表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月隠ノ日向  作者: shio
第二章
43/150

四十三


 そうして、登り続けること四時間の後。


「――――」


 紅く染め、少しだけ汗した頬に涼やかな風と鮮やかな薄紅色の一片が触れ日向は顔を上げた。

 橙の空。目に見える先、木々が無くなり開けた空から目に眩しい夕暮れの陽が溢れていた。そこから、まるで自分たちを迎えるように一片二片と舞い踊ってくる桜ノ花弁。


「さあ、ここだ。ここが我らの家となる」


 少し遅咲きの山桜――まるで「あなたに微笑む」との花言葉そのままのように優しく包まれ。

 視界が開けたその向こう。満開となる桜の木々の隣にひっそりと在る家一軒。それを目にし、灯澄は目的の場に着いたことを告げ日向へと手を差し伸べた。


(きれい――)


 灯澄と燈燕に導かれ訪れた桜の家――まず日向が目に魅かれたのは山桜の見事さだった。自然そのものの姿はやはり町のものとは違い凛と力強く、鮮やかに艶やかに咲き誇っている。夕陽の紅に染められた橙の空に浮かぶ薄紅の花弁は本当に美しく、優しい温もりを感じさせてくれる。だからだろうか。


「どなたか住まわれているのですか?」


 古い木造の平屋の家。だが、閑散としてなく人の温もりが感じられ、日向は思わずそう問いかけていた。灯澄と燈燕が住んでいたというのなら人の温もりがあって当然なのだろうが、日向にはそれだけのようには感じられなかったのだ。すぐ前まで誰かが居たような、そんな気配が在る。


「隠れる身とはいえ、我らは孤独ではない。それに――お前の一族は妖の敵ではなかった」


 それだけを答え、灯澄は先にたって玄関の引戸を開ける。

 薄暗い玄関に陽の閃光が差し込む。浮かび上がる屋内。そこは綺麗に掃除され、整えられていた。

 板張りの廊下は拭かれ、玄関からの風が入っても埃すら浮かばない。玄関に近づき、屋内からくる少し涼やかな澄んだ空気が肌に触れた。きちんと風を通し、掃除していなければこうはならないだろう。つまりは、家はやはり無人ではなく毎日誰かが手をかけているということだった。

 でも――と思い、日向は屋内を見渡した。気配は感じても姿は見えず。玄関から入った四人以外に人の影はない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ