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30年後 2/2

 葬儀を終えて街に戻ると、仲間たちの環境もまた、劇的に変化していた。


 そこまでの時間は経っていないはずだが…


 カイルは若手の魔導師を導く立場となり、志を同じくする女性と結婚した。


 そしてリーザ――。彼女もまた、ギルドの有力な騎士と婚約したという噂が流れていた。


 そんなある夜のことだ。


 馴染みの酒場で、私はリーザに呼び出された。彼女はかつての少女のような面影を残しながらも、大人の女性としての美しさを湛えていた。


「アルス。……私、もうすぐ結婚するわ」


 彼女はまっすぐに私を見つめて言った。その瞳の奥には、二十年以上の付き合いを経てなお隠しきれない、熱い想いが揺れていた。


「おめでとう、リーザ。結婚相手はとても誠実な人だと聞いているよ。君ならきっと、幸せな家庭を築ける」


 私は精一杯の祝福を言葉にする。だが、リーザは首を振った。


「…私が本当に好きなのは、……ずっと、あなただった。あなたに告白したあの夜から、ううん、その前からずっと」


 告白。その話は予感していたことではあったが、いざ直面すると、胸の奥が焼けるように痛んだ。


「リーザ。……私は、君と一緒に老いることができない。君の隣で、君と同じように時間を刻むことができないんだ。それは君にとって、あまりにも残酷なことだよ」


 何年前だったか…おそらく7.8年前だろう。あの夜、私はこのセリフと同じように彼女を拒絶した。彼女の人生に、停滞する私という異物を混ぜてはいけない。それは彼女のためにならないという、私なりの、私の理性が導き出した結論だった。


「わかってる。わかってるわよ。……だから、一夜だけでいい。今日だけ、私を『あなたの恋人』として扱って。それだけで、私は自分の人生を前に進められる気がするの」


 リーザの瞳から涙が零れる。その涙を見た瞬間、私の理性が、彼女の絶望を感じ、そして理解した。


 私という存在が、彼女の青春のすべてだった。それを否定することは、彼女のこれまでの三十年を否定することと同じではないか。


 私は何も言わずに、彼女を抱き寄せた。


 その夜、私たちは初めて、そして最後の一時を共にした。

 彼女の肌は温かく、鼓動は力強かった。一方で私の体は、どれほど激しく動いても疲れることはなく、心臓はただ一定のリズムで「何か」を送り出している。

 それは愛の交歓というよりも、消えゆく火を永遠の氷が包み込もうとするような、悲しい試みだった。


 翌朝、リーザは晴れやかな顔で部屋を出て行った。

 

「……アルス。あなたはやっぱり、最高の男よ。……彼には悪いけど、私の中の『一番』は、ずっとあなた。でも、二番目に最高の男と、私は幸せになってみせるわ」


 数ヶ月後、リーザの結婚式が開かれた。

 ウェディングドレスに身を包んだ彼女は、隣に立つ騎士と幸せそうに微笑んでいた。

 彼女にとって、アルスは「決して届かない理想」であり、夫となる男は「自分を愛し、共に歩んでくれる現実」だった。彼女の言葉通り、夫はアルスには及ばないかもしれないが、人間としてこれ以上ない最高の伴侶だった。


 式場の隅で、私はゴウと肩を並べてそれを見ていた。

 

「アルス。リーザも、カイルも、……みんな自分の道を見つけたな」


 ゴウの言葉に、私は深く頷く。


「そうだね。みんな、素晴らしい人生を歩んでいる。……私も、誇らしいよ」


 ゴウは少し寂しげに笑い、私の背中を叩いた。その手の厚みは変わらないが、力の入り方に少しの衰えを感じてしまうのは、私の観察眼が鋭すぎるからだろうか。


 仲間たちが幸せを掴む一方で、私はますます完成されていく。


 技術は極まり、知識は蓄積され、肉体は一点の曇りもなく維持される。

 けれど、その完璧さが、私を世界から遠ざけていく。


 カイルの魔法の数式、リーザの歩いた足跡、ゴウが守る家族。

 それらはすべて終わりがあるからこそ輝くものだ。

 終わりがない私の生には、一体どんな意味があるのだろうか。


 ある日の夕暮れ時。私は一人、父母の墓前に立った。

 

「父さん、母さん。私はまた、独りになったよ。……ううん、まだ仲間はいるけれど。いつか、彼らも見送らなきゃいけないんだ」


 風が吹き抜け、枯れ葉が墓石をなでる。

 私の時間という名の冷たい川は、これからも止まることなく、周囲のすべてを押し流しながら流れていく。


 魔女。君は今、どこで何をしている?


 君は言ったな、これは「祝福」だと。でも、それは、私からすべてを奪うための呪いだったのか。それとも、まだ私が気づいていない、別の意味があるのか。


「……まずは、Aランクとしての任務を全うしようかな。それが今の私にできる、唯一のことだから」


 私は自分に言い聞かせるように呟き、静かに背を向けた。

 影が長く伸びる中、私の足取りだけは、どこまでも軽く、そしてどこまでも重かった。




あとがき

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけましたら、レビューや⭐️評価、いいねなど、感想で応援いただけますと大変励みになります。


 次回、第6話は「40年後」の物語を予定しています。また明日、お会いしましょう。


現在、本作は「カクヨム」でも連載を行っています。 あちらでは先行配信という形で、なろう版よりも先の物語を公開しており、より早く彼の旅の行く末を見守っていただける状態です。


物語がさらに深く動き出すエピソードを、一足先にカクヨム版で楽しんでいただければ幸いです。


もしよろしければ、下記のリンクから足を運んでみてください。

https://kakuyomu.jp/works/822139843559822534

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