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ヴェルガの牙  作者: ラグナウルフ
DATA01 異世界落下編
16/21

ACT.014 呪われた槍と一人の少女Ⅰ

 彼女は力が欲しいと願っていた。しかし、このような力など、臨んではいない。

「――――――ッ!!!!」

 叫び声は空に舞い、誰の耳にも届くことは無かった。いや、たとえ彼女の叫び声が世界に響いたとしても彼女を救ってくれる人は誰もいない。

 一人、誰もいない町を歩く。

 この村の人間はいない。この村の人間は全てその少女が一人で殺しつくしてしまったからだ。

 

 ――力――

 

 それは一種の破壊をもたらす力だった。力を望んだ少女が手に入れた力が破壊の力。

 力を願ったのはその国の人々を守りたいからなのに、自らの村を破壊してしまうなんて本末転倒ではないか。

 自虐的な笑みを浮かべる少女。その笑みはまるで壊れた人間のように美しく、それでいて危ない笑みだった。

 少女の手に握られるのは力。とある槍。その槍を手にしたのは数日前の事。本当に偶然手に入れた力である。

 その偶然が少女の守りたいものを破壊し、少女の夢を壊し、全ての村の人間を殺しつくしてしまったのだ。

「――――ッ!」

 叫ぶ。

 口から叫び声はすでに漏れず、ズタズタになった少女の喉からは金切り音しか漏れて来ることは無い。

 それでも少女は叫んだ。

『コロセ……コロセ……スベテヲオマエノテデ……コワシツクセ』

 槍から聞こえる声を振り払うように。少女は……叫んだ。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「レイラさまー」

 ここはヴェルガ領の中心に位置する城の中。そこではいつもレイラ=シンフィアが椅子に座り、妖艶な笑みを浮かべながら足を組んでいる。

 そんな彼女の後ろには常に影のように一人の男が仕えている。目隠しをした男――多くの兵士がこの男の事を嫌っている。

 それもそのはずだ。彼は自らの素性を何一つレイラ以外には語らず、レイラもその情報を他の者達に教えようとはしないのだから、その男はあまりにも情報が少なく、あまりにも不気味すぎるのだ。

 そんなヴェルガの城で王、レイラを呼ぶ暢気な声が謁見の間に広がった。

 謁見の間を警備している兵士達は「あぁ、いつもの子か」と若干ホッとした笑顔を浮かべながらレイラに走りよる一人の少女を見ていた。

 体に合わないブカブカとした服装に身を包んだオレンジ色の長い髪をした少女。見た目年齢はレイラと同じくらいに見える。それは言動やその他のものにも影響しているのだが、本人はあまり気にした様子は無い。

 レイラとこの少女はヴェルガでも幼女趣味の人間に好かれている少女達であった。(ただしレイラの場合はいろいろと怖いのでかなり影で支持されているようだが)

 その少女の名前をビィ=レセンティと言う。

「おや? きょうはアールさんはいないんですかー?」

「居ますよ、ここに。キヒヒ」

 アールとはレイラの影のように潜む目隠しされた男の事である。

 本名をアール=クィンツィア。全てが不明なとても危なそうな人間であり、暗殺部隊隊長である。

 隊長と言うだけあって気配を消すのは得意で、まれに人から認識されないこともあるが本人は全く気にしていない。当たり前だが。

「おぉう~いましたかー気がつきませんでしたよ」

「特に気配を消したつもりは無いんですがね……まぁ、職業病と言う奴かもしれませんね」

「それよりもビィ。私に何か用だったのでしょう?」

 少し微笑みながらそう問いかけるレイラ。あまりの妖艶さに彼女の身辺警護の兵士達はノックアウト寸前である。

 だが、ビィとアールはそんな物は知らぬとばかりに彼女の顔を見て会話をし始める。

「実はですねー。兵隊さんたちからのほうこくで、ファーメルのブレフィアあたりでなにやらおかしな事が起こっているとのことでーす」

「おかしなこと……? 村人でも消えたの?」

「全くそのとおりでございまーす。さすがです、レイラさま」

「オヤオヤ……しかし、その事もファーメルで起きたとなると簡単に手は出せませんね。どうします? レイラ様」

「アールは今回の事を【アレ】の仕業だと思うのかしら?」

「えぇ、えぇえぇ!! 私のこの目隠しされた【両の瞳】がうずくんですよ……ヒヒッ……確実に【アレ】がかかわってますよぉ。それにぃ」

「それに?」

「ここ数日前からファーメルでは特に目の反応がきついんですよぅ。ちょっと確認したい気持ちになりませんかぁ?」

「そうねぇ……」

 そのアールの言葉を聴いたレイラは足を組み替え、思考を開始した。

 彼女が思考をしている間はたとえ誰であろうと声をかけることは許されない。それがアールでも、ビィでもである。

 その時間中だけ彼女の城は静寂を撒き散らす。無音の空間が謁見の間に広がるのだ。

 やがて何かしらの答えが出たのか、レイラは先ほどと同じ足の組み方に変えながらアールの方を向く。

「これからファーメルのそのブレフィアに向かいましょう。あわよくば貴方のその瞳に強く反応する相手が現われるかもしれないわね」

「そうですか。では、どれくらいの兵を連れて行きますかぁー? さすがに敵地、襲われないとも限りませんし……ヒヒ。まぁ、私一人居ればレイラ様の身辺警護なんて事足りますけどね」

「そうですねー。今回は敵地と言うことを考え、レイラさまのつよさやアールさんのつよさを考えるとー……兵10といった所でしょうか」

「ではビィ。兵士10の選定は貴女に一任するわ。ファーメルに合った人間を10人選んで頂戴」

「ぎょいです~」

「アールは私と一緒にファーメルに行きましょうね」

「キヒヒ……腕がなりますなぁ……ヒヒヒ……」

 ヴェルガのレイラ達は準備にいそしむこととなった。

 

 ★☆★☆★

 

 その頃、ファーメルではヴェルガとほぼ同じような内容の伝令が着た所であった。

 ファーナの部屋に伝令が少々あせって入ってきたのを見て、一緒の部屋に居た光一は驚いた顔をし、シエナは表情を真剣なものにした。とはいえ、シエナはいつも真剣な表情をしているので違いはあまり感じられないのだが。

 兵士は持っていた伝令の物であろう紙を広げて中の文を読み始める。だが、シエナはそれに気がついていた。

 その伝令が持ってきたはずの紙の表面は血がついており、時間が経ったものであるためか黒く変色していたのだ。それに光一とファーナは気がついていないようだ。伝令の話を一生懸命に聞いている。

「ここから北方向にある村、ブレフィアで警備兵達の連絡が途切れたので視察者を向かわせた所、村には誰もおらず――いえ、全員の死亡が確認され、この伝令を送った次第であるということです」

「全員……死亡……ですか?」

「はいっ。この文書にはそのように書かれています」

 ファーナがちょっと青い顔をしながら伝令の内容を頭で繰り返す。

 さすがにこの内容はシエナも意外だったのかちょっと驚いた表情をしながらファーナの意見を待っていた。こういう時はまずファーナの意見を聞くことからはじめるのが一番良いとシエナは判断したのだ。

「判りました。とにかく原因把握のために少しだけ兵を送りましょう。貴方はブレフィアの地理に詳しい人10人程度を選定しておいて下さい」

「了解しました!!」

 そう兵士は叫んでファーナの部屋を出て行く。

 三人だけが残った部屋は少しだけ空気が重く、光一は出て行きたい気分になってしまう。

「にしても……村人全員が死亡するなんて、一体何があったんだろうか……?」

「あそこはヴェルガからも少し離れてますし、急に何かしらのことが起こるはずも無いんですが……」

「私が様子を見てこよう」

「「えっ!?」」

 この一言にはファーナも光一も意外だったのか声を上げて驚くしかない。

 何気にシエナはめんどくさがり屋で、あまり自らこういった事に声を上げようとしない。だが、今回は自ら声を上げたのだ。

「なにやら嫌な予感がするんだ。兵士達ではどうにもならないような……とても嫌な予感が」

「……わかりました。姉さんは選定された兵を率いてまず北西の村へ向かってください」

「北西? なぁファーナ。なんでブレフィアって言う所に真っ直ぐ行くんじゃなくて、北西の村から行かせるんだ?」

「これがもしもヴェルガの進行ならば北西の村もやられている可能性があるからです。あそこはヴェルガとの国境も近く、一番激戦地となりそうな場所ですから。そこを一度確認してからブレフィアに向かってください」

「判った。それと、コウイチを連れて行っても良いか?」

「へ? 俺!?」

 ファーナは少しだけ怪訝そうな顔をシエナに向けた。

 だが、すぐ何かしらの事に気がついたのか一つ頷き、「判りました」とシエナに返した。

(はぁ……面倒なことにならなければ良いけど……)

 しかし、光一のその願いは無残にも壊され、とても面倒なことに巻き込まれるのだった……。

ヴェルガの牙はこの「呪われた槍と一人の少女」のお話でプロローグ終了となります。この先はいよいよ戦争へと入っていくので、楽しみにしていてもらえると嬉しいです。



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