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月隠ノ日向  作者: shio
第六章
131/150

百三十一


「それで、何をしに来た」

「代々お世話になった御縁により御挨拶と、そして、わたしの意志を伝えに参りました」


 頭を上げ、日向は凛と声を発した。穢れのない真っ直ぐな瞳を上首に向ける。


「ほう、意志か。それでもう一度月代に戻りたいと願いに来たか」

「違います」


 語韻に詩響き、印象は清浄明潔――しかし、そんなことは感じない太った男の濁った言葉を柔らかく否定し、日向は舞う花弁のように優しく、だけれど、燐と煌めかせ強く、誓いの言の葉を紡いだ。


「尊家にも――妖にもわたしは与しません。ですが、どちらの敵ともなりません。双方の友人となります。それが母と、わたしの意志です」


 日向の言葉に、


「――――」


 周囲の空気が変わった。人の気配が、表情が変わる。

 日向の横に座っていた陽織は、僅かに拳を握った。ここから先はどうなるか。言葉の一つ一つが重要となる。

 ――しばらくの沈黙と静寂。そして、


「…………」


 上首は何も言わず、面白くもなさそうに立ち上がった。すでに興味が無い様に早々に奥へと入っていく。

 日向と陽織が今だ座る中、上首に続くように次々と月代家当主たちは立ち上がった。


「何も知らぬ小娘が」

「母も母なら子も子。恥も知らず愚かなのは変わらんな」

「妖臭いと思ったがどおりで……妖の子ではないのか」

「穢れた時間だった。早く追い出し、清めておけ」


 嘲笑と侮蔑。その言葉をいくつも浴びせ……そうして、大広間は警護の男たち以外居なくなった。


「…………」


 日向は黙って座っていた。所詮、周りからすれば自分はまだまだ子供。どれだけ誠意を尽くし真っ直ぐに臨んでも、子供と嘲られ相手にもされない。子供の遊戯なのだ。

 日向は、深く一礼し、そして、立ち上がった。

 案内をしてくれた女性が帰りを促す。日向の月代との初めての対面は、もう終わった。


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