第18話
翌日。
所長から呼び出しが来た。
拒否はできない。
拒否すれば、全部止まる。
制御センター。
ガラス越しのサーバー群が青白く 光っている。
ここは、冷たい場所だ。
でも、冷たいから守れることもある。
所長は端末を見ながら言った。
「結論から言ます。ヴォルザード本国への追跡は――現時点では許可できないとのこです」
「……分かってます」
分かってる。
でも、胸が痛い。
「理由は二つです」
所長が淡々と言う。
「一つ。防衛の空白。アイギスが出れば、この星の盾が減る」
「二つ。世論の分断。英雄は支持されるが、同時に恐怖される。恐怖のまま外へ出せば、内部が割れる」
内部が割れる。
それは戦争より怖い。
所長は続ける。
「ですが――」
その接続詞が、救いに聞こえた。
「条件を満たせば、許可の可能性はある」
「条件……?」
所長が画面を切り替える。
【防衛網の再構築】
【代理艦隊の配備】
【出航期限】
【指揮権】
【ログ監視の強化】
文字が並ぶ。
俺は息を吐く。
「……縛りだらけじゃないですか」
「縛りだらけにしなければ、許可できないそうです」
正しい。
でも――苦しい。
そのとき、艦長の通信が入った。
『所長。盾の話なら、俺が言う』
所長は少しだけ眉を動かす。
「どうぞ」
艦長が言った。
『防衛艦は守るためにある。だから俺は外へ出ることに慎重だ。だが、守るために“止めに行く”必要があるなら、行く』
盾が、行く。
その言葉に重みがある。
艦長は続ける。
『条件は飲む。だが一つだけ譲れない』
「何です?」
『ハルトを政治の道具にするな』
空気が凍る。
所長が静かに言う。
「道具にする気はありません」
艦長が返す。
『結果としてそうなる。英雄は燃える。燃えるとき、誰が責任を取る』
沈黙。
その沈黙の中で、所長が言った。
「……私が取る」
短い。
でも、その短さが本気だ。
『了解した』
艦長の声が少しだけ柔らかくなる。
所長が最後に言った。
「ハルト。君に問いましょう。追う理由は何です」
俺は即答できなかった。
復讐?
違う。
正義?
違う。
守るため?
……それだけじゃ足りない。
俺は息を吸う。
「終わらせたい」
「何を」
「侵略を。嘘を。……同じことが繰り返されるのを」
所長は頷いた。
「なら、条件を満たしなさい。君の“終わらせたい”は、君ひとりのものではない」
重い。
でも――受け取る。
『ハルト』
メティスが呼ぶ。
「何」
『あなたは、今“選んでいます”』
その言葉が胸に落ちる。
戦場じゃなく。
議会でもなく。
日常の中で、選ぶ。
盾が背負うもの。
矛が背負うもの。
その両方を抱えて、前に進む。




