷を負っているのかは分からないようだ。

「まるで巨大な何かに吹飛ばされたかのような傷でした」

「そうか……やっぱり何者かに襲われたのか」

「それと少年が着ていた服ですが、どうやら我々の着ているものとは少しタイプが違うようです」

 シエナはあの少年が着ていた服を思い出す。

 上下真っ黒に作られており、ボタンとなる部分には黄色いボタンが四つほど付いていた。襟はホックのような物でとめられており、襟に『書記』と書かれた何かしらバッジのようなものをつけていた。

 たしかにこの辺の人たちがあまり好まないような服装だ。

「一番のポイントはその生地ですが、これがどうやら我々の使う物とは異なっているようです。かなり光沢を放つもののようでして……」

「とりあえず、その少年に合わせてもらえないか?」

 医者は首を横に振った。

「まだ意識が回復していません。もう少し様子を見てからにしましょう」

「……分かった」

 シエナは椅子に深く腰掛けると瞳を閉じた。

 そこまで眠たいわけでもなかったが、休息は出来るときにしなければならない。瞳を閉じてからゆっくりと眠りに付いた。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 見渡す限りが闇。

 だが、そこから一歩も進めない状況に少年は焦る。

 一歩を踏み出そうとしても足は動かない。腕を伸ばそうにも腕が動くことはない。

 ただ見て、感じて、聞いて、それだけの感覚しか残されては居ない。

「…………ッ!!」

 しゃべることも出来なかった。ただ、息を呑むような掠れた音しか喉から発せられることは無い様ようだ。

 少年の体を襲う感情は恐怖、絶望、その他の負の感情ばかり。

 何が起こっているのかわからないからこそそんな負の感情ばかりが彼の体を襲う。

 不意に、向こう側から光がやってきた。

 闇を照らすような光、されどその光はとんでもない速さで少年のほうまでやってくる。

「……!?」

 闇を照らす光は少年の望んだものの一つ。だが、何故だか少年は逆に不安を抱いた。

 

 ――あの光は何なのだろうか?――と。

 

 人間よりも早く、馬よりも早く、そんなもの比べ物にならないほど早くその光はやってくる。

 それと同時にガアアアという音が響いていた。音も近づいてくる。光と同時に。

 何がなんだか分からない。少年に分かるはずもない。

 やがてそれは見える。

「―――!!!!!!」

 鉄の塊。そう称するのが一番しっくり来るかもしれない。

 それが少年の体を襲い、吹き飛ばす。

 少年はまるで蹴られたサッカーボールのように跳ね、そして三回ほど地面をバウンドした後に地面を滑ってゆく。

 それと同時にパッパーと遅すぎる警告の音。

 鉄の塊……車が、少年の体を吹飛ばし、とまることなくそのまま何処かへと走り去ってしまった。

(イタイ……痛い!! 痛い!! 痛いぃぃぃぃ!!!)

 今まで経験したことの無いような痛み。

 体中がギシギシと痛み、叫びだしたい衝動に駆られるも喉から声は出てこない。それどころか

「ごぶぅっ!!」

 逆に口から溢れ出るのは血のみだった。

 この瞬間に少年は自分の進む道がわかってしまった。どうすることも出来ないこの状況。

(俺は……死ぬのか)

 視界は霞んでゆく。もともと真っ暗だった世界が本当に闇に閉ざされようとしていた。

 少年が思い出すのは友達の顔、今までの楽しかった日々、死んでしまった両親、そして最愛であった姉。

(お姉ちゃん……ごめん……俺は先にお父さんやお母さんのところへ……)

 おとづれるのはまるで睡魔のような感覚。気を張らなければすぐに意識を手放してしまいそうな感覚だ。

 だが、少年はその感覚に抗えずに、意識を手放した。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「ん……」

 少年が呻いた時、シエナは心の底から安堵した。

(……何故私はこいつが生きていてよかったと思っているんだ……?)

 自らの感情の正体が分からず首をひねるシエナ。しかし、そんな疑問は吹っ飛んでしまった。

 少年の瞳が開かれようとしていたのだ。

 ゆっくり。ゆっくり。それで居て確実に少年は目を覚まそうとしていた。

 シエナは少年の顔を見るように身を乗り出し、少年の顔を見据えた。

 少年は珍しい黒髪の持ち主で、服は上下共に真っ黒な物。身長は少々低いが、特に気にならないレベル。顔は悪くは無かった。

 いや、逆に眠っている姿は少女のように無垢で、まるで穢れを知らなそうなほどに可愛かった。

「……んぅ……」

 少年の目が開き、そして、シエナの顔を捉えた。

 まだ合っていない焦点はゆっくりと合っていき、シエナの顔が確実に見えたであろう瞬間、少年が小さくつぶやくのをシエナは聞いた。

「おねえ……ちゃん……?」

「え……?」

 その一言にはさすがのシエナも動揺せざるを得ない。

 少年はその呟きを漏らした後にまたゆっくりと瞳を閉じて眠りに付いてしまった。

 今までのことが無かったかのような静寂がおとづれる。

「どうですか?」

「ひゃうっ!!」

「……ひゃう……?」

 唐突に後ろから声をかけられてびっくりしてしまうシエナ。あまりにも自分とは似ていないセリフに顔を真っ赤にしてしまった。

 後ろに立っていたのはあの医者のようで、ちょっと笑いながらシエナを見ていた。

「はは。あなたもそうやってビックリするんですね」

「な、なんでもないです!! それよりも、先ほどこの少年は一度目を覚ましましたよ」

「本当ですか。彼は何か言ってましたか? 怪我のこととか、何か他の事を……」

「……何も」

「そうですか……」

 シエナは嘘をついていた。

 少年は「おねえちゃん」とつぶやいたようだが、それを言うのは恥ずかしくてためらったのだ。

(な、なぜ私がこんなに恥ずかしい思いをしなければならないんだ)

 次に少年が目を覚ましたのは、それから約1時間ほど後のことだった。

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