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六十二話 逆鱗の玉



 すぐにも追っていきたい。

 ソフィアラを助けたい。

 だが、目の前にはドラゴンが立ちはだかっていた。

 なだめていたダヴィドがいなくなったせいだろうか? さっきまでより、さらに憤激ふんげきしている。


 これを殺さないで終わらせることは不可能だ。


(でも、ダヴィドはあんなにひきとめてた……)


 たったいま、さらわれていったソフィアラのことを考える。もしも、ドラゴンが死んだと知ったダヴィドが、ソフィアラなんてもう友達じゃないと言えばどうなるだろう?

 人質の価値のなくなったソフィアラはザウィダに殺されてしまう。もちろん、ソフィアラは強くなった。レルシャの従者でいるかぎり、離れていても今の数値はたもてる。そのへんの魔物なんて近づくこともできない強さだ。


 それでも、おそらくザウィダにかかれば、やられる。さっきの氷の剣。あれはプチアイシクルの魔法だった。同じ魔法使いだからわかる。プチアイシクルであんなに大きな剣が作れるなんて、そうとうの魔法攻撃力だ。きっと、レルシャの数倍、強い。


 それに、ダヴィドが自分の恨みをソフィアラで果たすようなヒドイ少年ではなくても、ドラゴンを殺せばとても悲しむ。敵地に残されて死んでしまったら……魔界へ拉致らちされたソフィアラが死んでしまったら——そう考えると胸がかきむしられるようだ。


 すると、スピカが目をあけた。

「レルシャよ。おまえは前にスキル解放をしたとき、弱点発見のスキルをおぼえたろう? あれを今こそ使うのだ」


 そうだった。スキル解放遺跡では、これまで嘘発見、隠し通路発見、宝物発見、弱点発見、水発見の分化を得た。使い道がよくわかっていなかったが、たしかに弱点発見なら……。


「……」


 しかし、目をこらしてもドラゴンの姿は何も変わらない。


「スピカ。見えないよ」

「もっと近づかねばな。敵に正面から相対し、至近距離から見定めるのだ」


 そうだったのか。そういえば、レルシャは魔法攻撃をもちいるので、戦闘ではいつも敵から一歩さがっていた。至近距離で立ったことがない。


「わかったよ。ぼくが最前列に立たないといけないんだね」


 思えば、慎重な性格から、自分が矢面に立ってこなかった。さっきだって、ソフィアラに守られて、その陰から魔法を使っていた。回復や蘇生魔法を使えるのが、メンバーのなかでレルシャしかいない。作戦としては正攻法なのだが、もしも、まっさきにレルシャがドラゴンと対峙していれば、もっと早くに弱点を見きわめていたかもしれないのだ。そうすれば、ソフィアラはさらわれずにすんだ……。


 自分が情けない。悔しい。こんなことになったのは、すべて自分のせいだ。

 最初にドラゴンと相対したとき、もし勇気をだして近づいていれば、逆鱗の玉を見ぬけていたはず——


 そこまで考えて、レルシャの脳裏にパッとある画像が浮かんだ。ソフィアラが食べられそうになったとき。あるいは、自分が食べられそうになったとき。大きくあいた地獄の底みたいな竜の口。いや、厳密にはアゴの下あたりに、一枚だけ赤く光るウロコがあった——


(あれだ! あれがそうだったんだ!)


 レルシャは夢中でかけた。巨体の真ん前まで来る。尻尾をふりまわしていたドラゴンは、ここぞと口をあけ、火炎の息を吹きつけてくる。


「攻撃力低下の法則! 魔法持続の法則! 範囲集中の法則! ヒーリング!」


 持続する回復魔法を自分にかけて、ドラゴンの炎の壁に耐える。痛みがないわけではない。ヒリヒリと焼かれる皮膚の痛みを全身で感じる。だが、その都度、治っていくので倒れはしない。終わることない無限の苦痛。ある意味、もっともツライ。しかし、耐え続けて凝視すると、たしかにアゴの下が赤く光っていた。レルシャはそこを狙って攻撃魔法を浴びせる。


「ブリザード!」


 氷の刃が赤く光るウロコをつらぬいた。ケエエエエエッと雄叫びをあげ、ドラゴンは倒れる。そのまま、何分待っても起きてこない。


「……やった?」

「うむ。やったぞ。逆鱗の玉がこわれたのだ。ドラゴンは解放された」


 スピカの言葉と同時に、ドラゴンはゆっくりと目をあけた。何やら古代語をつぶやく。その声はとても深く低く心地よく響く。


「解放してくれてありがとうと言っておるな」と、ここでもスピカの解説だ。


「あんな邪悪な者に逆鱗の玉を埋められてしまうとは不覚であった。人間たちよ。迷惑をかけてすまぬ」


 よかった。殺さずにすんで、ほんとによかった。言葉をかわしてみてよくわかった。ダヴィドの言っていたとおりだ。この竜は聡明で、おだやか。争いなど好まない。


「いいえ。でも、ごめんなさい。ダヴィドがさらわれてしまった」

「それはよいのだ。私がついていけば、また逆鱗の玉であやつられるだけ。それはダヴィドも望んではいない。今は離れているほうが、ダヴィドも安心していられるだろう。新しい竜を召喚するには、ダヴィドはまだ幼いゆえな。数年は何もできぬ」

「そうなんだ」


 じつはそれも心配していた。ダヴィドが何柱でも竜を呼びだせるなら、別の地で村々や都市を襲うかもしれないと。いや、ザウィダにそうするよう命じられるのではないかと。ザウィダがソフィアラをつれていったのは、ダヴィドに対しての保険なのだ。


(ソフィアラ。ダヴィド。必ず……必ず近い将来、救いに行く)


 そのためには、ザウィダに勝てるほど強くならねばならない。強くなると、レルシャは決意を決めていた。

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