表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月隠ノ日向  作者: shio
第三章
76/150

七十六


「わたしが、いるから……もう離れたりしないから」


 どんな痛みでも構わなかった。日愛に触れられるのなら、日愛を受け止められるのなら。

 だから、一つだけ願う。意識が途切れないように、ずっと日愛に微笑を向けられるように。


「日愛と、ずっと一緒に居る……だから」


 日向は、日愛の頬を優しく撫で、指で目尻を拭った。


「だから、もう大丈夫だよ」

「――はは、さま」


 一つ、二つと――

 日向の頬に雫が落ちた。

 愛しい幼子の涙――日愛の心の雫が。


「大好きだよ、日愛」


 頬に触れていた右手を頭に回し、抱き寄せた。難しいことじゃない。母が子にしてあげるのは、大好きと伝え抱きしめるだけでいい。

 きっと――きっと自分を産んでくれた母も、そして、日愛が『ははさま』と呼び求めた母も同じようにしてくれたに違いない。それは理由のないことだったけれど、確かな気持ちと共に心に浮かんだ。


「ははさま――」


 自分のすぐ近くで日愛が呼ぶ。頬と頬が触れ、涙と優しい暖かさが伝わってくる――もうその時には、肩と腕に食い込んでいた日愛の手の力も抜けていた。

 ぎゅ――と抱きしめる。そして、あやすように愛するように頬をすりよせた。日愛も甘えるように「ははさま、ははさま――」と呼び求め日向へぎゅっと抱きつく。


「――日愛」


 日向は小さく囁き――そして、瞳を閉じた。

 日愛の温もりと感じたまま、愛しき子を抱きしめたまま――優しい微笑を浮かべ眠るように。

 泣きつかれたのか、日愛もまた日向に抱きついたまま静かな吐息を立て始めた。安心したように、甘えるように。


 本当の母娘のように、天女のような幼き少女二人は安らかに眠りにつく。

 互いに抱きしめたまま、ずっと離れず―――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ