第24話 決戦とすんごい大食らい
「行くぞ! 一気に決める!」
ユウキ様の号令と共に私たちは敵本陣である天幕へと突入した。
中にいたのは、巨大な作戦地図を前に腕を組む、一人の魔族。
その体は鋼のような黒い鎧に包まれ、頭からは禍々しい二本の角が生えている。圧倒的な魔力と揺るぎない威圧感。彼こそが、この軍勢を率いる『魔将軍ガザリオス』に違いなかった。
「……ネズミが紛れ込んだようだな」
ガザリオスは私たちを見ても、一切動じなかった。
「陽動に気を取られている間に本陣を叩くつもりだったか。浅はかな」
その唇に冷酷な笑みが浮かぶ。
「魔将軍ガザリオス! 勇者ユウキが、お前の首、貰い受ける!」
ユウキ様の叫びを合図に戦闘が始まった。
「こいつらの相手は俺が引き受けた!」
ダインさんがガザリオスの両脇に控えていた二人の屈強な側近へと突進する。
私とシルヴィアさんが後方へ下がり、ユウキ様がガザリオスへと斬りかかった。
キィィン!と聖剣と魔剣が激しく火花を散らす。
ガザリオスはユウキ様の猛攻を片手で捌きながら、もう片方の手を突き出し、詠唱を始めた。
「小娘の魔法など児戯に等しいわ!」
シルヴィアさんが放った雷撃をガザリオスは魔法の障壁でたやすく弾き返す。強い。これまでの敵とは次元が違う。
ユウキ様も徐々に押し込まれ始めていた。
「終わりだ勇者もどき!」
ガザリオスがユウキ様を大きく弾き飛ばすと、その両手に禍々しい闇の魔力を集中させ始めた。
漆黒のエネルギーが渦を巻き、凝縮していく。
「この『混沌の滅び(ケイオス・ディストラクション)』で、貴様ら全員、塵と化すがいい!」
彼の手から放たれたのは、全てを飲み込み破壊し尽くすであろう、巨大な闇の球体だった。
「ダメです…! あれは防ぎきれません!」
シルヴィアさんの悲痛な声が響く。
もう誰もが死を覚悟した。
その時だった。
仲間たちが私を守るように、私の前に立とうとしているのが見えた。
(いやだ…! 私だけ守られるなんて…! みんなを失いたくない!)
恐怖を振り払ったのは、仲間を失うことへの、もっと大きな恐怖だった。
私は考えるより先に仲間たちの前に飛び出していた。
そして仲間たちと、迫りくる闇の球体の間に立ちはだかった。自分より後ろには行かせない、と。その脅威そのものに向かって、ほとんど悲鳴のように叫んだ。
「こっちへこないでっ!」
それは、仲間たちを守るための彼女にできる唯一で、最善の言葉だった。
迫りくる絶望の塊。
私は両腕を広げ、それを迎え撃つように、ぐっと胸を張った。
そして闇の魔法は私の胸に吸い込まれた。
…………。
爆発も、衝撃も、何も起こらない。
あれほど巨大だった闇のエネルギーが、まるでブラックホールにでも飲み込まれたかのように、私の胸の中へと跡形もなく消えてしまったのだ。
天幕の中に絶対的な静寂が訪れる。
「ひっく……」
私の口から小さな可愛らしいしゃっくりが一つ、漏れた。
私は自分の胸をさする。
(……? なんだか胸がいっぱいに……?)
「馬鹿な……」
ガザリオスが愕然とした表情で立ち尽くしていた。
「俺の最強の魔法が……吸収されただと……? ありえん!」
全ての魔力を使い果たした彼は完全に無防備だった。
「今だっ!」
最初に我に返ったユウキ様の叫びが静寂を破った。
ダインさんとユウキさんが最後の力を振り絞り、無防備な魔将軍へと突撃する。
勝負は一瞬だった。
「……なんだ、あの小娘は……一体、何なのだ……」
床に崩れ落ちながら、ガザリオスは最後の最後まで信じられないという目で私を見つめていた。
魔将軍の討伐。それはグライフェン砦の完全な勝利を意味していた。
「ルルナ! 大丈夫か!?」
ユウキ様が私の元へ駆け寄ってくる。
「…今の、まさか敵の魔力を『食べた』のか!? スキル名『聖なる大食らい(ホーリー・グラットン)』! なんて燃費の悪いスキルだ!」
「よくわからないですけど、なんだかお腹がいっぱいです……」
私は、ぽん、と自分のお腹を叩いた。
こうして魔王軍による最初の危機は私のすんごいおっぱいが、敵の切り札を文字通り〝完食〟してしまったことで幕を閉じた。
そして、この規格外の奇跡が、魔王軍に私という存在を「絶対に排除すべき最優先ターゲット」として、深く刻み込むことになったのを私はまだ知る由もなかった。




