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月隠ノ日向  作者: shio
第四章
96/150

九十六


「ごめんなさい。どうかわたしの子を、日向を宜しくお願いします」

「っ……日和様……」


 頭を下げる日和に、陽織もまた俯き涙を堪えることしかできなかった。枯れるほど涙したというのに、まだ雫は落ちる。止まることなく流れ続けていた。


「お約束します。必ず、必ず、日向様を幸せにしてみせます」

「ありがとう。でも、もう一つ、約束してください」

「ぇ……」


 陽織に近づき、ソッと手を重ねた。顔を上げる陽織に視線を合わせ、願いとともに日和は微笑んだ。


「幸せになるなら、陽織ちゃんも。約束してください、あなたも幸せになることを」

「……はい、日和様」


 涙に濡れながら、陽織も微笑む。悲しいのに微笑む、不器用な表情――昔から変わらないそんな陽織に日和は安心し重ねた手を離した。

 後ろを振り返り、今までずっと我慢していた賢い子、愛しい幼子へと優しい眼差しを向ける。ごめんね、待たせちゃったね、と心で謝しながら。

 そんな日和の視線を受け、幼子――日愛は可愛らしい声で小さく囁いた。


「……ははさま」

「日愛、おいで」


 僅かな衣の擦れる音と共に、きゅっと抱きつく日愛を日和もまた強く抱きしめた。


「……ごめんなさい、日愛」

「どうして、ごめんなさいなの?」


 胸の中で見上げ、日愛は不思議そうに呟いた。そんな日愛の頭を撫で――日和は、ごめんなさいの意味は伝えなかった。ずるく、汚いと分かっていても、伝えることができなかった。悲しみを背負わせるのはあまりに忍びなく――


「大好きだよ、ははさま。ずっとずっと、大好き」


 日和の心が伝わったのか――日愛は自分の精一杯の言葉を伝え、再びきゅっと抱きついた。


「わたしもです。大好きです、日愛。ずっとずっと大好き」


 日和の言葉ににこりと微笑み、もう一度互いにぎゅっと抱きしめ――――

 そして、抱いた日愛の背中に掌を当て、日和は癒滅の術を施した。


「――――」


 日愛は日和の胸に顔を埋め、静かな吐息を洩らしていき――やがて穏やかに眠りにつく。

 悲しさも、寂しさもなく、母に甘えるように頬を摺り寄せ……ただ一つ、目尻に煌めく雫を浮かべて。


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