ACT.000 奇抜な世界、フィレディルカ
この小説は戦争の悲惨さなどを描いた物です。
そういった描写などが苦手な方はお気をつけください。
そこまでアレな表現もないとは思いますが……。
いつもは美しい草原。そこは死で埋め尽くされていた。
鉄の鎧を着込んだ兵士同士が、己の武器を中心にぶつかり合う。
剣と剣が両軍の兵士の間で交差し、押し勝った方の刃が押し負けた方の体を切り裂く。
まるで人間が作ったとは思えないほどの景色がそこには広がっていた。しかし、そんな景色もこの世界ではいつもの事だ。
剣と剣が打ち合い、槍と槍が横行し、矢と矢が空中で交差し、馬がその死体を踏み抜いていく。
―戦争―
そう。これは血を地で洗い流す"戦争"と呼ばれる物。
やられた兵士の体からは血が流れ続け、勝った兵士はさらなる血を求めて戦い続ける。
最初は死にたくないから戦っていた兵士も、今では血を求めるためだけに戦い続ける――いわばバーサーカーのような――狂戦士となってしまっていた。それが戦場の臭いであり、戦争なのだと思いしらされる。
だが、そんな世界で場違いなほどに美しい少女が居た。
赤い甲冑を身にまとい、その色と同じように……いや、むしろその色とは全く似ていないほどに美しい赤髪をした少女。
彼女は今、瞳を閉じて何かを感じ取っているかのようにも見える。
彼女は何を考えているのだろうか。隣に居る兵士はそう考える。
彼女はこの戦場で一体何をするのだろうか。さらにその隣にいる兵士は考える。
やがて少女はその双眸を見開いた。髪と同じように透き通るような赤い色をした瞳は戦場を見つめている。
戦友が敵の兵士を殺し、敵の兵士が仲間を殺す。そんな光景を目に焼き付ける。
すぅ……と小さく息を吸い、体の底から声を張り上げながら彼女は走り出した。
「私の名はシエナ=ファーメル!! ファーメルの第一姫なり!! 私に敵うと思うものは……」
走る。周りの兵士もシエナに負けじと走るが、少女の速度には追いつけない。少しずつ兵士達とシエナの距離は開いていくが、シエナはそんな事お構いなしで走り、腰につけた細く白い剣を抜き放って右手に構えた。突進の構えを見せていると何人かの兵士が敵味方問わずに気が付いていた。
「戦姫はこの俺が討ち取る!」
そのシエナの突進の道をふさぐように一人の妙に黒っぽい鎧を着た男が現れる。
走っている最中に級に目の前に現れたのだ。彼女が速度を緩めなければ大変な事になると男は考えていた。
だが、シエナは速度を緩めることなく、逆にさらに速度を上げて男に肉薄し、小さく笑った。
「フッ……」
「はぁっ!!」
兵士の剣がシエナを両断しようと真っ直ぐに落ちてくる。そのままいけば斬られる。
黒っぽい鎧を着た兵士は自らの勝利を確信して口元をニヤつかせた。しかし、少女の笑みも消えることはなかった。
いや、むしろ笑みが消えたのは男の方だった。
シエナは男の剣を避けた。避けられるはずのない速度だと誰もが思う速度で、落ちる木の葉に刃を向けたみたいにスルリと避けたのだ。
そしてシエナの剣は真っ直ぐ男の首を貫く。
「その程度の剣技では私を切ることはできない。残念だけど、君の人生はここで終わりだ」
突き刺した剣を抜くと同時に兵士の首から大量の血があふれ、そのままバタリと倒れこんだ。
首を貫いただけ。息も出来ず、苦しそうに痙攣する男を悲しそうな瞳で見下げるシエナ。
その光景を見た味方の兵士が騒ぎ出す。
「うぉおおお!! 戦姫様が着てくれたぞ!! これで我々は勝てる!!」
「さぁ来い! ヴェルガの兵士共!! 戦姫のいるわれらファーメルに勝てると思うなよ!」
膠着し始めていた戦場は動き出す。
シエナの登場によりファーメル軍の士気は上がり、ヴェルガ軍を押し始めた。
「行け!! 私たちの平穏を取り戻すために……我等の領土を侵すヴェルガの兵士共を生かして帰すな!!!」
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
シエナの登場により、この争いはファーメルが勝利を収める形で終結したのだった。
「ふふ……やはり戦姫の名は伊達じゃないって言うことね」
ヴェルガ領の中心に位置する都、その都のさらに中心に位置する城に一人の少女が座っている。
座っている場所は王の謁見の間と呼ばれる部屋。その椅子に座っている少女こそヴェルガの王であるレイラ=シンフィアだ。
「キヒヒ。次はどうされますかー? レイラ様」
そんなレイラの隣で一人の男が嗤っていた。
その男はまるで骨と皮しかないように体中から骨格が浮き出ており、長身のためかまるでヒョロっとした感じを受ける。さらに少々体がフラフラとしているためかなにやら危ない雰囲気を受けてしまう。いや、危ない雰囲気を受けるのは何もその行動だけではない。その男は目を黒い布で覆い、目隠ししているのだ。それなのにまるで全てが見えているかのように少女、レイラのほうを見ていた。
だが、危険な雰囲気と言えばレイラもそうなのかもしれない。
見た目は12歳くらいの少女なのだが、その表情はどことなく大人びて見える。
まるで男を誘う淫魔のように妖艶な笑みをしており、男とは別の意味で危険な雰囲気を醸し出していた。
「まだよ。先の戦いはただ彼女達の力を見たかっただけ……。今のままではまだまだあたし達に勝つことは出来ないわ。むしろすぐに勝負はついてしまうでしょうね」
「ほほぅー。全ての国を併合し、新たな国を作ろうとしているあなたがなぜそんなに争いにこだわるのかな?」
「そうね……単なる……」
レイラは目を閉じて言葉を紡いだ。
「単なる……暇つぶしかしら?」