第33話 軍議とすんごい神託
魔女ヘクサーナの尋問は王城の最重要機密として、国王陛下と我々パーティメンバーだけが参加する、極秘の軍事会議という形で行われた。
軟禁されている部屋から出てきた彼女は、やつれてはいたものの、その瞳には諦めではない、静かな覚悟の色が宿っていた。
「私の知る全てをお話しします」
ヘクサーナが語り始めた内容は私たちの想像を絶するものだった。
魔王の目的は単なる領土の征服や、人間の根絶ではなかった。
「あの方――魔王様の真の目的は、太古の昔に封印された『混沌神』の復活にあります」
混沌神。それは、この世界の全ての秩序を破壊し、万物を無に帰すという、伝説上の存在。
「混沌神を復活させるには二つの要素が必要です。一つは、世界に満ちる負のエネルギー。憎しみ、悲しみ、絶望……。そしてもう一つは、各地に封印されている、三つの『神の枷』と呼ばれる古代遺物」
ガザリオスの侵攻も、ヘクサーナの呪いも、全てはそのためにあったのだ。
人々の絶望を煽り、負のエネルギーを集めると同時に、神の枷を探すために。
「一つ目の枷は、ガザリオスがグライフェン砦の地下深くで見つけ出すはずでした。しかし、あなたたちの活躍で、それは失敗に終わった」
ヘクサーナは静かに私たちを見る。
「ですが魔王様は、すでに次の一手を打っています。枷を手に入れるため、私やガザリオスを遥かに凌ぐ、最強の二人の魔将軍を、すでにお遣わしになりました」
彼女は地図の上に、二つの場所を指し示した。
一つは、遥か南海の海底に沈むという《嘆きの海底神殿》。
もう一つは、灼熱のマグマの中に存在する《憤怒の火山炉》。
「どちらの場所にも、間もなく魔将軍が到着するでしょう。彼らが枷を手にしてしまえば、もう誰にも魔王様を止めることはできません」
司令室は絶望的な沈黙に包まれた。
世界の終わり。その言葉が現実味を帯びて重くのしかかる。
「……勇者ユウキよ」
最初に沈黙を破ったのは国王陛下だった。
「我々は二手に分かれねばならん。近衛騎士団が一つの枷の確保に向かう。そして、残るもう一つの枷を、そなたたち勇者パーティに託したい。どちらの脅威に立ち向かうか、そなたたちの判断に委ねる」
国王陛下からの、あまりに重い選択。
私は、その重苦しい雰囲気に喉がカラカラに乾いていた。
そっと、テーブルの上の水差しに手を伸ばし、グラスに水を注ぐ。
そして、その水を飲もうとした、その時だった。
極度の緊張で私の手が滑ってしまった。
「あっ!」
手から滑り落ちたグラスは床には落ちなかった。しかし――。
ぽよんっ。
グラスは私の胸の上で一度、優しくバウンドした。
その勢いで、中の水が地図の上に、ざっとこぼれ落ちてしまったのだ。
こぼれた水は地図の上に置かれていた二つの駒を、まるで意思を持ったかのように動かしていく。
そして奇跡は、またしても何の前触れもなく起こった。
《憤怒の火山炉》を示す赤い駒は、水の流れに乗って、国王陛下の目の前で、ぴたり、と止まった。
《嘆きの海底神殿》を示す青い駒は、同じく水の流れに乗り、ユウキ様の目の前で、ぴたり、と止まった。
部屋にいる全員が、その光景に息をのむ。
「……これは……」
国王陛下が、ご自身の目の前にある赤い駒を見て、厳かに呟いた。
「神の御意志か。火山炉の脅威は、この私が、王国騎士団を率いて退ける、と」
ユウキ様も、目の前の青い駒を見つめ、そして、力強く頷いた。
「御意。我々勇者パーティは、この神託に従い、《嘆きの海底神殿》へ向かいます!」
こうして、私たちの次なる目的地は、私のすんごいおっぱいが引き起こした、神の御業であるかのような奇跡によって、決定された。
目指すは、南海の秘境、《嘆きの海底神殿》。
世界の命運を左右する、魔王軍との古代遺物をめぐる競争。
物語は、もはや一つの国の中だけには収まらなくなっていた。




