第22話 作戦会議とすんごい神眼
魔導投石機を破壊された魔王軍は混乱し、一時的に攻勢を緩めていた。
その隙に私たちはグライフェン砦へと帰還した。
「聖女ルルナ様! 万歳! 万歳!」
城壁の上や砦の中庭で、兵士たちが熱狂的な歓声を上げる。
誰もが私を「国を救う女神」として、崇めるような目で見ている。その度に私は仲間たちの後ろに隠れ、身を縮こまらせた。
すぐに私たちは砦の司令官室に呼ばれ、緊急の作戦会議に参加することになった。
集まっているのは歴戦の騎士や士官たち。部屋の空気は勝利の余韻と、次なる戦いへの緊張感で張り詰めている。
「聖女ルルナ様! あなた様のおかげで、我々は九死に一生を得ました! この御恩、終生忘れませぬ!」
司令官が興奮した様子で私の手を取り、感謝を述べる。私はただ「い、いえ、私は何も……」と答えるのが精一杯だった。
会議の議題は敵の総大将――『魔将軍ガザリオス』についてだった。
彼は魔王軍の中でも特に冷酷で、知略に長けた将軍として恐れられているという。投石機を一つ破壊されたくらいで、諦めて引き返すような男ではない。
「奴が次の一手を打つ前に、こちらから仕掛けるべきだ」
「しかし敵の陣営は固い。正面からの攻撃は被害が大きいぞ」
騎士たちの間で議論が白熱する。
「勇者殿、そして聖女様」
司令官が助けを求めるように私たちを見た。
「敵将ガザリオスを討つ、何か良い策はないだろうか?」
その言葉に、ユウキ様が待ってましたとばかりに立ち上がった。
「策はあります! 我らが聖女ルルナ、彼女こそが必勝の策です!」
(また始まった……)と、私は頭を抱えたくなる。
「まず、ルルナを最前線に配置します。彼女の『絶対防衛反撃』があれば、敵のいかなる遠距離攻撃もカウンターが可能です! 敵が接近すれば、今度は『絶対的魅了』が敵兵の戦意を奪う! まさに無敵の布陣です!」
ユウキ様が自信満々に語る、私を人間兵器として使う作戦。
歴戦の騎士たちは、そのあまりに突拍子のない内容に、ただポカンとしている。
「む、むりです! 私、そんなことできません!」
私がパニックになって、思わず立ち上がった、その時だった。
勢いよくテーブルに手をついて抗議しようとした私は、机の上の物に気づかなかった。
私の手が、地図の上に置かれていた、作戦指示用の小さな短剣に当たってしまう。
弾かれた短剣は、くるくると宙を舞い、広げられた地図の上に、トンッ、と音を立てて突き刺さった。
部屋が静まり返る。
全員の視線が地図上の一点に突き刺さった短剣に注がれていた。
「こ、この道は……?」
若い士官が地図を覗き込み、驚愕の声を上げた。
「まさか敵本陣の裏手に通じる獣道……? こんな見落としがあったなんて……!」
短剣が指し示していたのは、誰一人として気づかなかった、敵の背後を突くための唯一のルートだったのだ。
司令官が地図と私を交互に見て、わなわなと震え始めた。
「なんと……! 聖女様は我々が気づかなかった唯一の勝機を指し示してくださったというのか……!」
「見ましたか!」
ユウキ様が得意満面に叫ぶ。
「これがルルナの『神眼』! 戦場の全てを見通し、最適解を指し示す、究極の戦術スキルです!」
「……確率論も、統計学も、もはや意味をなさない……」
シルヴィアさんが、またしても真理を見失って天井を仰いでいる。
「がはは! シルヴィアは考えすぎなんだよ! 結果が良けりゃ、それでいいじゃねえか!」
ダインさんが彼女の苦悩を豪快な笑いで一蹴した。
こうして新たな作戦が決定した。
砦の主力が正面から陽動攻撃をかけ、その隙に私たち勇者パーティが発見された間道を通って敵の本陣を急襲し、魔将軍ガザリオスの首を取る。
ただ無茶な作戦に反対したかっただけの私は、いつの間にか全軍の命運を左右する、最重要任務の中心に据えられてしまっていた。
その役割のあまりの重さに、私はもう、泣くことさえできなかった。




