六十四話 ラグナランカシャへ
「兄上……じゃあ、おやすみなさい」
「……」
かたくなにそっぽをむき続ける兄の姿に硬質な拒絶を感じる。よろめきながら退室しようとしたが、扉の前でふりかえったレルシャは気づいた。兄が涙をぬぐっていることに。
思わず、きびすを返し、兄に抱きついた。
「兄上! ごめんなさい。ぼくのせいで……ぼくを助けようとして、こんなことに……」
レルシャの双眸からも涙があふれ、とまらない。
アラミスはレルシャを両手で押しかえした。
「おまえのせいじゃない。おれの判断は正しかった。じっさい、今じゃおまえのほうが、おれの何倍も強くなったんだ。おれの行動でおまえが救えたんだから、それは伯爵家のためにいいことだったんだよ」
「でも、兄上……」
「頼む。レルシャ。もう行ってくれ。これ以上、おれをみじめにさせないでくれ。おまえを恨ませないでくれ。おれは正しいことをしたのだと、自分を誇れるうちに行ってくれ」
家族だから、兄弟だからこそわかる。男どうしだから比較され、相手より自分のほうが劣るのだとつきつけられることが、どれほどツライか。それはかつて、レルシャが味わってきた苦悩だ。
でも、今でも変わらずレルシャは兄を好きだし、兄もレルシャを愛してくれている。だからこそ、よけいに苦しいのだと。
「ぼく、どんな方法を使っても、兄上がまた歩けるようになれる魔法を見つけてきます。だから、だから……ぼくをゆるしてください。必ず、約束しますから……」
「……」
自分を見てくれない兄から離れ、レルシャは立ちあがった。きっと、もとどおりの体になれば、兄もまた以前の朗らかさをとりもどしてくれる。
使命がまた一つ増えた。ソフィアラをつれもどすこと。ダヴィドを助けること。そして、兄の足を治すこと。
レルシャが扉をあけると、背後で声が聞こえた。
「……待ってるぞ。レルシャ」
かえりみると、兄がこっちを見て、かすかに笑っていた。まだつらそうな笑みだが、いつか、きっと、この笑みが本物になる日が来ると、レルシャは信じた。
「はい! 必ず……」
翌朝、レルシャはラグナランカシャへ旅立った。次に伯爵家へ戻るのは、遺跡をすべて制覇したとき。あるいは、兄の足を完全治癒できる魔法を会得したときだ。
*
さあ、これがレルシャの物語の始まりの終わりです。
いつかまた、この続きをお話ししましょう。
立派に成人し、さらわれたソフィアラを探しに魔界へ旅立つ話を。
ならぶ者なき大賢者と、のちに帝都で呼ばれることとなる少年の物語を——
了
新シリーズ、いかがでしたでしょうか?
この話は複雑な構成の話からちょっと離れて、気軽なファンタジーを書きたいと思ったときに、たまたま思いついたので書きました。いや、ほんと書きやすかったです。じゃっかん、レルシャがかーくんぽいですがw
レルシャは十歳にしてはそうとうに大人びてますよね。人によっては、キャラの造形ミスと言われるかもしれません。こんなの子どもじゃないと。
ただね。僕はこんな感じの子どもでした。慎重派だったので、考えてから行動したし。お金の使い方とか、全部計算してたし。ほんとはお遊戯がガキくさくて大嫌いだったけど、大人が子どもに『子どもらしさ』を求めてるんだと理解してて、「子どもがお遊戯なんて子どもくさくて嫌いって言ったらビックリするんだろうな。しょうがないから、あわせてあげるよ」と、小2のときには考えてました。そういう子どもです。
なので、僕から見れば、レルシャは子どものころの僕よりちょっとだけ大人っぽいだけなんですよね。十歳というより、十二歳くらいのころの僕。小6ではもう大人が読む文庫で松本清張とか読んでました。それも今の文庫と違って、ものすごい小さい字がビッシリならんでたんですよ。学校で習ってない漢字がいっぱい出てね。
まあ、やっぱり自分に似た子のほうが書きやすいですから。
そんなわけで、主役はあんまり子どもらしくない子かもしれませんが、今回めざしたのは、じつのところ、小学生でも読めるファンタジーです。
アニメ見るの好きなので、よく見るんですが、今アニメ化されてるのって、じつは異世界転生ではなく、ふつうの王道ファンタジーだよなぁと。そこにゲームの世界観だけテンプレとして残したハイファンタジーだなと。
僕の住んでるとこが都会で流行ったアニメか、そうとう人気の原作つきしかしないので、よけいにそうなのかも。
薬屋、フリーレン、シャンフロ、七つの大罪、ダンジョン飯も転生じゃなかった。シャンフロは現代でVRだかなんだかだけど、そのへんの違いがよくわからない。鑑定スキルは転生でしたね。なぜか自分だけステータスが見えることの理由なので必要ではあるんだろうけど、転生要素なくてもおもしろかった。今、杖と剣のウィストリア、見てたんですが、これも転生じゃない。どれも独自の世界観でありつつ、わかりやすいファンタジー。
転生物の流行りって、じつは遠くなりつつあるのかなぁと思った。子どもの求めてるのって、それじゃないんじゃないかって。
というわけで、書いてみました。子どもにもわかりやすく、大人が読んでも楽しいファンタジー。
今回はその少年期だけで終わってます。サブタイトルの最後までで、ちょうど終わりですね。
もちろん、このあとも続けることは可能なんですが、本一冊ぶんの13万字弱に達したので、今回はここまで。いつか続きを……という、いつものパターン。
ここからネタバレです。今後の展開で思いついてることを書きますので、知りたくないかたは、このあとを読むのはやめたほうがよいです。
ソフィは数値的には強くなったので、魔物にいじめられる心配はないんですが、魔界で生きていくためにザウィダの部下になり、成人したレルシャと再会。そのとき、これまた成人したダヴィドとの三角関係とかあってもおもしろそうだなと。
兄貴は今考えてるのは、ラグナランカシャで静養中にキースティングスから義足を買うか、遺跡で何かの解放を得て歩けるようになるか。なんかそんなふうに考えています。いったんレルシャと反目するけど、けっきょく仲直りして共闘する、みたいな。兄弟で魔界へ旅立ってもいいし。
その前に帝都かな?
今回出てきたディーンさんは、じつは昔、帝都の将軍だったけど、宮殿の権力争いに嫌気がさして故郷へ帰ってたんです。その関係で帝都からお呼びがかかって、もう一度戻ってこないかとかなんとか。それについていき、まきこまれるレルシャ。
そんな感じで、ザッとは考えてます。
そうそう。ザウィダはアレです。ドラクエ4のピサロ。エルフの恋人を人間に殺されて復讐のために人類を滅ぼそうとしている。なんか、そんな感じの設定です。今回、序盤にしか出なかった部下二人が、男は恋人の弟でともに人間に復讐しようとしてる。女はひそかにザウィダを好き。
まあ、最後はザウィダと対決になるわけですが、恋人を愛するがゆえのちょっと切ないラストになればいいな。ちなみに今回、ザウィダが人間とエルフの友情など成り立たないと言ってました。レルシャかソフィアラのどっちかが、じつは——みたいな展開もいいかなぁと思ってます。
あ、そうそう。ザウィダの正体を調べるために、帝都の前後、魔界の前に、エルフの国へも行くでしょうね。
あと、ラグナランカシャが解放遺跡の群居する村だとザウィダにバレて攻めこまれる、みたいな展開も書きながら考えてました。これはたぶん、
帝都編の次あたりかな? 帝都にいて、ようやく問題解決したところに、村から手紙が来て、急ぎむかう。
そんな感じのメインストーリーを考えてます。とりあえず、第二部はラグナランカシャでの特訓ふたたびですよね。成人するまでのあいだかな。大きなメインストーリーの流れはあんまりないかも? ダークエルフにさらわれた人間の女の子のウワサを聞いて、ふもとの街くらいまでは行ってもいいかな。その子を助ける助けないでドタバタして、ウーウダリの昔の旅仲間に遭遇するとか。それもなかなか楽しそうですね。さっそく次の構想ができました。
ではでは、またこの話の続きでお会いしましょう。
2024/07/21




