表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月隠ノ日向  作者: shio
第六章
143/150

百四十三


「ここへ来て、お前に会って分かった。お前も後悔しているのだろう?」

「…………」


 灯澄の言葉に、今度は弥音が黙る。


「ならば、我らと一緒だ。恨むことはない」

「……そうですか」


 弥音は瞼を伏せ、苦笑したように、力なく微笑む。いっそ、恨んでもらったほうが……と思っていたのかもしれない。日向はそう感じた。

 トクン――と胸が鳴る。後悔……灯澄の話に、弥音は頷いた。後悔していると。

 母を、日和を行かせたことを後悔しているのだろう。月代へと、一人で行かせたことを。今でも、ずっと――


「弥音様、そんなことを仰らないでください」


 日向は自然と言葉を発していた。自分と、自分の中の母の想いが止められなかった。伝えなければいけない。決して、そうではないと。


「わたしは感謝しています。弥音様が母の望むまま行かせてくださったこと、どんなに感謝してもしきれません。弥音様のお陰で、十四年、わたしはこうして育つことができました」


 凛と言の葉鳴り、深々と響き流れ、心伝え――そして、日向はスッと深く頭を下げた。


「母と共にお礼をいわせてください。本当に、本当にありがとうございました」

「――――」


 その日向の姿に――母子の言葉に――弥音は驚きと共に、声を出すことができなかった。


「――本当にあなたは……日和さんのお子なのですね。本当によく……生き返ったかのよう……」


 しばらくの静寂の後、ようやくにして絞りだした弥音の声は、少し震えていた。


「お礼をいうのは私です……今の言葉で救われました。ありがとう、日向さん。本当によく、よく来てくださいました」


 溢れる涙をもう一度拭き、弥音は、にこりと――それは、弥夜や弥卯が初めてみるような微笑で――笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ