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ヴェルガの牙  作者: ラグナウルフ
DATA01 異世界落下編
14/21

ACT.012 少女と絵本とお勉強

 体に何箇所かあざが出来てからシエナに開放された光一。シエナがあそこまで強いとはさすがの光一も予想外だった。

 さらに兵士達の話ではメリニアとシエナはどちらが強いかわからないほどに同じくらいの強さを誇っているらしいではないか。

「この世界の女の子ってみんな強いのか……?」

 男として少々自信を失う光一。別に彼の中の信念が男尊女卑なのではなく、男として女の子を守れるくらいの力は欲しいと思っている。特にこの世界は今戦火に包まれているという。その中で自分の周りにいる女の子ぐらいは守りたいと思っていた。

 だが、今のまま戦いに出ても守るどころか、守られてしまうだろう。(そもそも出してもらえないかもしれない)

 もっと強くなりたいと思う光一だったが、先ほどの事を考えればシエナやメリニアには絶対に頼まない方が良いと感じた。

 筋肉痛のみならず、全身痣だらけになるなんて誰だって嫌である。

 まだ太陽は傾きだしたばかりで、まだまだ明るさを保っている。何をしようかなーと廊下をブラブラしていると気が付けばファーナの部屋の前だった。

 ドアがほんの少しだけ開いていたので、光一は好奇心から中をのぞく。

「………………」

 すごくまじめな顔で机に向かい、何かしら書類のようなものを書き上げていた。

 邪魔しちゃ悪いかな?と考える光一だったが、部屋の中に入っていった。ここまで考えた事となす事が反対な人間も少ないだろう。

「ファーナ?」

「えっ? あ、コウイチさん。どうされたんですか?」

 仕事であろう途中で声をかけても笑顔で返事をしてくれるファーナに癒されながら光一はファーナの書いていた紙を見ようとする。

 が、ファーナは見ようとしたのが分かったのか紙を咄嗟に隠してしまった。

「これは見てはいけません。この国の重大な書類なんですから……」

「えぇ~? 今の俺はもうほとんどこの国の一員じゃん。ちょっとくらい……だめ?」

「ダメです。国の一員がどうとかそういうことではなく、国の中枢である人の一部しか見ちゃいけない超極秘事項なんですから」

 そこまで言われると見たくなるのは普通の反応だと思われる。しかし、光一はここで見たいという気持ちをぐっと抑えた。

 ファーナに嫌われればこのファーメルにいる場所が絶対的になくなってしまうと感じたからである。

 何気にシエナとファーメル(メリニアさんは……どうだろうか)は兵隊達からかなりの人気を誇っている。この見た目だから仕方ない。

 美しくも可憐であり、プロポーションの良いシエナ派か。

 少女っぽくて胸も小さいが、世話焼きで妹タイプなファーナ派か。そのどちらかに分かれている。

 ちなみに、友達になった兵士にどっち派かと聞かれた光一は苦笑いを返しただけで答えはしなかったそうだ。

 だが、心の中ではどっちも好き……と言う優柔不断男まっしぐらな光一だった。

「ところでコウイチさん」

「ん? 何?」

「今朝言っていた勉強の話なのですが、今日の私の仕事はこれを渡せば終了なので、これから行いますね」

「なっ!?」

 思いっきり心の中で(しまったぁぁ!!)と叫んでしまった光一はさすがにその心の声を口には出さず、出来るだけ顔にも出さずに我慢した。

 正直よく我慢した方だとは思う。

 さすがに好意でやってくれるファーナに対してそんな事を言うほど光一は酷い男ではないのだ。

 しかし、その気持ちは少しぐらいファーナに伝わってしまったようで、ファーナは少々苦い顔をしながら微笑んでいた。

「えっと……ご迷惑……でしたか?」

 その顔にはちょっと悲しそうな色も混じっていて、男として光一は引けない事を悟る。

 顔に少しだけ笑みを浮かべ、心から大丈夫だと思わせるような顔を心がけながら光一はファーナに向き合った。

「ありがとう。迷惑なんて感じるものか」

「はいっ。じゃあすぐにこちらの仕事を終わらせますからね」

(ゆっくりでいいからね~~)

 心の中でつぶやいた言葉は誰にも届かないだろう。

 嬉しそうに笑顔で書類を作り上げていくファーナを見ていた光一はこれでよかったのだと思うことにした。

 いくら苦手な勉強でも、ファーナが笑顔になってくれるのならばかんばるしか無いと、まるで軟派な事を考えながら光一はファーナの部屋の隅に座り込んで彼女をずっと見つめていたのだった。

 見つめられているファーナの顔が赤い理由を考えようともせずに。

 

 

 正直なことを言えば、ファーナの仕事は驚くほどに早かった。

 残り少し程度に言っていた書類も集めてみれば紙の厚さが数センチに上るほどに多い。さすがの光一も目を(みは)った。

 そのままファーナは「少し待っていてください」と書類を持ったまま部屋を出ると何処かへと歩き去ってしまう。

 女の子の部屋に一人だけ。光一はそのような機会に恵まれたことにいろんな神様に感謝した。

 とはいってもこの世界の事だ。地球ほど女の子らしい物はないだろうと思っていた光一は先ほどから度肝を抜かされている。

 入った当初はファーナにばかり目が行って気が付かないが、彼女の部屋はとても可愛らしかった。

 日差しをさえぎるカーテンはピンク色で、ところどころに濃い桃色で水玉模様が書かれた地球っぽいデザインのカーテン。

 布団の近くには何処かのキャラクターみたいな狐の人形がいくつかおいてあり、色も黄色や青、これまたピンクなどさまざまな色がそろっている。光一の中の異世界像と言うのが少しずつ崩れ去っていくのを本人は感じてもいた。

 はっきり言ってしまえばフィレディルカはさまざまな文化、時代、歴史などを受け継いでいるようなのだ。

 まるで地球から派生したもう一つの地球(・・・・・・・)のような存在なのだ。

 光一は少しだけこのフィレディルカという世界の秘密に近づいたような気がした。

「すみません、遅くなりました」

 そう考えているうちにファーナは帰ってきた。

 いつものように赤を基調とした服装を着ているが、頬が少しだけ赤い。それに少し息が上がっているところを見ると、どうやら急いで着てくれたようだ。

 光一もそれには気がついたのだろう。

「ううん。全然気にしなくていいよ」

「はい。じゃあ勉強の方に移りましょうか」

「了解」

 ちょっとだけ本気で勉強しようと思うくらいには光一にはファーナの気遣いが嬉しかった。

 机は部屋に一つしかなく、それも背が低い、座布団に座って使うような机だった。これを使ってファーナはずっと(まつりごと)をしているらしい。

 光一は洋式の机と椅子に慣れてしまっていたためか、少々無理な体制になってしまっていたが、それでもしっかりと座ることが出来た。

 光一は胡坐。ファーナは正座。

 完全に男の子と女の子で分かれる座り方は日本に近いものだった。

「じゃあとりあえず勉強するにしたがって、この本を見てください」

 彼女の取り出した本はどうやら絵本のようで、表紙にはまるで少々絵の上手い子供の書いたような男の子が書かれている。

 どうやら冒険物のようだ。

「これは私が小さいときに字の書き方を習った本なんです。お話も面白くて、お父様からよくこれを使って勉強しなさいといわれていました」

「へぇ~じゃあシエナも?」

「はい。姉さんもこの本を使ってこの世界の言葉を習ったんですよ。では、勉強に移りましょう」

 ここからは少しフィレディルカの文字の話について語りたいと思う。

 まず、この世界の文字は昔の日本のように文語と口語が分かれていたりするわけではなく、全く同じように使われているらしい。

 つまり、光一の見たことが無い文章も読んでしまえば口語と大差は無いということである。

 光一が読めないといった理由はただ単にどの文字がどの言葉の意味になるかわからないせいである。それさえ覚えればもう文字はマスターしたも同然らしい。

 さらに光一には少しだけ嬉しい情報もあった。

 地球にはローマ字と呼ばれるものがある。特に日本ではローマ字から日本語に置き換えたり、または逆に日本語からローマ字に置き換えたりもする。

 その文字の形的にはハングルに似ているフィレディルカの文字だが、形式的にはそのローマ字に酷似していたのだ。

 ローマ字と酷似しているということは、日本語にも酷似しているということにもなる。

 つまり、Aから始まる母音の文字、A・I・U・E・Oと言う文字とその他の子音、K・S・T・N・H等々を組み合わせて作られるのがフィレディルカの文字と言うことだった。

 ローマ字も日本語も習得している光一はその為、フィレディルカの文字を習得するのは早かった。

 とはいえ、マスターするのもなかなかに難しい作業である。

 その文字がアルファベットのどれに該当しているのかをいちいち考えなければならないからである。

 そういった意味では結構辛い作業となった。

「にしても本当に早く覚えちゃいましたね……人間業じゃないみたいです」

「まぁ、俺のいた世界にも似たような文字はあったからね……実際おぼえることはそんなに無かったし、ファーナの教え方もうまかったからすぐ覚えちゃったよ。とはいっても、まだ完全に覚えたわけじゃないんだけど……」

「これだけ覚えていれば十分ですよ。それより、この本を一度読んでみませんか?」

「この本?」

 先ほど彼女が取り出した絵本、題名を『ラフィレイルの星』と言うらしい。

 その絵本は全四冊で、一冊目から起承転結でまとめられた本で、とても面白く、子供に聞かせる話としても優秀で、言葉の勉強にもなるらしい。

「にしても、ラフィレイルの星って一体どういう意味なんだ……?」

「ラフィレイルと言うのは伝説上に現われる勇者なんです。その方のなした偉業を書き綴られたのがこのラフィレイルの星なんですよ」

「あぁ……浦島太郎とか、桃太郎とかそういう類という事か……。さすがにまんま絵本だな」

「私も姉さんもこの絵本の最後の部分が一番好きなんです。だから最後まで読んでくださいね」

 笑顔でそういわれると何故だかそうしなければなら無いような気がしてくるから不思議だ。

 光一は少々苦笑いを浮かべながらファーナの差し出してくるラフィレイルの星を手に取った。これはまだ一巻。

 読む速度の遅い光一ではその分厚い絵本一冊読むのにどれくらい時間がかかるかはわからない。でも、光一の中でこれだけはやらなければならないと思った。

(絶対に……読破してみせる……)

 それが彼とファーナの約束だった。

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