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七話 聖地ラグナランカシャ



 数日後。

 レルシャは家族に見送られて、ラグナランカシャへと旅立った。道中は伯爵家の騎士に守られていたから安全だったが、いくつもの草原や森、山を越え、ようやくラグナランカシャの入口まで来ると、彼らは立ちどまった。


「レルシャさま。我々はここまでです。ここからさきは聖地なので、戦の匂いのしみついた我らには立ち入れません。どうぞ、お元気で」

「ありがとう……」


 去っていく騎士たちの背中を心細く見送る。

 ラグナランカシャは高い山脈にかこまれた峡谷きょうこくにあった。大自然の要塞だ。入口は遺跡のような門がふさいでいる。その扉は村の僧侶たちが守っていた。


「レルシャさまですね。伯爵さまより文をいただいております。お待ちしておりましたよ」


 まだ若い僧侶だ。たぶん、兄のアラミスより年下。十八、九くらい。僧侶だから、髪は丸めていない。

 神殿に一生を捧げた聖職の神官と僧侶は厳格に異なる。たしかに、もと神官であったり、神官と僧職を両立している者も多いが、僧侶とは回復魔法を使う人たちの総称で、なかにはふつうに結婚して、自宅で暮らしている者もいる。スキルによっては商人などと二足のわらじをはいていたり。


「あ、あの、よろしくお願いします。レルシャ・レムランです」

「ウーウダリです。これから、あなたのお世話は私がします。困ったことがあれば、なんでもおっしゃってください。できる内容であれば対処します」


 いつも笑みをたやさないので、目が糸みたいに細い。髪がブラウンなのが兄を思いだして、ちょっとツラい。でも、とりあえず、足手まといとは思われていないようだ。


 そのわけはすぐにわかった。巨大な両扉がひらかれると、なかは天然の岩山をくりぬいたトンネルになっていた。そこをぬけたさきには、意表をつかれるほどのどかな風景がひろがっている。谷底なのでそこまで高地ではなく、思っていたより空気も濃いし、畑や果実畑が牧草地のあいまに点在している。家は極端に少ない。村の中心にはキレイな小川が流れ、それは村外れの崖下へ滝となって流れおちている。白や黒の羊があっちにもこっちにもいて、青々としげる草をはんでいる。青空をただよう雲まで羊の形だ。これ以上、平和な景色などほかにない。


「わあっ、スゴイ。なんてキレイなんだろう」


 伯爵家の居城近くでは見なかっためずらしい花や果実がそこここにあり、まるで宝石だ。


 そして、ウワサには聞いていたが、古い時代の遺物とおぼしき石造りの建物が数えきれないほどあった。多くは村をかこむ山肌に、へばりつくように彫刻や柱が刻まれ、石の扉でおおわれている。だが、村のなかにもたくさんある。小さなほこらから、立派な神殿のようなものまで。


 おどろいたのは、それら古代遺跡のほとんどすべてから、色とりどりの光が発していたことだ。青や赤、ピンク、緑、黄色。それに金、銀。紫。黒に白。あわいベビーブルーやほんのり虹色のまざるオパール色。南国の花のような燃えるオレンジ。

 光の強弱もさまざまだ。夜空の星のごとく、またたいている。村じゅうが無数の蛍の光で照らされているようだ。その光が陽光に乱反射し、この世のものとは思えないほど美しい。光が重なりあって、小さな虹さえできている。


「ウーウダリさん。素敵なところですね。遺跡があんなに輝いて」

「遺跡が……ですか?」


 ウーウダリは周囲を見まわしたのち、首をかしげた。


「まあ、今日はよく晴れていますからね。西日のころには壁が反射して、もっとキレイですよ」

「壁じゃないよ。遺跡の内側から赤や青の光が発して、泡みたいに村じゅうを包んでるよ」

「はあ? まあ、最初に遺跡を見た人はみんな感動しますね。でも、ほとんどは入れません。どこにも入口がないのです。たぶん、なかでは一つにつながってるんじゃないかなど言われて、研究する者もいますがね。入れないんじゃ続けようがないので、すぐに飽きてしまいます」


 なかへ入れない? 《《入口がない》》?


 なんだか、レルシャはとても奇妙な気持ちになった。あんなにハッキリ扉が見えているのに、何を言っているのだろうか? それに、ウーウダリにはあれだけまぶしく輝くカラフルな光の花がただの一つも見えていないみたいだ。


(見えて……見る。見つける。発見——)


 まさか、これがレルシャのスキルだろうか?

 これは果たして《《何を》》発見したのか?

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