第34話 準備とすんごい水着
私たちの次なる目的地は《嘆きの海底神殿》。
しかし、言うは易し。どうやって人間が、遥か深海の神殿まで行くというのか。
「古代魔法には水中での呼吸を可能にする『水中呼吸』の術式が存在したという記録があります。ですが現存するかは……」
王城の書斎でシルヴィアさんが難しい顔で古文書をめくる。
「ドワーフは息止めが得意だ! 10分は余裕だぜ!」
ダインさんの自慢は今回の任務では全く役に立ちそうにない。
王宮の魔術師や学者たちも頭を抱える中、一つの助言を与えてくれたのは、意外にも、元・魔女のヘクサーナだった。
彼女は私たちの作戦計画書を一瞥すると、鼻で笑った。
「……そんなもので海底神殿の神聖な結界を突破できるとでも? 愚かね」
ヘクサーナによれば、海底神殿は強力な神聖結界に守られており、魔族だけでなく、中途半端な魔法や魔道具も全て弾き返してしまうという。
「……一つだけ、方法があるわ。神殿の結界は『純粋な生命』に対しては寛容。神々の時代の祝福を受けた装備であれば、その効果は減衰しないはずよ」
その助言を受け、私たちは国王陛下の許可を得て、王家の宝物庫へと足を踏み入れた。
山と積まれた金銀財宝や伝説の武具。しかし、水中活動を可能にするような、都合の良い古代遺物は、なかなか見つからない。
「くそー、見つからねえな……」
ユウキ様が諦めかけたように言った。
私も何か手伝えないかと、宝物庫の隅に積まれていた、古びた布の山を調べていた。
その中の一枚、真珠のような光沢を放つ美しい布地に、私はふと目を奪われた。
「わぁ……綺麗……」
私はその布をそっと手に取ると、その滑らかな肌触りに、うっとりとしてしまった。
(どんな人が、これを着ていたんだろう……。私にも似合うかな……?)
そんな、ほんの少しの少女らしい好奇心から、私は、その布を自分の身体にそっとあてがってみた。
ぽすん。
布は私の胸のふくらみに優しく触れた。
直後だった。
私の胸に触れた布が、まるで眠りから覚めたかのように、まばゆい七色の光を放ち始めたのだ。
「なっ! ルルナ、それは!?」
ユウキ様が驚きの声を上げる。
全員の視線が私が手に持つ布へと注がれていた。
そこにあったのは、先程までただの古布だったはずの、虹色に輝く、神々しいまでの布地だった。
「……信じられない……」
シルヴィアさんが、その布を震える手で受け取る。
「これは……ただの古布だったはず……。それが今、術式が起動し、完全な『水中適応の祝福』が宿っている……! これだけの魔力があれば、深海の圧力にも、呼吸にも、完全に対応できる!」
どうやら私は、またしても、ただのガラクタを国宝級の古代遺物に変化させてしまったらしい。
「これを着るのか……?」
ダインさんが、その体にぴたりとフィットしそうな、伸縮性のある布を見て、顔をしかめる。
「ほとんど裸じゃねえか」
しかし、ユウキ様の目は爛々と輝いていた。
彼は、その布が私やシルヴィアさんの体にぴったりとフィットした姿を想像しているに違いなかった。
「最高の装備じゃないか! スキル名、『聖なる水着』! よし、早速、城一番の仕立て屋を呼んで、パーティ全員分の装備を作ってもらうぞ!」
数日後。
王都の南、港町ポルト・マーレ。
私たちは王国海軍の最新鋭の船の上に立っていた。
体にぴったりとフィットする、虹色に輝く魔法の水着。その上から、ローブを羽織ってはいるものの、恥ずしくて死にそうだ。
「いよいよだな、ルルナ」
ユウキ様が、どこまでも広がる青い海を指さす。
「あの海の下に俺たちの次の冒険が待ってるぜ!」
私のすんごいおっぱいが錬成した、すんごい水着を身にまとい。
私たちの前代未聞の海中冒険が始まろうとしていた。




