第13話
光条が、置かれる。
今までとは違う。
逃げ道が無いんじゃない。
逃げ道を“作らせない”配置。
『回避ルート、消失』
メティスの声が短い。
「だったら――」
俺は息を吸う。
「突っ込むしかない」
『あなたの生存確率は低下します』
「分かってる」
俺は操縦桿を握る。
「メティス」
『はい』
「計算はいい。やることだけ言え」
沈黙。
そして、メティスが答えた。
『……了解。あなたの“デタラメ”を、最短で“必然”に変換します』
「それでいい」
旗艦の赤点が、瞬く。
『歪曲演算が射撃へ割かれています。嘘が薄い。今だけ“本体”が近い』
「なら――今だ!」
俺は加速した。
正面から。
逃げずに。
光条が迫る。
避けない。
ずらす。
ほんの少しだけ。
死なない程度に。
コクピットが白くなる。
警告音。
痛み。
でも――止まらない。
『熱放射ノイズ、上昇。再生が“集中”します』
メティスが言う。
『旗艦は、あなたが刺した楔を抜こうとしている』
「抜かせるかよ!」
俺はさらに撃つ。
一発。
二発。
赤点へ。
火花。
裂け目。
そして――再生が始まる。
溶ける。
繋がる。
戻りかける。
その瞬間だけ。
“穴”が開く。
『0.003秒。――今』
世界が止まる。
俺はトリガーを引いた。
狙いは装甲じゃない。
狙いは“穴の奥”。
楔の先。
旗艦の心臓。
――貫いた。
衝撃が、遅れて来た。
旗艦全体が震える。
光条が、一瞬だけ消える。
嘘が、揺らぐ。
再生が、途切れる。
『命中。中枢反応、低下。エーテル・ドライブ、停止』
メティスの声が、はっきりと熱い。
「よし……!」
だが。
次の瞬間、旗艦が最後の抵抗を見せた。
重力が、沈む。
『重力波干渉、急上昇!』
メティスが叫ぶほどの速さになる。
「まだ来るのかよ!」
空間が重い。
身体が沈む。
近づけば圧壊する檻。
でも。
今の俺は、近づく必要がない。
もう刺した。
もう止めた。
あとは――落ちろ。
『旗艦、構造崩壊を開始』
メティスが言う。
『歪曲停止。像が消失します』
嘘が消える。
本体が、むき出しになる。
その巨体が、裂け目から崩れ落ちる。
火花。
爆ぜる光。
宇宙に、静かな崩壊が広がる。
アイギスの通信が入った。
『少年! よくやった!』
艦長の声が、初めて少しだけ揺れる。
『盾はまだ立っている。――今度は、こちらが押し返す!』
旗艦が落ちた。
艦隊の芯が折れた。
敵の隊列が乱れる。
撤退の動き。
勝った。
……勝った、はずなのに。
メティスが言った。
『通信断片を捕捉』
「何だ?」
『会話ではありません。……同期命令です』
背中が冷える。
敵は“人”じゃない。
でも今は。
今だけは。
勝利を掴むことに専念する。




