表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月隠ノ日向  作者: shio
第二章
51/150

五十一


 ――早朝、灯澄は平屋があるこの地から更に奥、山深き場所へと赴いていった。

 清々しき気に満ちた木々。それもそのはず、ここは鎮守の森と呼ばれる場所だった。いや、山そのものが神霊が宿る御霊代(みたましろ)を擁した領域、神奈備(かんなび)。ここで神聖足らしめない場所はない。

 やがて現世と神域を隔てる結界、紙垂(しで)をつけた縄が張り巡らせれた場が徐々に見えてくる。注連縄(しめなわ)に囲われた神域、その中心たる神体。神籬(ひもろぎ)の神木――そこに、日愛が眠っていた。


「――――」


 ――神木に辿り着く前から異変に気付いていた。

 近づくにつれて、肌に触れてくる力。一歩進めるたびに、大きく膨れ上がる妖の気配に灯澄は瞳を鋭くせざるを得なかった。

 神木へと歩みを進め、その木の元にある窪みへと視線を向ける。微笑んで見れないことを心で謝しながら。

 日愛は、安らかに眠っていた。愛らしさは変わらず、真白の衣に身を包んだ幼き童女は同じ純白の翼をたたみ、柔らかい胸を僅かに上下させ静かな吐息をたたえている。


 穏やかな幼子の寝姿――だが、そんな幼き子を護る揺り籠の結界は崩れかかっていた。揺り籠が壊れてまで寝ていられる子はいないだろう。泣いて起き、そして、母を呼ぶはずだった。

 我らが子と現しながらも、母の情が湧きながらも、日愛が「母」と呼び求めるのはおそらく自分たち――灯澄と燈燕ではなかった。母と求められ受け止められるのは今はただ一人しかいない。

 触れることはせず、いや、触れられず灯澄はその場を離れた。日愛に背を向け、元の道へと足を進める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ