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月隠ノ日向  作者: shio
第六章
129/150

百二十九


「こちらへ」


 先に歩く案内係の女性が声をかけ、屋敷の奥へと誘って行く。

 陽織は日向の後に続き長い廊下を歩いていった。歩いていくにつれ、行く場所も分かってくる。十一……いや、月代十家が年に数度しか集まらない、板張りの大広間。そこに向かっているのだろう。


 そして、それは一つのことを教えてくれた。上首だけではない。もしかしたら、十家全ての当主が集まっているのかもしれない。突然来た月隠の小さな少年に、何故そうまでの準備をするのか。すぐに判断はできなかった。

 威圧する為か、はたまた、本当に『餌』を出し、月代へと取り込むつもりなのか――


「――――」


 案内係の女性が立ち止まり、日向と陽織もまた歩みを止めた。

 日向はすっと視線を向ける。廊下の少し先、その右側は戸が開け放たれ広がっていた。正面には身体の大きい男性一人、その他にも何人もの人の気配がする。広間の中にも、その周りにも。

 警備するように立っている男たち。陽織は視線を鋭くした。相手は自分たち二人だけということは分かっているはず。それにも関わらず、明らかに一目で武道をやっている、おそらくは月代の中でも強者といわれる人間をこれだけ立たせるとは……あまりにも大人気なかった。

 無表情にこちらへと目を向ける男たち。その視線を受け日向は――


「…………」


 にこりと笑った。その微笑に正面の男が驚く。

 一礼し、歩みを進めた。広間の前まで足を進め、そして、正面を向く。陽織もまた後ろへ習い、広間へと身体を向けた。


(――やはり)


 陽織は背中に流れる冷たい汗を感じながら、受ける威圧に負けないよう内に力を込めた。

 板張りの大広間――そこには、左右にそれぞれ五人ずつが並び座っていた。そして、その奥。上座に座るは月代家上首。陽織は当然知っている。大小母様の代を無理やり奪い上首となった男、その息子である現上首。

 朔月清衡(さくつききよひら)

 一目で分かるような豪華な着物を身に纏い、こちらの礼もなく足を崩し肘を突いてこちらを見ている。


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