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ヴェルガの牙  作者: ラグナウルフ
DATA01 異世界落下編
12/21

ACT.??? in the earth

ACT.???は基本的に本編とは関係の無い話です。

本編では語られない真実や、光一がいるフィレディルカの謎など、多くの伏線を張ったり、回収したりするお話となります。

しかし、それでも本編とはあまり関係ないので、本編を楽しみたい人は飛ばしていただいてもかまいません。

 暗闇の中で一人の女性が椅子に座っていた。

 その目はうつろで、前を向いているのに目の前の光景が見えているのかどうかすらも怪しい。

 彼女のいる場所は自宅。時間は午後3時。まだ明るい時間なのに真っ暗というのはカーテンを閉めて切っているせいである。

 彼女はカーテンすら開けないままずっとそこに座っていた。

 周りには彼女が食べたであろうコンビニ弁当……その中身は半分以上も残ってしまっていた。

 その女性の名は山本由香(やまもとゆか)。つい最近に最愛の人を亡くしたばかりの女性だ。

 そう……光一の姉である。

「また部屋を真っ暗にして……」

 突然、一人の女性が部屋に入って由香の部屋の電気をパチリとつけた。その女性に対しても由香は一瞥するだけで特に反応はしない。

 由香の状態を見たその女性はため息を吐き、散らばっているコンビニ弁当を片付け始めた。

 由香はただ黙ってその光景を見ているだけである。いや、焦点の合わない瞳で彼女が見えているのかどうかは怪しいが。

 その女性は由香の親友である橘加奈子(たちばなかなこ)だ。

 加奈子は由香の中学時代からの親友で、特に今の状態の由香を心配してこうして二日に一回くらいは様子を見に来てくれていた。

「ご飯もほとんど食べていないね……このままじゃあんたも死ぬよ?」

「…………それならそれで……いい…………」

「馬鹿なことを言わないで。あんたまで死なれたら私はどうすれば良いって言うのよ」

 小さくつぶやいた由香に反論する加奈子。

 だが、そういった態度をとっていた加奈子も由香の姿を見て沈黙する。なんと声をかけて良いかわからないのだ。

 いつもはそのまま片付けや洗濯、洗物をしたりして帰っていたが、今の由香の状態が治る気配は無い。

 もうこの状態が続いて三日目であった。

 葬式が終わったのは二日前、光一が死んでから翌日の事である。あまりの速さに加奈子も呆然とその話を聞いていたのを思い出していた。

 ――交通事故――

 光一は車に轢かれてそのまま亡くなったと言う事らしい。

 その車の運転手は轢き逃げで現在警察が追っているらしいが、現場は人通りの少ない場所らしく、捕まえられる可能性は低いらしい。

 怒りをぶつける先を失った由香はその怒りを自らにぶつけてしまった。だからこそのこの消沈状態だと加奈子は考えていた。

 あまりに最愛過ぎる弟を殺され、その相手すらもどうする事もできない。

 彼女の心を埋めているのは【絶望】しかない。

「買って来たコンビニ弁当……ちゃんと食べなよ?」

 加奈子はそういって部屋を出て行く。電気はつけたままだったのだが、数分もすると煩わしく感じた由香が近くのリモコンで消してしまった。

 また部屋には闇がおとづれる。まだ日は出ているので完全な闇にはならないが、それでも彼女にはその闇が心地よく感じた。

 足を抱えてただただ目の前を見つめているだけ。

 もしかしたら餓死をしてしまうかもしれないのに――いや、むしろ由香は餓死を望むかのようにコンビニ弁当に手を出さなかった。

 体的には空腹なのだが、気持ち的には食べたくないのだ。

「なんで……なんで……」

 由香の独り言はここ数日で何回も繰り返した問い。

「なんで……光一が死ななければならなかったのよ……ッ!!」

 彼女の心の中にあるのは【絶望】と【怒り】。

 最愛である弟を殺した人間と、そんな世界を作り上げた存在―神―に対する強い怒りの感情。

 いるかどうかもわからないそんな存在を殺してしまいたくなるほどには彼女の精神はすでに病んでいた。

『怨むの? 神を』

 不意に何処からともなくそんな声が聞こえた。

 それは幼い少女のような声で、まるで小学生が放ったような声で。

 自らの部屋を見回した由香はそんな部屋の中でひとりの少女を見た。

 銀髪と言うにはいささか光沢の無い白髪。白いワンピースのような服。まるで幽霊のように浮遊し、体が光に包まれた少女。

 あまりにもファンタジー過ぎる。

 最初由香は自らの精神が作り出した幻影だと思っていた。そうとしか思えなかった。

 だが、少女はあまりにもはっきりと、それでいて由香の目の前に確実にいる。

『あなたはコウイチを殺されて世界を怨むの?』

「えぇ……光一のいない世界なんて、私は認めない……!!! 滅んでしまえば良い!!」

『………………』

 悲しそうな顔をした少女に何故か由香は心を落ち着かせてゆく。

 まるでこの世の存在とは思えない少女だが、何故だか由香は少女のことを知っているような気がした。

 それは生き別れた母に会うような懐かしい気持ち。両の瞳から涙を流していることに由香は少し経ってから気がついた。

『あなたにはこの本を読む資格がある』

 彼女が手を掲げると出てきたのは茶色い本。

 ファンタジーな映画などでよく見る魔道書のような本である。

 その本を少女は由香に渡した。

『この本を読んであなたが何を感じるのかはわからない。願わくば、世界の真実にきがつかん事を……』

「えっ? ちょ、ちょっとまってよ!!」

 そのまま少女は現われたときと同じように唐突にパァァと消えてしまう。

 後に残ったのは由香だけ。

 まるで夢だったかのように後味の悪さは残るが、手元にある本は確かに彼女が渡したもの。あれは夢ではなかったのか。

 表紙はただ茶色い表紙に黒い文字でタイトルが書いてあるだけ。しかも英語だ。

「Fang of Veruga? ヴェルガの牙……?」

 それから彼女は電気をつけ、高鳴る心臓を押さえるかのように右手を胸に当てながら本を開いた。

【ヴェルガの牙】。そこにどのような事が書かれているのかを知っているのは未だ少女しか知らない。

 この本が何を意味しているのかも……少女しか知らない。

 だが、いつか由香は気がつくことになるだろう。この世界の真実に。

由香が貰った一冊の本。題名は【Fang of Veruga】。

この本に書かれている内容とは一体何なのか?

次のACT.???で少しだけ紐解かれる…………予定。



次からはいよいよ本編が盛り上がります。

シエナやファーナと仲良くなり始めた光一は町の人々や、兵士の皆さんと仲良くなっていきます。そんなある日、彼らの元に伝令がやってきて……。

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