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四話 ダークエルフの少年



 なぜ、こんなところにエルフがいるのだろう?

 種族の異なる者たちは、それぞれの領土から出てこない。魔族がこっちに侵入してくるのだって、侵略行為だ。本来あってはならない。古代、女神の名のもとに、人間、精霊、鳥人、獣人、水人、魔人の六つの種族はそう契約した。


 エルフたちの住む精霊の里は、人間の国からはずいぶん遠くにある。よく見れば、それもレルシャたちと同じくらいの少年だ。エルフは人間より少し寿命が長いとはいえ、秘術を受けない一般的なエルフはせいぜい二百歳かそこら。

 成長の速度は人間と同じだという。もっとも長命なのは天人、天女とも呼ばれる鳥人。魔人の寿命はエルフと同ていどだが、死んでも何度も復活する。


 子どものエルフがなぜ、一人で人間の世界にいるのだろう。なかは薄暗いが、黒い肌をしている。ダークエルフだ。ライトエルフより攻撃的で魔族に近い考えかたをする。


「ねぇ、レル。あの子、ケガしてるんじゃない?」

「あ、ほんとだ」


 足にハンカチをまいてるけど、白い布が赤く染まっている。種族が異なっても血の色は同じなんだなと、レルシャは思った。よくわからないが、ひとりぼっちでかわいそうだ。


 レルシャは思いきって、扉をあけた。


「こんにちは。君、ダークエルフだね。ぼくはレルシャ。人間だよ。足をケガしてるね」


 少年はものすごい目つきでにらんでくる。さらには、帯にはさんだ短刀をぬいた。


「ああっ、心配しないで。攻撃するんじゃないから」


 レルシャが一歩ふみだすと、少年は何か早口に言い返した。が、その言葉がわからない。精霊言語だ。人間の国でも古代にはエルフと同じ言葉を使っていたらしいが、今はすっかり別のものになってしまっている。


「大丈夫。大丈夫。何もしないよ。ほら、ケガを治すだけだから」


 レルシャがさらに一歩ふみこみ、少年の足元にかがもうとしたときだ。ひときわするどく、少年が叫んだ。おそらく「来るな!」とでも言ったのだろう。

 同時に少年のふりまわしたナイフがレルシャの腕をかすめる。ビリッと稲妻に打たれたような痛みが走った。ダークエルフの少年はハッとした。本気でレルシャを傷つけるつもりはなかったようだ。


 それを見て、レルシャは確信した。残虐な性癖だとも言われるダークエルフだけど、この少年は優しい心を持っている。言葉が通じさえすれば、きっとわかりあえる。


「大丈夫。痛くないよ。あ、そうだ。ほら、こうするんだ」


 レルシャはケガをした自分の腕に右手をかざし、プチヒールを唱える。ほわっと白い光に包まれ、腕の傷は完治した。このていどなら、レルシャのマジックポイントでも治せる。


「君のケガも見せてごらんよ。治してあげるから」


 レルシャが自分の腕と少年の足を交互に指さすと、やっとわかってくれた。まだにらんではいるものの、レルシャが近づいても攻撃はしてこない。血のにじんだ足に、そっと手を伸ばした。さっきと同じ白い光がわきだして、眉間にしわのよった少年の表情が少しゆるむ。小声でつぶやいたのは、感謝の言葉だったのかもしれない。


「君、迷ったの? どうして、こんなとこにいるの? ま、まさか、悪い人間に捕まって、見せ物にされてたんじゃ?」

「それはないんじゃないの?」と、これはソフィアラだ。

「見せ物にするなら、ライトエルフか、その亜種のフェアリーだよ。ダークエルフは気性が荒いし、見ためも怖いから、好んで捕まえないよ」


 たしかにそうかもしれない。気性が荒いだけじゃなく、ダークエルフの使うスキルはとても強力だ。へたをすると一つの街が壊滅するほどの力を有する。見せ物にするにはリスクが高すぎるのだ。


 少年の面ざしはひじょうに整ってはいたが、黒い肌に髪は青。瞳は猫みたいなレモンイエロー。するどい犬歯もある。獣人に近い。ひたいにはとてもめずらしい透明な瑠璃色の角が一本あった。もしかしたら、獣人とのハーフだろうか? エルフに角があるなんて聞いたこともない。


 異質で恐ろしい。もしも少年が大人のダークエルフなら、レルシャだってふるえあがって逃げだしていた。


 でも、少年はとても困っているように見えた。人間にさらわれたわけではないかもしれないが、自分の意思でここに来たのではないのではないか?


「君のうちがどこかわからないけど、ぶじに帰れるといいね。力になってあげたいけど……」


 すると、少年は何かつぶやいた。『ダヴィド』と聞こえた。


「ダヴィド? それが君の名前?」


 ダヴィドはゆっくりうなずく。


「ダヴィド。お腹すいてない? ぼくら、ここで休憩するつもりだったんだ」


 レルシャがカバンからパンとチーズをとりだすと、ダヴィドのお腹がグウと鳴った。エルフも人間も空腹の生理現象は同じだと知って、レルシャとソフィアラは笑った。つられて、ダヴィドも白い歯を見せる。


「みんなで食べよう」


 一つのパンを三つに割って食べる。このまま数日もいれば、きっと、ダヴィドとは友達になれただろう。


 しかし、皮袋の水をまわし飲みした直後。外から足音が近づいてきた。それも一つや二つじゃない。少なくとも七、八人。


 誰かが狩りの途中で立ちよろうとしているのか?

 それにしては、いやに足音を殺して、あたりをはばかるようなふんいきだ。


 怪しい。

 レルシャは鎧戸のすきまから、外をのぞいた。ギョッとする。ダークエルフの一団だ。大きな魔法杖や弓矢をたずさえた、大人のダークエルフ。

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