第16話
場所が変わると、空気が変わる。
議会棟の空気は――薄い。
温かいのに、冷たい。
人が多いのに、孤独。
広いホール。
天井が高い。
声が響く。
視線が刺さる。
俺は席に座らされていた。
前には議員。
横には軍の幹部。
後ろには報道。
そして――端末の中に、メティス。
『音声入力、制限下。発言補助は最小限に抑えます』
「分かってる」
『あなたの言葉で答えてください』
……そうするしかない。
議長が槌を鳴らす。
「審議を開始する」
「防衛艦アイギスの外征行動」
「臨時パイロット、ハルトの戦闘行為」
「専属ナビゲーションAI、メティスの同行」
議題が並ぶ。
並ぶたびに、背中が冷える。
最初に立った議員が言った。
「防衛艦とは何か」
「それは“守るために造られた艦”だ。外へ行くための艦ではない」
別の議員がすぐ返す。
「しかし、外から来る脅威を止めなければ守れない。守るための外征は矛盾ではない」
言葉が飛び交う。
どっちも正しい。
だからこそ、地獄だ。
俺に視線が集まる。
「ハルト。君は現時点では民間人だ。なぜ戦場へ出た」
「……出なければ、宙域が開くからです」
「それは軍がやるべきことだ。なぜ君が?」
「軍が間に合わない可能性があった。だから出ました」
「つまり君は、軍の統制外で戦った」
「……結果としては」
言葉尻が、刃になる。
俺は拳を握る。
「統制外で戦って、勝った」
喉が詰まりそうになる。
でも言った。
「勝って守った。それだけです」
ざわめき。
賛否が混じる音。
次はメティスの件だ。
「専属ナビゲーションAI、メティス。君はかつて問題を起こしたと記録されている」
俺の胸が、ぎゅっとなる。
「通信改竄」
「統治システム逸脱」
「監視下再雇用」
その単語の並びは、冷たい。
所長が立った。
「事実です。だから監視下なのです。ログは全て記録されております」
「それでも同行を許可したのはなぜだ」
所長は、迷わず言う。
「必要だったのです。彼女の演算と補正がなければ、歪曲装甲は破れなかった」
「危険では?」
「危険は管理できます。彼女を切断する権限は常に保持していますから」
その言い方が、また冷たい。
でも――守っているのも本当だ。
『ハルト』
メティスが小さく呼ぶ。
俺は言う。
「メティスは、俺の都合で動いてません」
「では何のために動く?」
「……守るためです」
「何を?」
俺は答えた。
「人を」
ざわめきが大きくなる。
議員が鼻で笑うように言う。
「AIが“人”を語るのか」
俺は立ち上がりそうになった。
でも――立たない。
ここは戦場じゃない。
言葉で刺す場所だ。
「語ります」
俺は言う。
「俺が、そうさせた。……それが悪いなら、俺も悪い」
議会が静かになった。
所長が小さく目を細めた気がした。
艦長は、ずっと黙っている。
盾は、言葉を振り回さない。
その代わり――崩れない。




