五十八話 五つめの遺跡
今回も鍵を得た。いよいよ、次は最後の遺跡だ。レルシャが表口で見たとおり、ここの扉はピンク色に光っている。
「ピンクなら従者解放だね。ニャルニャやラビリンが強くなれるよ」
「な〜」
「ピュルリ〜」
レルシャにとっては、従者解放はほんの百分の一しか効果がないから、さほど嬉しくはないのだが、とにかく、今の数値ではニャルニャがドラゴンの一撃で倒れてしまう。ニャルニャだって、ふつうのモンスター相手には充分に強いのだが、ドラゴンと戦うには、じゃっかん数値が弱い。とくに生命力だ。せめて2000は欲しい。
「よし。行こう」
運がよければ、スピカが言っていた従者自身の能力値をあげてくれる遺跡かもしれない。行かないという選択肢はなかった。
扉をあけると長い廊下。ここでもすぐに走る。が、走りだしてすぐ、レルシャはギョッとした。廊下の奥に見えるガーゴイルが、やけに大きいのだ。
(えっ? 何あれ? すでにマックスくらい巨大なんだけど……?)
大きいので暗くてもよく見える。
「マスター……ラビリン、不安です。倒せるでしょうか?」
「う、うん……でも、あれ以上大きくなったら、ほんとに倒せないよ。みんなでいっしょに走っていこう」
「ラジャ」
「ニャ」
よこならびに走る。レルシャとソフィアラは全速力だ。やっぱり廊下のまんなかで出会った。
(あ、あれ? さっき見たときより小さい?)
とにかく、倒さなければ。呪文を唱える。
「魔法持続の法則。範囲集中の法則。ブリザード!」
すると、どういうことだろうか? 途中で魔法が音もなく消える。
「えっ? 魔法が? そんなことってあるの?」
魔法攻撃は特殊な防御魔法以外では回避できない。まさか、ガーゴイルは魔法防御を持っているのだろうか? いや、それなら、さっきもかわされていたはずだ。
(どういうこと?)
困惑しているうちに、ラビリンとニャルニャが攻撃をくりだす。が、それもあっけなくよけられた。
(ラビリンとニャルニャがかわされた? まさか。ラビリンなんて、これで三度めだ。一個めの遺跡では難なく当たったのに……)
もしかして?
「アイシクル! サンダー!」
全部、魔法が発動したそばから消えてしまう。
「なー! なな? ななー! ななな?」
「戦神の舞! 踊り子の舞! ウサギダンス! ああっ、どうしてよけられちゃうのでしょう? キュルキュルル……」
やっぱり、そうだ。
「なんで従者が三人って条件なのかわかったよ。このガーゴイルは一回倒した人の攻撃は、もう二度ときかないんだ。だから、四人が一体ずつ倒さないといけない」
でも、となると、残るはソフィアラだけだ。解放でちょっとだけ強くなったとはいえ、レルシャたちのなかでは数値が一桁少ない。生命力なんて260だ。つまり、攻撃力は二桁。このサイズのガーゴイルは倒せないだろう。よりによって、残ったのがソフィアラだけだとは。
(こうなるとわかってたら、最後にぼくが戦ったのに)
でも、もう今さら遅い。遺跡の特性を考えて、戦う順番を選ばなければならなかったのだ。
「ごめん。ソフィの攻撃しかきかないみたい」
「ええー? わたしがやるの? こんなに大きいのに?」
「う、うん……」
「やってみるけど……」
ソフィアラはナイフを持って、ガーゴイルの足元につきさす。が、ガーゴイルはまったく動じない。いや、むしろ、哀れみの目つきでソフィアラを見おろしている。
「ああー! コイツ、なんかムカつくー!」
「……しかたないね。ここは負けて、もう一回、一つめの遺跡からやりなおそう。まだ二回チャンスはある」
「うん」
それで仲よく失神したのだが——
「レルシャ! ダメだったよ? ここ、一個めの遺跡じゃなくない?」
「たぶん、そうだね。ガーゴイルが大きい……」
やりなおしても、すでにクリアした遺跡からではなかった。まだ踏破していない五つめの遺跡につれてこられた。
「ど、どうするの? わたししか攻撃できないんでしょ?」
「うん……」
「ムリだよ? さっきだって、きいてなかったよ?」
「そうだよね……」
おじけづいて、レルシャたちは走ることもできなかった。そうこうしてるうちに、ガーゴイルはどんどん、こっちへやってくる。
「ああ、もうダメ。あんなに近づいてきた。ね、チャレンジ回数って、まだ一回残ってるんでしょ? 今はあきらめて、別の強い従者ができたとき、レルシャだけまた来たら?」
「そう……だね」
きっと、それが正解だ。
しかし、あのガーゴイルが大きくなる前に長い廊下をかけぬける速さと、あの巨大な石のかたまりをなんとかできる強さをかねそなえた人物なんて、そうそう見つかるわけないのだが。
「じゃあ、とりあえず、もう一回、失神されに行こうか」
「なぁ……」
「キュル……」
「しょうがないね。早く屋上に戻らないといけないもんね」
ところがだ。ドスドスと地響きを立てていたガーゴイルの足音がだんだん聞こえなくなってくる。変だなと思い顔をあげると、ドラゴンの背がずいぶん低くなっていた。最初の半分くらいだ。廊下の中央あたりにいる。
「みんな、ちょっと待って」
「えっ? なんで?」
「なんでも」
さらにガーゴイルが歩いてくる。やっぱりだ。またひとまわりちぢんだ。
「アイツ、こっちに来るほど小さくなってるよ。そうか! ここまでの三つでは最初に小さくて、だんだん大きくなった。最後のここだけ逆なんだ。最初に大きくて、近づくほど小さくなる!」
「えっ? それって、もしかして?」
「そうだよ。もしかしたら、倒せるかも」
ガーゴイルがやってくるまで待ってなければならないのはもどかしかった。が、我慢してその場で待機していると、あるかしょからガーゴイルは急速に小さくなっていった。レルシャたちの目の前に来たときには、もう豆粒だ。
「ソフィ。お願い」
「オッケー」
ソフィアラがかるくふみつける。ガーゴイルは目をまわした。




