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月隠ノ日向  作者: shio
第五章
110/150

百十


(だとすれば)


 やはり、そうなってしまうか――灯澄は組んだ腕を離し、静かに、だが、深く吐息した。

 我らは、妖では月代とは会うことすらできない。ならば、鍵は日向の力量、器次第、となる。どれだけの人物に成り、場を収められるか。もちろん、我らは支える。だが、すでに我らの中心は日向だった。

 心配をして信を置けず、日愛の時のような失敗はもうしない。日向は我らの当主。我らは信じ、仕える。


「…………」


 灯澄は切子を手にし、残っていた酒を一気に飲み干した。

 トッと置き、月夜桜を見る。あの夜――日向が舞った桜舞の花へと。


 まずは、これから。妖、月代の動きを警戒しつつ、日向の傷の癒えと日愛の目覚めを待ち、そして、日向へと話す。

 時はすでに動いている。妖も月代も待ってはくれない。日向にはもう一度、決断してもらわねばならない。


 これから歩む道――日向の進む道を。



  ――――――――――



 ――日愛は、優しさと暖かさに包まれながら静かに瞳を開いた。

 暖かい――気持ちのいい温もり。また、眠たくなる。

 ずっと、こうしていたいけれど――でも、今は少し我慢して眼をこすった。夢でないのなら、お話したかった。呼んで、ぎゅっと抱きつきたかった。


「ははさま……」


 日愛は僅かに唇を開け、小さく囁いた。聞こえたかな、応えてくれるかな――


「――日愛」


 優しい声が直ぐ近くから聞こえ、自分の頭を撫でてくれた。

 ああ、やっぱり夢じゃなかった。よかった、これでまたずっと一緒だね――


「ははさま」


 日愛はもう一度名を呼び、そして、応えてくれた人の着物をぎゅっと握り、顔を見上げた。


「日愛、おはよう」

「……ははさま……ははさま」


 日愛は母にぎゅっと抱きつき、胸に顔を埋めた。


「日愛」


 抱きつかれた母も呼びかけに応え、日愛をその腕に包み込む。お日様のように暖かくて、小春のように柔らかく、花のような優しい匂いのするははさま――

 安らぎを与えてくれるその胸に自分の身体の全てを包まれ、日愛はますます強く抱きついた。


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