第36話 結界とすんごい鍵穴
聖なる魚に導かれ、私たちは光の届かない深海の暗闇をひたすらに進んだ。
どれほどの時間が経っただろうか。やがて暗闇の向こうに、ぼんやりとした青白い光が見えてきた。
近づくにつれて、その光は、一つの巨大な建造物の姿を浮かび上がらせる。
「あれが……《嘆きの海底神殿》……」
ユウキ様が息をのむ。
それは月光を浴びた真珠のように、青白く輝く荘厳な神殿だった。
部分的には崩落しているものの、その神々しいまでの姿は失われていない。
そして、神殿全体が巨大で、透明な光のドーム――神聖結界によって守られていた。
どこからか、祈るような、物悲しい音楽が聞こえてくる。
私たちを導いてくれた聖魚は、その結界の前でくるりと一回転すると、深海の闇へと帰っていった。マグロの大群もそれに続く。ここから先は彼らの領域ではないのだ。
「これが神聖結界……!」
シルヴィアさんが光のドームに手を触れようとするが、その寸前で見えない壁に阻まれる。
「純粋な神々の魔力で構成されています。魔族はもちろん、不純な魔力は一切通さないでしょう。私の魔法も、おそらく干渉できません」
「ちっ、びくともしやがらねえ!」
ダインさんが試しに殴ってみるが、その豪腕は柔らかな光によって、やすやすと弾き返されてしまった。
神殿へと続く入り口は結界によって固く閉ざされている。
その入り口の脇に、私たちは、一つの石碑のような台座を発見した。
台座の上には、ちょうど人の胸ほどの大きさの、滑らかな円形の窪みが一つ、ぽっかりと空いていた。
「何かの紋章をはめるための窪みのようですが……肝心の鍵が見当たりません」
シルヴィアさんの言う通り、周囲に鍵になりそうなものは何も見当たらない。
私たちは神殿を目の前にして、完全に手詰まりになってしまった。
私は、その物悲しい音楽に引かれるように、台座へと、ふらふらと近づいていた。
「なんだか……とても悲しい感じがします……」
私が、その台座に、そっと手を触れた、その時だった。
足元の珊瑚に、つまずいてしまった。
「きゃっ!」
私は前のめりによろめき、その台座に抱きつくような形で、倒れ込んでしまったのだ。
ぽすん。
私の胸が、その円形の窪みに、まるで誂えたかのように、寸分の狂いもなく、ぴったりと、はまってしまった。
――直後だった。
台座が、まばゆい光を放ち始めた。
物悲しかった音楽は、温かく、私たちを歓迎するかのような、優しい音色へと変わる。
そして、台座から放たれた光の筋が、巨大なドーム全体へと広がり、網目のような模様を描いていく。
巨大な神聖結界は砕け散るのではない。
まるで役目を終えたとでもいうように、無数の光の粒子となり、深海の闇へと静かに溶けて消えていった。
「「「…………」」」
私たちは目の前で起こった奇跡に、ただ言葉を失っていた。
やがてユウキ様が、台座の窪みと私の胸を交互に何度も見比べた後、震える声で言った。
「……あの窪み……まさか、ルルナの胸のサイズと形に、寸分違わずピッタリだったのか……?」
彼は天を仰いで叫んだ。
「スキル名、『聖なる鍵穴』! どんな鍵でも胸で開けちまうのかよ!」
「わ、私、何もしてません! ちょっと寄りかかっただけで……!」
私の抗議の声は、もう誰にも届いていなかった。
こうして、古代の賢者さえも突破できなかった神聖結界は、私のすんごいおっぱいが、すんごい鍵穴にすっぽりハマったことで、あっけなく、その門戸を開いた。
神殿の奥から、私たちを誘うかのように、静かな光が漏れ出していた。




