第61話 混沌神とすんごい憑依
「ぐああああああっ!」
三人の悲痛な絶叫が、私の心を粉々に引き裂いた。
禍々しい光が収まった時、そこに立っていたのは、もう、私の知っている仲間たちではなかった。
ユウキ様の瞳は、全てを吸い込む、漆黒の闇に。
シルヴィアさんの瞳は、どこまでも深い、哀しみの青に。
ダインさんの瞳は、全てを焼き尽くす、憤怒の赤に。
三人の瞳から、感情というものが、完全に消え失せていた。
彼らは、もはや、人間ではない。
混沌神の意思なき人形。
「勇者殿……? シルヴィア殿……?」
国王陛下が、信じられないという顔で彼らに呼びかける。
その声が引き金だった。
「グオオオオオオッ!」
最初に動いたのは、ダインさんだった。
彼は獣のような雄叫びを上げると、宝物庫にあった黄金の巨大な燭台を、赤子の手をひねるように引き抜き、壁に向かって投げつけた。
轟音と共に王城の壁が崩れ落ちる。
次に、シルヴィアさんが、ふっと、天を仰いだ。
その、美しくも感情のない瞳から、涙が、はらり、とこぼれ落ちる。
途端に宝物庫にいた全ての騎士、全ての大臣たちが、その場に膝から崩れ落ち、声を上げて泣き始めた。
「うっ……ううっ……なんという絶望だ……」
「もう、何もかも、おしまいだ……」
彼女の涙は、人の心から、希望という感情を根こそぎ奪い去る、呪いの波動だった。
そして、ユウキ様は、最も静かだった。
彼は、その手に、いつの間にか現れていた、影でできた漆黒の剣を、ゆっくりと振るった。
剣が分厚い宝物庫の扉に触れる。
しかし、音は、しなかった。
扉は、まるで最初からそこになかったかのように、その部分だけが、綺麗に、〝消滅〟していた。
城内に、けたたましい警鐘が鳴り響く。
「敵襲! 敵襲だ!」
「宝物庫にて、勇者様たちが、ご乱心!」
鎧を鳴らし、剣を構えた騎士たちが、次々と集まってくる。王宮魔術師たちも杖を構え、必死に防護結界を張ろうとしていた。
しかし、その防衛線は、あまりにも脆かった。
ダインさんが、騎士たちを紙切れのように吹き飛ばし、シルヴィアさんの哀しみの波動が、魔術師たちの戦意を奪う。そして、ユウキ様が、その結界を音もなく、消し去っていく。
「いや……いやっ……!」
私は、その地獄のような光景を、ただ、震えながら見ていることしかできなかった。
「ユウキ様! シルヴィアさん! ダインさん!」
私の涙ながらの叫びに、彼らが振り返ることは、もう、ない。
「聖女様! お逃げください!」
国王陛下が、近衛騎士に守られながら、私の腕を掴む。
騎士団長が、悲痛な決意を、その顔に滲ませて、叫んだ。
「もはや、彼らは、我々の知る英雄ではない! 国を護るため、この場で討ち滅ぼすしかありません!」
その、あまりに無慈悲な言葉に、私は、はっとした。
(討ち滅ぼす……? ダメ……! そんなことさせない!)
このままでは、私の大切な仲間たちが、悪者として殺されてしまう。
私は国王陛下の腕を、そっと振り払った。
「……逃げません」
私の瞳から涙が消える。
代わりに、そこに宿ったのは、燃えるような決意の光だった。
「あの人たちは怪物なんかじゃありません! 私の大切な仲間です! 私が逃げたら、誰が、あの人たちを助けるんですか!」
私は崩れ落ちた宝物庫の壁から、外へと飛び出した。
眼下には混乱に陥る王城の姿。
中庭では、ダインさんが、破壊を繰り返している。
西の塔では、シルヴィアさんの哀しみの波動が、兵士たちの心を折っている。
そして、王座の間へと向かう廊下では、ユウキ様が、静かに、城の歴史を消し去っている。
三人を同時に相手にはできない。
一人ずつ、確実に助け出すんだ。
私は決意を固め、西の塔へと走り出した。
最初に助けるのは。
「――まず、シルヴィアさんから……!」
私の、すんごいおっぱいが、仲間を救うための戦いが、今、始まった。




