第42話 騎士団とすんごい差し入れ
「待たせたな、騎士団長!」
ユウキ様の叫び声が絶望の戦場に響き渡った。
眼下で繰り広げられていたのは戦いですらなかった。
魔将軍ブルガロスの圧倒的な暴力に、王国最強と謳われた騎士たちが、ただ蹂躙されている。一方的な虐殺。
「こいつの相手は俺たちに任せな!」
ダインさんが雄叫びを上げて、ブルガロスの巨大な拳を、その戦斧で受け止める。凄まじい衝撃波が周囲の大気を震わせた。
「今のうちに騎士団の方々を!」
シルヴィアさんの魔法が蒸気と岩の壁を作り出し、一時的にブルガロスの視界を遮る。
私たちは、その隙に、生き残った騎士たちが立てこもる洞窟へと駆け込んだ。
洞窟の中は血と汗の匂い、そして、深い、深い絶望に満ちていた。
生き残った騎士は、わずか十数名。その誰もが深手を負い、息も絶え絶えだった。
「勇者殿……聖女様……」
壁に寄りかかっていた騎士団長バルトークさんが私たちに気づき、か細い声で言った。その屈強な体には鎧の上からでもわかるほどの、おびただしい傷。
「……面目ない……。我々は……もはや……」
彼の誇り高い瞳から光が消えかけていた。
「だめだ……あいつは化け物だ……」
「我々の剣では、傷一つ……」
他の騎士たちからも諦めの声が漏れる。士気は完全に地に落ちていた。
(なんとかしないと……!)
私は、この人たちを死なせたくない一心で、腰のポーチを探った。
そうだ、王宮から最高級の回復薬をいくつか持たされていたんだ。
私は、その一本を握りしめ、バルトーク騎士団長の元へと駆け寄った。
「バルトーク騎士団長! これを!」
しかし焦っていたせいだった。
洞窟の凹凸の激しい地面に足を取られてしまった。
「きゃっ!」
私は前のめりにつまずき、盛大に転びそうになる。
その時、手に持っていたポーションの小瓶が手からすっぽ抜けて、宙を舞った。
ぽすん。
小瓶は、まるで計算されたかのように私の胸の上で、一度だけ柔らかくバウンドした。
私は、それを空中でなんとかキャッチすると、何事もなかったかのように騎士団長の前に差し出した。
「ど、どうぞ!」
転びかけた恥ずかしさで、私の顔は真っ赤だった。
「……ありがたい、聖女様……」
騎士団長は、力なくそれを受け取ると、一気に飲み干した。
次の瞬間。
バルトーク騎士団長の体から、黄金の光が爆発するように溢れ出したのだ。
「こ、これは……!?」
見る見るうちに、彼の体に刻まれていたおびただしい傷が完全に塞がっていく。折れていたはずの腕が元通りになる。失われていた覇気が以前とは比較にならないほどの生命力となって、その全身にみなぎっていく。
「力が……力が、みなぎる! なんという奇跡だ!」
完全に回復した騎士団長は驚愕の表情で自分の体を見下ろしている。
そして、彼から溢れ出た黄金の光の余波は周囲で倒れていた他の騎士たちにも降り注ぎ、その傷を、みるみるうちに癒やしていく。
洞窟の中は先程までの絶望が嘘のように、再生と希望の光に満ちていた。
全員が、空になったポーションの小瓶と、私を、信じられないという目で見ている。
「……ただのポーションを神々の霊薬に変えちまうのかよ……」
ユウキ様が呆然と呟く。
「スキル名、『聖なる差し入れ(ホーリー・ケータリング)』! これなら何度でも戦えるぜ!」
完全に回復したバルトーク騎士団長は、その場に力強く立ち上がると、私の前に、深く、膝をついた。
「聖女ルルナ様! この御恩、この命に代えてもお返しいたします!」
他の騎士たちも、それに続く。
(私、ただ、ポーションを渡そうとして、つまずいただけなのに……)
私の混乱をよそに、騎士団長は洞窟の外に響く、ブルガロスの咆哮を聞きながら、高らかに叫んだ。
「皆の者、聞け! 聖女様は、我々と共にある! 我々の心はまだ折れてはおらん!」
彼は剣を抜き、天に掲げる。
「反撃の時だ! ブルガロスを討つぞ!」
「「「オオオオオオッ!」」」
騎士たちの、死に場所を探していたはずの瞳に、再び、闘志の炎が宿った。
私のすんごいおっぱいは、ついに人の運命さえも、ねじ曲げてしまったようだった。




