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スキル名【すんごい、おっぱい】なんだけど、これってどうなの!?  作者: かわさきはっく
すんごい、おっぱいは世界を救う(?)編

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第56話 聖人とすんごいミルク

 静寂が戻った。

 魔王が消え、私たちを縛り付けていた、あの絶望的な圧力も、完全に消え失せていた。

 祭壇の上には最後の『神の枷』が、静かに鎮座している。


 私たちは、ただ、呆然と立ち尽くしていた。

 そして、魔王が消えた場所に、再び集まり始めた光の粒子が、一つの小さな形を成していくのを見つめていた。

 光が収まり、そこに現れたのは――


「……嘘だろ……」

 ユウキ様がかすれた声を漏らした。


 すやすやと、安らかな寝息を立てて眠る、一人の、無垢な赤ん坊だった。

 魔王だった頃の面影を残す、黒髪。それ以外は、どこにでもいる、普通の人間の赤ん坊にしか見えない。


「……魔王が……赤ん坊に、なっちまったのか……?」

 ダインさんが、その巨大な指で、赤ん坊のぷにぷにした頬を、そっと、つついてみる。赤ん坊は少しだけ身じろぎしただけで、起きる気配はない。


「概念の書き換え……存在の強制的な初期化……」

 シルヴィアさんが青い顔で、手帳に何かを書き込んでいる。

「もはや、奇跡などという生易しいものではない。これは……世界の理そのものを創り変える、創世の力……」


 その時だった。

 すやすやと眠っていた赤ん坊が、ふにゃ、と顔をしかめると、火が付いたように、泣き始めたのだ。

「ふえええええん! うぎゃー、うぎゃー!」


 世界の終わりよりも、もっと現実的で、もっと、どうしようもない危機が私たちを襲った。

「ど、どうすんだよ!」

 ユウキ様が狼狽える。

「お腹でも空いてるのか!? 何か食わせるもの……ないぞ!」

「泣き止ませろ! うるさくて頭に響く!」

 ダインさんが耳を塞ぐ。


 これまで、どんな絶体絶命のピンチも乗り越えてきた勇者パーティは、たった一人の赤ん坊を前に、完全に無力だった。


 その中で、自然と体が動いたのは私だけだった。

 それは、理屈ではなかった。ただ、目の前で、お腹を空かせた赤ちゃんが泣いている。

 その事実に、私の、よくわからない母性本能のようなものが、くすぐられた。


「よ、よしよし……泣かないで……」

 私は破れた服で、必死に胸を隠しながら、おそるおそる、その小さな体を抱き上げた。

 腕の中の温かい重みが、なんだか不思議な気持ちにさせる。


 しかし、赤ん坊は泣き止まない。

 私のお腹のあたりに顔をうずめて、さらに大きな声で泣き始めた。


(どうしよう……。この子、本当にお腹が空いてるんだわ……)

 私が本気で困り果てた、その時だった。


 抱きかかえられた赤ん坊が、その小さな口を、私の胸元に求めてきた。

 ぽすん。

 赤ん坊の柔らかな頬が、私の胸に触れる。


 ――私の体が熱くなった。

 胸の奥から、何かが、こみ上げてくるような不思議な感覚。

 私の胸が、淡い、黄金の光を放つ。


 そして。

 私の胸の先から、ぽたり、と、一滴。

 黄金色に輝く、神々しいまでの液体が、赤ん坊の唇に、こぼれ落ちた。


 赤ん坊は、ぴたり、と泣き止んだ。

 そして、その雫を、ぺろり、と舐めると、もっと欲しそうに、私の胸に、すり寄ってくる。


「「「…………」」」

 ユウキ様も、ダインさんも、そして、シルヴィアさんも。

 全員が完全に凍りついていた。


 やがて、ユウキ様が震える、震える声で言った。


「……お、お前……」

 彼の指が私を、指す。


「……母乳まで、出るのかよ……」


「じょ、常識が……」

 その一言を最後に、シルヴィアさんが、静かに、白目を剥いて倒れた。


 私のすんごいおっぱいは、ついに、生命の神秘の根源そのものに到達してしまったようだった。

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