第14話
戦いが終わる瞬間は、派手じゃなかった。
旗艦が落ちたあと。
残りは、崩れるだけだった。
敵艦隊は散った。
逃げる。
捨てる。
置いていく。
いくつかは沈む。
いくつかはワープ反応を残して消える。
アイギスが前へ出る。
盾が、勝ちに行く。
『撤退を確認。追撃は最小限。民間宙域、安全圏へ復帰』
艦橋の報告。
艦長の声。
『よし。――守り切った』
その一言に、力が抜けた。
俺は操縦桿から手を離し、深く息を吐く。
『呼吸が安定しました』
メティスが言う。
「……うるせ」
『うるさくありません。生存の確認です』
「……生きてるよ」
『はい』
短い。
でも温かい。
艦内に戻る前に、所長から通信が入った。
『ハルト。戦闘終了を確認しました。臨時任命はこれで解除されます』
「了解です」
『……よくやってくれました』
たったそれだけ。
所長が褒めるのは、珍しい。
でも次に続いた言葉で、空気が変わった。
『回収班が敵残骸から“記録コア”を回収しました』
記録コア。
遺体じゃない。
データ。
俺の胸が、ざわつく。
メティスが先に言った。
『それが“ログ”の本体かもしれません』
「さっきの同期命令の?」
『可能性が高い』
所長は続ける。
『解析は我々が行います。ただ、メティスの協力が必要です』
メティスが静かに答える。
『了解。命令系統に従います』
その返答はいつも通り。
でも、俺には分かる。
メティスは“怖い”。
捨てられる怖さを、知ってるから。
俺は言う。
「メティス。大丈夫だ」
『大丈夫、の定義が曖昧です』
「じゃあ定義してやる」
俺は息を吸って、言い切った。
「お前は、ここにいる。俺の相棒だ。勝手に消えたりしない」
沈黙。
そして。
『……了解』
その一言が、小さく震えた気がした。
回収されたログの断片が、表示される。
文字列。
同期命令。
集合体の更新。
『……これは』
メティスの声が、少しだけ低い。
『“個人”の会話ではありません。“群れ”の命令』
「群れ……」
『まるで、人格のバックアップが集まっているような――』
言いかけて、メティスが止まる。
俺は言う。
「ヴォルザードの本国……何なんだよ」
答えは、まだ無い。
でも“種”は残った。
勝ったのに終わらない。
守ったのに、次が来る。
そして、それは戦場だけの問題じゃない。
艦内の空気が、変わっていくのが分かった。
「防衛艦アイギスが外へ行くのか」
「守りは誰がする」
「また空を失うのか」
勝利のあとに来るのは、祝福だけじゃない。
“責任”だ。
艦長が、最後に言った。
『ハルト。お前は矛として、役目を果たした』
一拍置かれる。
『だが、これからは“選ぶ”仕事が始まる』
選ぶ。
守るだけじゃない。
進むか、留まるか。
敵の本国へ向かうのか。
テラ・オリエナに残るのか。
俺は窓の外を見る。
青い空は、ここには無い。
でも、あの青を思い出せる。
だから俺は、決める。
「俺は――終わらせたい」
『終わらせる、ですか』
メティスが言う。
「侵略を。嘘を。……この戦いを」
メティスは少しだけ目を伏せた。
『あなたの“守る”は、やはり広い』
「当たり前だろ」
俺は笑う。
「ここまで来たんだ。逃げない」
勝利は、終わりじゃない。
勝利は、扉だ。
その扉の向こうに――
ヴォルザード本国がある。




