第8話
『今です』
メティスが言った。
俺は叫ぶ。
「ヘルメス、全リミッター解除!」
黄金の翼が、眩しく膨らむ。
アイギスが目の前に迫る。
装甲の段差。
厚い板。
撃たれるための壁。
『接触座標、Z-402。装甲表面、接触まで3秒』
「分かった!」
俺は機体を落とす。
落とすというより――“沈む”。
重力の泥沼へ、身体ごと引きずり込まれる感覚。
でも。
今だけ、浮ける。
俺は最後にスラスターを噴かした。
そして――
衝撃。
ズゥゥゥゥン……!
……いや。
これは、激突じゃない。
着地だ。
ヘルメスが、アイギスの装甲に“乗った”。
艦橋がざわめく。
『艦長! ヘルメスが艦体に――!』
艦長の声は揺れない。
『予定通りだ。耐えろ』
アイギスが揺れる。
だが、崩れない。
崩れないからこそ――反作用が生まれる。
『今です、ハルト。全エネルギー、推進器へ』
メティスの声が鋭い。
俺は息を吸う。
「……抜ける」
そして叫ぶ。
「ぶっ飛べえええええええっ!」
ドォォォォォン!
蹴る。
押し返す。
泥沼が、縦に裂けた。
あり得ない初速。
“動かぬ巨体”を支えにした、爆発的加速。
ヘルメスが、重力の檻を――穿つ。
視界が開ける。
宇宙が戻る。
息ができる。
『突破。重力圧、低下』
メティスが言う。
『……生存、確認』
その一言が、珍しく弱くて。
俺は笑ってしまった。
「当たり前だろ。まだ終わってねぇ」
敵の中心が見える。
赤い残光も見える。
そして――
0.003秒の“穴”を、狙える位置に来た。
『排熱ポート、予測開始』
メティスが言った。
『次の再生に合わせて――楔を打ち込みます』
俺は照準を合わせる。
盾が時間をくれた。
俺が、決める番だ。




