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スキル名【すんごい、おっぱい】なんだけど、これってどうなの!?  作者: かわさきはっく
すんごい、おっぱいは世界を救う(?)編

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第64話 沈黙の勇者とすんごい抱擁

 仲間を、二人、取り戻した。

 私たちは、疲れ切った体で立ち上がった。

 そして、最後の仲間を、最後の元凶を止めるために。

 最も厄介な、沈黙の化身が待つ、王座の間を見据えた。 


 王座の間へと続く廊下は異様な光景と化していた。

 壁に、床に、天井に、まるで巨大な刃物で切り取られたかのように、完璧な断面を持つ「無」の空間が口を開けている。

 そこには破壊の痕跡はなかった。ただ、そこにあったはずのものが、音もなく、消え失せているだけ。

 それが、ユウキ様を乗っ取った、《沈黙の神の枷》の力だった。


 王座の間に彼は、いた。

 ただ、静かに、玉座の前に佇んでいる。

 その手には、影そのもので形作られたかのような、闇色の剣が握られていた。

 彼は暴れない。叫ばない。

 しかし、その静寂こそが、何よりも恐ろしかった。


 私たちは柱の影に隠れ、息を殺した。


「……彼の力は概念干渉。存在そのものを消し去ります」

 シルヴィアさんが青い顔で、小声で言う。

「私が張る結界も、ダインの突撃も、彼に届く前に消滅させられるでしょう。まともに戦っては、万に一つも勝ち目はありません」


「じゃあ、どうすんだよ!」

 ダインさんが悔しそうに拳を握りしめる。


 シルヴィアさんの視線が、私に注がれる。

「……やるべきことは同じです。ルルナが彼に触れる。それしかありません」

 しかし、どうやって?

 全てを消し去る、あの沈黙の剣士に、どうやって近づけばいいというのか。


 絶望的な状況。

 しかし、シルヴィアさんの瞳には諦めの色はない。

「……作戦を立てます。三人で、あの一瞬を作り出すのです」


 それは私たちの絆の全てを懸けた、最後の作戦だった。


「行くぞ!」


 最初に動いたのはダインさんだった。

 彼は雄叫びを上げると、近くにあった巨大な大理石の柱を、根元から、へし折った。

 そして、その瓦礫の塊を、渾身の力で、ユウキ様へと投げつけたのだ。

「うおおおおおっ!」


 それは、あまりに無謀で、あまりにまっすぐな、陽動。

 ユウキさんは、その巨大な瓦礫を無感情な瞳で、一瞥した。

 そして、その闇色の剣を静かに振るう。

 瓦礫も、ダインさんの雄叫びも、全てが音もなく、その剣筋に沿って、綺麗に消滅した。

 そして、その剣の切っ先が、がら空きになった、ダインさん本人へと向けられる。


「今です!」


 シルヴィアさんの最後の魔力が放たれた。

 それは、攻撃魔法ではない。ただの目くらましの光。

 しかし、今の私たちにとっては、何よりも強力な一撃だった。


 閃光が、ユウキ様の視界を、ほんの一瞬だけ白く染める。

 その、コンマ数秒の隙。


 私は走っていた。

 王座の間の、長い、長い絨毯の上を。

 大切な仲間を助けるために。


(ユウキ様……!)


 私の脳裏に、彼との短い旅の記憶が蘇る。

 家の恥だと、絶望していた私を、見つけ出してくれた、その笑顔。

「俺は、ルルナの奇跡に賭けるぜ!」

 そう言って、私の力を誰よりも信じてくれた、その言葉。


(今度は私が、あなたを助ける番です!)


 ユウキ様が、閃光から回復する。

 その、漆黒の瞳が私を捉えた。

 闇色の剣が、私を消し去るために、振り上げられる。


 ――もう、間に合わない。


 それでも、私は足を止めなかった。


 そして、その剣が、私に届く、寸前。

 私はユウキ様の、その体に、全力で飛び込んでいた。

 彼を守るように、憎しみの化身となってしまった、彼を救うように。

 前から、力いっぱい抱きしめた。


 ぽすん。

 最後の奇跡のスイッチが押される。

 私の胸が、彼の胸に、強く、強く、押し付けられた。


 ――光が、溢れた。


 それは、黄金の光ではない。

 それは、闇を祓う、白銀の光でもない。

 緑が芽吹き、青が流れ、赤が燃える、生命そのものの、全てのいろを内包した、慈愛の光。

『無』を、『有』で、塗りつぶす、創生の光。


 ユウキ様の体を蝕んでいた、黒い紋様が光に溶けていく。

 彼の手の中にあった闇色の剣が、霧散する。


 そして、ユウキ様の額に浮かび上がっていた、《沈黙の神の枷》の黒い紋様が、まるで、夜明けを告げる鐘の音のような、澄んだ音を立てて、砕け散った。


「……ぐ……ぁ……」

 ユウキ様の体から、力が抜ける。

 私は、その体を、必死に抱きとめた。


 ゆっくりと開かれた、彼の瞳。

 そこにはもう、宇宙の闇はない。

 いつもの、少しだけ生意気で、でも、誰よりも優しい、茶色の瞳があった。


「……ルルナ……?」

 彼は私の顔を、そして、涙でぐしゃぐしゃになった、私の顔を見て、全てを悟ったようだった。

「……そっか。また、お前に……助けられちまったか……」


 その弱々しい、しかし、確かな、温かい声を聞いて。

 私の緊張の糸が、ぷつり、と、切れた。

 仲間たちの腕の中で、私の意識は、ゆっくりと、闇に落ちていった。


 混沌神は消えた。

 三つの『神の枷』は砕け散った。

 私たちの最後の戦いは、今、本当に終わりを告げたのだった。

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