第7話
敵が変わった。
嘘も、再生も、止まらない。
だから次に来たのは――“力”そのものだった。
空間が、沈む。
一瞬で分かった。
これは砲撃じゃない。
回避も、防御も、概念ごと潰すやつだ。
『重力波、検知。局所的重力定数、急上昇』
メティスの声が速い。
ヘルメスの機体が、いきなり重くなる。
スラスターを吹かしても、前へ進まない。
むしろ引き戻される。
「……動かねぇ!」
『重力の泥沼です。推力が“沈む”』
俺の視界が狭くなる。
胸が圧迫される。
エリュシオンの寒さとは別の、息苦しさ。
敵艦隊が、さらに包囲を縮めた。
『狙いはヘルメスではありません。アイギスです』
「盾を止める気か」
『はい。盾が機能しなくなければ、宙域は開く』
アイギスが――沈む。
巨体が、宇宙で“沈む”っていう矛盾。
でも現実に起きている。
艦橋が叫ぶ。
『艦体各所、重力圧力増大!』
『フィールドが“押し潰される”!』
艦長の声が入った。
『アイギス、前へ。艦体傾斜、最大』
「前へって……動けてないのに!」
『動けなくても、壁にはなれる』
メティスが言う。
次の瞬間。
アイギスの艦体が、ぎりぎりと歪んだ。
装甲が、悲鳴を上げる。
それでも。
巨体は、俺の前に“立った”。
静止した城壁。
宇宙なのに、城壁。
「……艦長」
『ハルト。矛は折れるな。盾が立っている間に、答えを持ってこい』
答え。
0.003秒の排熱ポート。
でも――今は狙えない。
動けないから。
『ハルト。提案があります』
メティスが言った。
『あなたの推力では、泥沼から抜けられません』
「じゃあどうすんだよ」
『“地面”が必要です』
「地面?」
『反作用を得るための、接地点』
俺は理解してしまった。
そして、信じられなかった。
「……まさか」
『アイギスの装甲表面を――蹴ってください』
俺は目を見開く。
「アイギスを蹴れって?」
『はい。重力波には周期があります。“谷間”が来る』
『その瞬間に蹴れば、反作用と推力が同期し、泥沼を裂けます』
艦橋の声が震える。
『艦長、ヘルメスが……接近する!?』
艦長が即答する。
『許可する。俺が壁になる。ハルト、やれ』
短い。
でも、その短さに全部入っている。
俺は操縦桿を握る。
「メティス。時間は?」
『臨界まで、十五秒』
「十分だ」
『……3、2、1――』
世界が、少しだけ軽くなる。
谷間。
今だ。




