いつもと違う姿に緊張する先輩
明日は土曜日、やっと休みが始まる。就業時間はまだ始まったばかりだけど、明日の約束が楽しみで、仕事に身が入らなくて気もそぞろになってしまう。私がこんなにソワソワしてるって、あの子が知ったら恥ずかしい、なんて考えて。それでも、あの子に会える時間が増えることは、私にとっては、秘密だけれど、幸せなことで。
「あの、先輩。今週末、お時間ありますか??」
「え?今週末って、金曜日?ええ、スケジュールは空いてるから、特に問題はないわよ?」なんの仕事を相談したいか、考えながら答えたけれど。
「違います、違います。私も言い方、悪かったですね。あの、土曜日か日曜日、どちらかお時間空いてたりしますか?もしよろしければ、新しく出来た隣町のアウトレットにご一緒したいなって。」
「え?えぇ、土曜日なら何も予定がないから、何時でも大丈夫よ。」
「ほんとですか?やった!それなら、お昼もご一緒したいので、10時とかに駅前に待ち合わせ、したいんですけどいいですか??」うるっとした上目遣いに聞いてくるあの子、前髪がサラッと目にかかる姿が可愛い、なんて思いながら、休みに会えることが嬉しくて、「えぇ、もちろん、大丈夫。」と即答した。
ああ、早く、仕事が終わって、当日にならないかしら。。。
やった!先輩と一緒にお出かけ。大胆だけど、早く先輩に会えるように、先にお昼も一緒にしたいって、誘ってみたら、オッケーをもらえて、すごくしあわせ!!こんなに全てが上手くいくなんて、やった!嬉しい!!当日が楽しみで、今から仕事が手につかないな、、、
土曜の朝、あの子から電話が入った。「おはょーございます、先輩…」少しガラガラした声で、話すあの子。ああ、これは、あの子大丈夫かしら、って。あの子、もしかして、、、って思ったから。「大丈夫??風邪引いたんじゃない?声、辛そうよ?」
本人を見たわけじゃないけれど、勝手に掛け布団に手をかけながら、しっかりスマホを右手で耳に当てるあの子が目に浮かんで。身体が辛そうなあの子を想像してしまって。「すみません、先輩。ちょっと熱が出てしまって。。。今日、お出かけは中止にさせてもらっても良いですか??折角ご予定を空けてもらっていたのに、すいません…」「良いも悪いも、そんな体調で行けるはずもないでしょう?貴女は私の予定なんて気にしないで安静にして寝ていなさい。」ちょっと、説教くさくなってしまったかしら、なんて思いながら、あの子を心配してしまう。だから、これはきっと動揺した私の気の迷いだったんだろうと後にして思ったけれど、この時はそんなことまで考えられなくて。ただ、いつも元気なあの子の体調が、よろしくないことが心配で、何か出来ることをしてあげたった、それだけのこと。「貴女そういえば、一人暮らし始めたばかりよね?ご飯とか、食べられるもの揃ってる??あと、薬とか冷やすものとか、とりあえず必要なもの揃えて家まで持って行くから、行ってもいいかしら?」「えっ?!」少し掠れた声だけど、驚いたあの子の声が耳に入って、「あ、ごめんなさい。体調の悪い日まで職場の人間には会いたくないわよね。ごめんなさい、配慮が足らなくて。それに、親御さんが来てくれるでしょうから、心配もいらないわよね。」って、捲し立ててしまったらあの子ったら。「そ、そんなことないです!親は土曜日は旅行に行くって言って、家まで来れないし、それに、折角先輩とお出かけだったのに、、、っ(会いたかった、なんて言えない。。。)時間を台無しにして、ごめんなさい、、、」なんて言ってくるものだから、「そんなことないわよ。元気な貴女に会いたかったのは事実だけれども、貴女が時間を台無しになんて、することはないわ。あ、ごめんなさい、体調悪いのに話ばかりさせて。だけど本当に必要なものがあるなら、今から持って行くから言ってね?」ちょっと最後に念の為心配しているから、って伝えてみて。「……もし、本当に先輩のご迷惑でなければ、買ってきていただけると嬉しいものが、、、」なんて言うから、あの子が辛いんじゃないかって心配しているはずなのに、少し嬉しくなってしまったわ。「ええ、迷惑なんてことはないから、何でも言って?私が持って行けるもの、持って行くから。」そう言って、欲しいものと、家の住所をきいて、呼び鈴を鳴らして。
ピンポーン…………「お休みなのに、遠くからありがとうございます、先輩。。。」そう言って、開けてくれた扉の向こうのあの子はパジャマ姿にカーディガンを羽織った姿で、マスク越しでもわかるくらい、とても、熱に浮かされた潤んだ瞳をこちらに向けて、、、そんな、つもりじゃないんだけれど、体調が悪いって、わかっているはずなのに、この子の、恋人なんてものでもないのに、、、なんてグルグル思考を回しながら、パンク寸前になっているけれど、艶っぽい、その姿にとてもドギマギして。「そ、そんな大丈夫よ。駅から遠いわけでもないし、困った時はお互い様でしょう?」なんて、絞り出して。
「うぅ、本当、ご迷惑おかけしてすみません、、、」そう申し訳なさそうに言うあの子が、やっぱりすごく辛そうにみえたから。「そんなことより、早くお部屋に戻って安静にしていなさい?」そう言いながら持ってきた食材と、惣菜、スポーツドリンク、それにパイナップル缶を、ガサっと揺らしながら差し出して、「このまま帰るつもりだったけれど、貴女の様子、心配なんだけれど、やって欲しいこと、ある??」って聞いてみたらあの子、少し驚いた顔をしたから、失敗した…!って思ったんだけれど、、、「……もし、先輩がよろしければ、手伝って欲しい、です。。。」
先輩が家に来る。体調が悪くないなら、この上なく幸せで浮かれる状況だったのに。残念、玄関先で挨拶しか出来ないことが寂しいな、なんて考えていたら先輩、「やって欲しいことある?」なんて、サラッと何でもないことみたいに言ってきて。期待していいのかな??なんて、思いながら、ううん、先輩、優しいから、同僚の私を単純に心配して聞いてくれたんだって、わかっていたんだけど、折角、先輩から言ってくれた絶好の機会だから逃したくなくて、特に考えてもなかったけれど、「手伝って欲しい」なんて、言っちゃった。意識がクラクラしてる中でして欲しいことなんて、浮かんでなんかいないのに。先輩を、引き止めたくて、ついた嘘。ああ、何をお願いできるかな??
「それで、して欲しいことって、なぁに?」あの子が手伝って欲しいこと、なんてどんなことかしら?なんて考えたけれど、思ったより部屋の中は整っているから。流し台にまだ洗い物とか溜まっていないし、部屋も散らかってすらいない、、、一体どんな家事を手伝ってほしいかがわからない。それに、ドラマとかでの看病の定番、お粥とかを作ってほしい、なんてことでもないと思う。だって、食べ物のリクエストを聞いたら惣菜メインに買ってきて欲しい、って言っていたから、お粥みたいなもの、食べたいわけじゃないだろうし。冷静に考えて、体調の悪い時に他人の手作り、食べたいなんてこともないだろうし、いつも食べるものの方が、断然食べやすいだろうし、身体にも優しいでしょうし、、、ただ少し、ドラマでよくみる看病の定番、あわよくば、食べさせるところまで出来るのかなって、少し期待して勝手にドキドキしてたけれど、体調の悪いあの子を目の前でみたら、こんなこと考えて、恥ずかしくなった。それに、ただの先輩後輩で食べさせあうなんてこと、起こり得ないもの。恋人でもないんだから、当たり前のことよね。
ああ、体調が悪いあの子を前に、何を期待して勝手に一喜一憂しているのか、自分がとても嫌になる。
多分これだけ考えてみたけれど部屋を見渡してもしてほしいことが見当つかないところだったから、家事ではない手伝いだろうと考えて、この後何をお願いされるのかしらって、緊張して。それに、パジャマ姿のあの子、いつもと違う姿だから、見てはいけないものを見てしまったみたいで、やっぱり不謹慎だけれどドキドキする。あぁ、早く答え合わせをしてほしい。
「あの、もし、先輩がお嫌でなければ、先輩、パイナップルの缶、開けてくださいませんか??」「え?それだけ??」「はい、それだけ、です、、、」
「…わかったわ。缶を開ければいいのね??」「はい、お願いします。」先輩、キョトン顔になってしまって。恐らく何のお願いなんだろうと思っていた顔をしていたのに、蓋を開けてみればこんなお願いだもの。意味がわからないと思う。私だって、こんなお願いしか、浮かんでこないなんて、思わなかった、、、でも、折角来てくれた先輩を、まだ離したくなんてなかったし、お願いしないと帰りそうだったから、引き留める言い訳をしたくて。。。
いつも風邪を引くと食べるパイナップル缶、開けてもらおうって考えた、とても考えたのに、こんなことしか浮かばない、、、だけど開けてもらったら、帰ってしまうだろう先輩を、引き止めたくて。。。
「先輩、パイナップル、一緒に食べてくれませんか??」そう、誘ってみることにした。
「えっ?パイナップル、一緒に食べるの??」驚いた先輩の顔をみて、あ、失敗した、って思ったけれど。
「あ、あの。お昼、一緒に食べる約束、楽しみにしてたから、、、」あっ!!やばい!何を言っているんだ!!ただの後輩が、楽しみにしていたなんて、どう考えても気色悪いじゃないか!って焦ったけれど。「あぁ、そうなのね。私も、楽しみにしていたから、残念だったものね。お昼ご飯の代わり、みたいなことね。いいわよ、一緒に食べましょう?」そう、言ってくれる先輩。良かった、嫌がられてない。先輩も、楽しみにしてくれていた、なんて喜んで。
「はい、良かった、先輩ともう少しお話したいですから。」あー、また変なこと言っちゃった、って思ったけれど、熱があるんだから仕方ないよね、熱に浮かされた戯れ事だって、先輩にも思ってもらおう、なんて考えて、もっと大胆なこと言ってみた。「…家では、熱が出ると母にパイナップル切り分けて食べさせてもらっていたんです。ちょっとフォークが上手く持てないので、先輩食べさせてほしいです。。。」潤んだ目をして、熱に浮かされたように先輩に提案してみたら、先輩優しいから。「えっ?!そ、それは、、、、私、貴女のただの先輩よ??!お手伝いって、こんなことだったの!?」ってびっくりさせちゃったけど、「……いいわ、フォーク持てないくらい辛いのよね。仕方ない、わよね。ええ、食べさせてあげるわ、、、」って言ってくれた。けれどただの先輩だと思っていることが、悲しかったことは、内緒、、、
「食べさせる」なんて、言ってしまった。。。あの子、熱のせいで思考回路がまとまってないんだろう、とわかるけれど、大分大胆なお願い、しているのに、熱に浮かされて苦しいんだろうに、申し訳ないけれど、私、役得だなんて思ってしまった。
「それじゃぁ、口、開けて?」あーんって、口を開けてくるあの子。雛鳥みたいな可愛いあの子が目を瞑ってこちらを向いて、とても、愛らしい。そしてこの子の食事は私に委ねられているという、少しの征服感に愉悦して、口に入れてあげる。
「ありがとうございます、美味しいですね。」へにゃって笑うあの子が、また何倍も可愛く映って。不謹慎にも、心臓が跳ね上がる鼓動に満足して。この姿を見れるのは、家族と、今は、私だけって優越感が押し寄せる。本当に、自分がこんなに性格破綻者だとは思っていなかった。とても、あの子には教えられない感情を抱いてしまい後ろ暗い気持ちになる。
あーんって、食べさせてくれる先輩。少し、間があった気もするけれど、口に一口で入れてくれたから、綺麗に入れること考えてくれてたのかな。さっきまで、何て馬鹿なこと頼んでしまったんだろう、とか、気味悪がられてないかな、これから避けられないかな、なんてグルグル考えてだけれど、私のこと考えて、食べさせてくれる先輩の様子みていたら、多分先輩が極度のお人好しで、私のことも大切な同僚って思っててくれて助けてくれているんだ、って考えたら、こんなこと頼んだ少しの申し訳なさと、一度してもらったら、もういいや、って吹っ切れたから、「美味しいです。まだ食べたいです、先輩。」あーん、ってまた口を開けて、食べさせてもらって。ふふふ、家族以外に初めてしてもらった、先輩。今は、私だけの、先輩。他の人たちには、教えられない、この状況。とってもドキドキしてしまうけれど、独占欲、こんなことで感じている私、先輩に悟られないようにしなくちゃって考えて。「先輩も、食べてくださいね?」って声掛け忘れないようにして。だけど先輩、「貴女が食べられるもの買ってきているんだから、貴女が食べ終わって残るなら貰うわ。」って、言うからわーーって気持ちが溢れ出して、胸を締め付けるから、「それじゃぁ、もう少し食べたいです。」って甘えて、食べさせてもらえること、喜んじゃった。
「食べてください」ってあの子が言うから、今のこの状況を自分から終わらせたくなくて。まだ満足していない征服欲を満たそうとしていたことが後ろめたくて、あの子に選択肢、戻してしまった。ひどい先輩だとわかっているけれど、自分では終わらせる勇気がないから。本当は、もっと、このゆっくりとした時間を続けたくて、、、
やった、不謹慎にも心はとても、喜んでしまった。「もう少し食べたい」なんて、甘えてくれたから。まだこの時間を続けられるって、嬉しい、でも、あの子に酷いこと、しているみたいで少し辛い。
「美味しかったです、先輩。あとは、先輩食べてくださいね。」熱のせいか、あの子がヘニャリと笑う姿にいつもと違う姿をみて役得なんて考えて。だけど、食べている間にあの子が体調また悪化したら嫌だな、なんて思いながら。「そう?それなら、よばれようかしら。身体、辛かったら横になっていいのよ?」って声を掛けて。「そんな、せっかく先輩といるから、食べている間もお話、したいです。」マスク越しでもわかる、いつものあの子の膨れ面。もどかしいほどに愛らしい姿を今もしているから、あのいつもの姿に重ね合わせて、早く元気になってほしくて。自分を律して矛盾したこと、言ってしまう。「だけど、身体辛くない?貴女を休ませるために来たはずなのに、これじゃぁ、何だか休まってないわよ?」本当は、私ももっと話したいし、姿を見たいけど、この子が無理してないか心配だから、聞いてみたけれど、あの子ったら。「先輩といると、楽しいから、風邪も吹き飛んじゃいますもん。」なんて、言ってくる。なんて、ずるい子なんだろう。私をこんなに期待させて、心をかき乱してきて。また、この子の期待に応えたくなってしまうことばかり言ってくる。「貴女がそう言うなら、強くは言えないけれど、元気になるなら、私に出来ることなんでも言ってね?」そう伝えて。「ありがとうございます。先輩が来てくれたことが嬉しかったので、それだけでいいんです。」なんて、ずるいこと言ってくるの??もう、どうしようもないじゃない。好きが溢れてしまいそう。こんな気持ち、伝えられない、こんな時に、言うことでもない、どうしよう、止められないかもしれない、なんて思考をかき乱すこの子を、恨めしい気持ちで見つめて「もう、調子いいんだから、、、元気になったら、改めてお出かけ、しましょう?私も貴女と出かけて会えること、楽しみだったから、次は、もっと楽しみましょうね?」と絞り出して。
「はい!私も先輩と一緒にお出かけ、とっても楽しみでした。次は絶対に、朝から晩まで、たっくさん、お店巡りしましょうね。」ニコリと微笑んで先輩に伝えて、もっと一緒にいたいって気持ち、溢れてしまった。だから、言葉にして伝えて、また次の約束、できたことが嬉しい。いつもこれだけ先輩に素直に言えるようにしたい、なんて思う。
いつも以上に、あの子が私を翻弄している。その格好に驚くだけじゃない、その言動全てに私の気持ちが振り回されたけれど、いつもと違うところもみれたから。これは、怪我の功名ってやつかもしれない、なんて思って。ああ、怪我をしているのはこの子だけでもないな、私もこの子の熱に浮かされていたんだ、って妙に納得できた。はやく、もっと、もっと、あの子と時間を共にして、知らないところも見ていきたい。あの子の全てを知っていきたい。
せっかくの楽しみが体調不良で崩れたと思ったのに、先輩が優しいから、たくさん甘えられて。いつも言えないことまで言ってしまった。多分先輩、優しいから、風邪を引いた私の戯言くらいにしか思ってないけれど、本当は、もっと、もっと、先輩に我が儘してみたい。いっぱい私を、知ってほしい。。。




