十八
不意に日咲の言葉を思い出す――「進路は決めた?」。
自分の力に気付いた時、「果たしてこのまま……」ということが不意に心に過ぎった。それは幼い時代の漠然としたものだったが胸から離れることはなく、逆に歳を重ねるにつれ大きなものとなっていった。
桜草の花言葉。「若い時代と悲しみ」。
今思うこの事が、ただ若い時代の悲しみ――若年による迷いと苦悩というだけならばそれで良かった。自らの道は自らで決めるとも考えている。だけれど。
生きる上では不必要な自らの力。不要な人とは違う力。何故、それを持って自分は生まれたか。もし意味があるとするならば、果たして、自分の進むべき道を自らの一念で決めていいのか――
母の顔が胸に浮かぶ。時折浮かべる母の悲しそうな苦しそうな顔。そして、同時に自分が気付いていること、気付いていないこともあるのだろう。分かっていること、分かっていないこと。知っていること、知っていないこと。様々なことが思い浮かぶ。
果たして、自分は――と、その時だった。
――トッ
それが、普段の修練の賜物かどうかは分からなかったが、気配を感じ日向は後ろへ飛び退った。
電灯と電灯の丁度間、両側に木々が並んでいる薄暗い道。日向が視線を上げたその先に、足音もなくこちらへと近づいてくる二つの黒い影が浮き上がった。
ただの通行人であれば、急に飛び退った日向を随分変に思っただろう。だが、感覚的に日向はただの通行人ではないと感じていた。だとすれば、暴漢の類……それも違う。初めから襲う気ならば、わざわざ真正面から歩いてくる必要はなかった。木々の中に身を隠せばいいのだ。
人数は二人。近づいてくるにつれ、その姿もはっきりしてくる。今の時代で外を出歩くには珍しい袴姿――だけれど、男性ではなかった。浮かぶ身体の影から女性だと分かる。




