第44話 持久戦とすんごい重力
「終わりだ、ブルガロス! お前の炎は俺たちの聖女様には通用しねえ!」
ユウキ様のその言葉は、戦いの潮目が完全に変わったことを、戦場にいる全ての人間に知らしめた。
「全員、聖女様を中心に陣を組め!」
バルトーク騎士団長の号令で、騎士たちが私を囲むように鉄壁の円陣を組む。
私は、ただ、その中心で、仲間たちを、騎士たちを、信じて立っていた。
「小賢しい真似を……!」
ブルガロスは怒りに任せて、次から次へと炎の攻撃を繰り出してきた。
灼熱の息吹が、マグマの奔流が、私たちに襲いかかる。
しかし、その全ての熱と炎は、まるで掃除機に吸い込まれるかのように私の体へと吸い寄せられ、心地よい温もりとなって消えていく。
「なんだか、温泉に入っているみたいです……」
私の、あまりに緊張感のない感想に、仲間たちがずっこけそうになる。
私という「絶対的な熱吸収源」を盾に、騎士と仲間たちの猛攻が、ブルガロスをじわじわと追い詰めていく。
彼の自慢の甲殻に無数の傷が刻まれていった。
やがて、ブルガロスは、自分の炎の攻撃が、ただ私を気持ちよくさせているだけだという事実に、ようやく気づいたようだった。
「炎が効かぬなら……!」
彼は戦い方を変えた。
「その土台ごと、圧し潰してくれるわ!」
ブルガロスは炎の魔法を一切やめ、その規格外の『力』のみで、私たちを攻撃し始めた。
彼が地面を殴れば、地震が起きる。彼が足を踏み鳴らせば、衝撃波が走る。
戦場は激しく揺れ、私たちの足元は、どんどん不安定になっていく。
私の熱吸収の力は、この物理的な揺れには、全くの無力だった。
そして、ついに、ブルガロスは最後の攻撃に出た。
「大地の怒り(ガイア・レイジ)!」
彼は山のように巨大な体を天高く跳躍させると、私たち全員を押し潰すべく、灼熱の隕石となって落下してきた。
もはや逃げ場はない。
「め、目が回る……」
激しい揺れと、空から迫る絶望的な光景に、私は完全に平衡感覚を失っていた。
私の足が、もつれる。
そして、そのまま、どすん、と、その場に、強く、尻餅をついてしまった。
私の体が地面に衝撃を与えた、その瞬間。
ぽよよよんっ。
その反動で、私の胸が、これまでにないほど、激しく、複雑に揺れた。
――世界から、浮遊感が消えた。
私の胸から放たれた、目に見えない、超強力な重力の波が、戦場全体を地面に縫い付けたのだ。
私たちの足は、まるで大地に根が生えたかのように、ぴたり、と安定する。
しかし、その重力の波は、上空から落下してくるブルガロスにとっては悪夢だった。
凄まじい重力に引かれ、彼の落下速度は異常なまでに加速する。
回避も、軌道修正も、一切できない。
「ぐおおおおおっ!?」
ブルガロスの悲鳴と共に、彼は、まるで巨大な釘が打ち付けられるかのように、一直線に、私たちの目の前の地面へと、激突した。
ズゥゥゥゥゥン!!!
凄まじい轟音。
ブルガロスは自らが作った深い、深いクレーターの底で、その黒い巨体をピクリとも動かさなくなった。
「…………」
戦場は静寂に包まれた。
やがて、ユウキ様が尻餅をついたまま、きょとんとしている私を見て、乾いた笑いを漏らした。
「……座った衝撃で重力まで操るのかよ……」
彼は何かを諦めたような顔で、天を仰いだ。
「スキル名、『聖なる錨』! もう、何でもいいや……」
「お、お尻を強くぶつけただけなのに……」
私が涙目でそう言っても、もう誰も聞いてはいなかった。
こうして最後の魔将軍は、私のすんごいおっぱいが、すんごい尻餅の反動で引き起こした、すんごい重力によって、その幕を閉じた。




