第31話 戦後処理とすんごい再生
魔女ヘクサーナの呪いは、ルルナの〝すんごい抱擁〟によって、完全に浄化された。
広間に咲き乱れる純白の薔薇の中で、元凶であった魔女は、ただ静かに涙を流している。
「こいつが元凶なんだろ? とどめを刺すべきじゃねえか?」
ダインさんが戦斧を握り締めながら、現実的な提案をする。
「魔力の源を失い、彼女はもはや脅威ではありません」
シルヴィアさんは冷静に分析する。
「ですが王国法に基づけば、国家転覆級の犯罪者です。王都へ連行するのが筋でしょう」
ユウキ様は聖剣を構えたまま、答えに迷っていた。
勇者として魔族は斬るべき相手だ。しかし、目の前で泣きじゃくる彼女は、もはや邪悪な魔女には見えなかった。
彼は私に判断を委ねるように視線を向けた。
「……ルルナ、お前はどうしたい?」
私は泣いているヘクサーナの元へ、ゆっくりと歩み寄った。
そして彼女の前にしゃがみ込むと、そっと手を差し伸べた。
「……帰りましょう」
私の言葉に、ヘクサーナが涙に濡れた顔を上げた。
「もう、一人でこんな寂しい場所にいなくても、いいんですよ」
「どうして……?」
ヘクサーナの声は、か細く震えていた。
「私は、あなたたちの国を滅ぼそうとしたのよ……? それに、たくさんの命を……」
私は、ただ、小さく首を振った。
「それでも、あなたは泣いていましたから」
その、あまりに単純な答えに、ヘクサーナは言葉を失ったようだった。
彼女は、しばらくの間、私と、差し出された私の手を交互に見つめていたが、やがて、おそるおそる、その冷たい指先を私の手に重ねた。
こうして、私たちは魔王軍の幹部の一人を捕虜として王都へ連行することになった。
ティルナ地方を王都へと戻る道。
その道中で、私たちは第二の奇跡を目の当たりにした。
私たちが浄化した《太陽のカルデラ湖》の水が、ティルナ大河を下り、大地を潤していく。
そして、その清らかな水が触れた場所から、生命が再生していくのだ。
枯れ果てていた茶色い大地に、まるで緑色の絨毯を広げるように、若草が芽吹いていく。
骸骨のようだった木々には、新しい葉が一斉に生え茂る。
村人たちが家の外に出てきて、その光景に涙を流し、大地にひれ伏して神に祈りを捧げていた。
まるで世界が生まれ変わる瞬間を見ているかのようだった。
馬車の中から、ヘクサーナも、その光景を、ただ黙って見つめていた。
自分が殺したはずの命が、目の前で、力強く蘇っていく。
その光景は彼女の心に、一体何を映したのだろうか。
「……あなた、一体、何者なの……?」
彼女が、ぽつりと私に尋ねた。
私は少しだけ考えて答えた。
「ルルナ・フォン・クライネルトです。クライネルト家の、ただの娘です」
私の答えに、彼女は、ますます訳が分からないという顔をした。
王都ソリスティアに私たちが帰還した時、街は、またしても熱狂の渦に包まれた。
『聖女様が呪われた大地を蘇らせた!』
そのニュースは、すでに王都中に知れ渡っていたのだ。
そして民衆は、もう一つの事実に度肝を抜かれることになる。
英雄たちの後ろを、あの『厄災の魔女』が、まるで迷子の子供のように、しょんぼりと、しかし、素直について歩いているのだから。
『王国の聖女』は、敵である魔王軍の幹部さえも、その慈愛によって救ってしまった。
その新たな伝説が魔王の耳に届く時、物語は次の局面へと大きく動き出すことになる。




