第19話 私とすんごい決意
長かったようで、あっという間だった休暇の、最後の日。
私は、城の部屋の窓辺に立ち、眼下に広がる王都ソリスティアの街並みを、ぼんやりと眺めていた。
ここに来てから、本当に色々なことがあった。
シルヴィアさんは、私のことを「バグ」だと言った。でも、誰よりも真剣に、私のことを知ろうとしてくれている。私のせいで、彼女が信じる「論理」をめちゃくちゃにしてしまったけど……それでも、嬉しかった。
ユウキ様は、いつも明るくて自信満々に見えるけど、本当は私と同じように不安を抱えている。私のこの力が、彼の支えになっているのなら…少しは、役に立っているのだろうか。
ダインさんは、私のことを「家族みてえなもんだ」と言ってくれた。勘当された私に、新しい「居場所」をくれた。あの無骨で温かい手は、厳格だった父とは、全然違った……。
私は、窓ガラスに映る自分の姿を見た。
そして、その視線は、自然と自分の胸元へと落ちる。
【すんごい、おっぱい】
家の恥だと絶望し、呪わしいとさえ思った、このスキル。この胸。
でも、本当にそうだろうか。
この胸があったから、ユウキ様は私を仲間にしてくれた。
この胸があったから、シルヴィアさんは、私に興味を持ってくれた。
この胸があったから、ダインさんは、私を力強く守ってくれると言ってくれた。
たくさんの騒動を起こした。たくさん恥ずかしい思いもした。
でも、この胸が、私と、大切な仲間たちを繋いでくれたのかもしれない。
私は、机の上にそっと置いていた、一枚の絆創膏を手に取った。
市場で会った、小さな女の子が貼ってくれたものだ。
「いたいの、とんでけー」
あの子は、私のスキルなんて関係なく、ただ、私のことを見て、そう言ってくれた。
(……そっか)
すとん、と。
胸の奥で、何かが腑に落ちた気がした。
この力が何なのかは、まだわからない。
いつ、どこで、どんな奇跡が起こるのかも、私にはコントロールできない。
でも。
(もう、ただ怖がってばかりなのは、やめよう)
私は、窓に映る自分に向かって、強く心に誓った。
この力が、たとえ呪いだったとしても。
この力で、大切な仲間たちの役に立ちたい。
ユウキ様を、本当の勇者にしたい。
シルヴィアさんの謎を解く手伝いをしたい。
ダインさんが守るものを、一緒に守りたい。
私が、このパーティの、本当の仲間になるために。
私がそう決意を固めた、その時だった。
コンコン、と部屋のドアがノックされ、ユウキ様の声が響いた。
「ルルナ! 休みは終わりだぜ! ギルドから緊急の呼び出しだ! 何か大きなことが起きたらしい!」
その声は、新たな冒険の始まりを告げていた。
これまでは、ただ流されるだけだった、その響き。
でも、今の私には、少しだけ違って聞こえた。
私は、最後に一度だけ、窓に映る自分を見つめる。
そして、これまでの人生で、一番強い意志を込めて、返事をした。
「はい! 今、行きます!」
私の声は、もう、震えてはいなかった。
序盤の終わりを告げるその声は、新たな物語の始まりの、狼煙だった。




