第45話 決着とすんごい魔王
魔将軍ブルガロスは、ルルナの尻餅が引き起こした、あまりに理不尽な重力によって、その巨体を大地に沈めた。
戦場を支配していた圧倒的なまでの『力』の気配が完全に消え失せる。
「……勝ったのか……?」
生き残った騎士の一人が震える声で呟いた。
その一言を合図にしたかのように、戦場は地鳴りのような歓声に包まれた。
「うおおおおお! 俺たちの勝ちだあああ!」
「聖女様、万歳! 勇者様、万歳!」
騎士たちは兜を脱ぎ捨て、天に掲げ、抱き合い、涙を流して、勝利を喜び合った。
「がはは! さすがは嬢ちゃんだ! とんでもねえ尻餅だったぜ!」
ダインさんが私の頭を、わしわしと撫でる。
「……あなたのスキルは、もはや私の理解の範疇を完全に超えました」
シルヴィアさんは何かを諦めたように、静かに微笑んでいた。
ユウキ様はブルガロスが作った巨大なクレーターの底へと降りていくと、そこに静かに鎮座していた、一つの武具を拾い上げた。
それは、燃え盛る炎のような、ルビーでできた、禍々しくも美しい、篭手だった。
《憤怒の神の枷》。
王国側にとって、二つ目となる、神の遺物。
「……やったな、ルルナ」
ユウキ様がその篭手を手に、私に笑いかける。
「これで俺たちの勝ちだ」
その言葉は、この長かった戦いの終わりを告げていた。
その、まさに同じ時刻。
大陸の遥か北、万年雪に覆われた魔王城の最深部。
玉座に座る、一人の男が、ゆっくりと、その瞼を開いた。
彼の名は魔王。
その瞳には星々がきらめき、宇宙そのものが宿っているかのようだった。
彼は、これまで、この戦いを、ただの遊戯として、玉座から眺めているだけだった。
ガザリオスが討たれた時も、ヘクサーナが寝返った時も、そして、今、ブルガロスが敗れ去った時でさえも、彼の心は微動だにしなかった。
しかし、彼はブルガロスを打ち破った、その力の『質』に、初めて、興味を引かれていた。
「……重力か」
魔王は玉座に肘をつき、楽しそうに、その唇の端を吊り上げた。
「我が魔将軍たちを退けたのは、勇者の聖剣でも、エルフの魔法でも、ドワーフの剛力でもない。ただの小娘が、転んで、泣いて、驚いて、尻餅をついただけ、か」
彼は玉座から、ゆっくりと立ち上がった。
「面白い」
その一言だけで、城全体が、彼の強大な魔力に、びりびりと震える。
「聖女ルルナ、とやら。その根源不明の力……。余が、直々に確かめてやろう」
魔王が本気になった。
それは、この世界の本当の終わりが、近づいていることを意味していた。
私たちの本当の敵が、ついに動き出す。
これまでとは比べ物にならない戦いが、ついに始まろうとしていた。




