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ハルトⅡ -眠る帝国と、避難船メティス-  作者: ユウギリ
【第4章】:許されない出航
15/24

第15話


 帰ってきた。

 守った宙域(ばしょ)へ。


――なのに、胸の奥が軽くならない。


 勝利って、こんなに重かったっけ。

 港が見える。

 テラ・オリエナの宇宙港は明るい。

 照明が多い。人が多い。音が多い。

 エリュシオンの静けさを思い出して、少しだけ息が詰まった。


『心拍、上昇』


 メティスの声。


「言うな」

『言いません』

「言ってる」

『事実の提示です』


 いつもの調子。

 それだけで、少しだけ救われる。

 着艦。

 ハッチが開いた瞬間、空気が違った。

 熱い。

 湿ってる。

 生きてる匂いがする。

 通路の先に、報道ドローンが浮いていた。

 光るレンズ。

 赤いランプ。

 そして――人。

 拍手。

 歓声。

 手を振る人たち。


「英雄だ!」

「ヘルメスだ!」

「よくやった!」


 俺は立ち止まった。

 嬉しい。

 ……のに、怖い。

 拍手って、こんなに鋭いものだったっけ。


『視線数、増加。あなたへの注目度が急上昇しています』


 メティスが淡々と言う。


「頼むから実況すんな」

『必要です。あなたは今、象徴になっています』


 象徴。

 それは、人を救う。

 同時に、人を燃やす。

 その瞬間、別の声が混じった。


「でもさ……防衛艦が外に出たんだよな」

「守りが薄くなるってことじゃないの?」

「次も来たらどうするんだよ」


 拍手の中に、細いひび。

 俺の背中が冷える。

 勝ったのに。

 守ったのに。

 “怖がられてる”。


『世論が分岐しています』


 メティスが言う。


「分岐って言い方、やめろ」

『やめられません。現実です』


 現実。

 ……そうだ。

 現実は、気持ちよく終わらない。

 人波の先に、艦長が立っていた。

 エルンスト艦長。

 相変わらず背が高い。

 相変わらず目が硬い。

 でも、今日は少しだけ――疲れて見える。


「ハルト」


 艦長が言う。


「よく戻った」

「艦長も」

「俺は盾だ。折れなければそれでいい」


 その一言が、妙に胸に刺さる。

 盾は、折れないことが価値。

 でも――削られることは前提。

 削られ続けた先に、何が残るんだろう。

 所長もいた。

 コンピューター制御センター所長。

 拍手の中でも、表情が動かない。


「ハルト。臨時任命は解除済みです」

「了解です」


 所長は短く頷く。


「……ですが、話は終わっていない」


 俺は分かってる。

 艦隊が撤いた。

 でも、ログが残った。

 そして――世論が割れた。

 所長は続ける。


「これから審議が始まります。君は“英雄”として呼ばれることになります。ただ同時に、“危険因子”としても呼ばれることになる」


 危険因子。

 喉が鳴る。


「俺は……守っただけです」

「だからこそです。英雄は、恐怖の対象にもなる」


 拍手がまだ続いている。

 でも、その音が遠い。

 まるで、透明な壁の向こう。


『ハルト』


 メティスが呼ぶ。


「何」

『あなたは、拍手に慣れないでください』

「……は?」

『拍手は、簡単に反転します』


 その言い方が、妙に優しかった。


「……分かってる」


 俺は言う。


「でも、俺は逃げない」


 艦長が短く言った。


「よし」


 所長が言う。


「であるなら――耐えてください」


 勝った。

 でもここからが、別の戦い。

 人の中で戦う戦い。




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