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二十九話 毒沼のオバケ



 夜が明けた。ほがらかな朝だ。今日から部屋に閉じこめられることなく、堂々と遺跡へ行ける。


「じゃあ、今日は南の花畑に行こうかな。あっ、でも、その前に、ディーンさんに頼んでファイア以外の魔法も教えてもらおうかな」


 馬の準備をするレルシャに、ウーウダリがついてくる。


「いいですよ。不意打ちでしたが私を負かしたのは事実です。認めますよ。そのウサギはやたら強い。でも、それはレルシャさまが強いわけじゃないです。ウサギが強いだけです。心配なので、私も遺跡めぐりに同行します。よろしいですね?」

「……」


 認めないと、きっと寝室を移して、今度は隠し通路のない部屋に閉じこめるのだろう。まあ、しかたない。ついてくるだけならジャマにならないだろうし、それに、ウーウダリだって今のレルシャの強さを見たら納得してくれるに違いない。


(ああ、でも、花畑の遺跡の条件は従者なしの一人チャレンジだったなぁ。外で待っててって言っても聞いてくれないんだろうな。さきに別の遺跡に行ったほうがいいかな。どうせ、一人で入るだけなら、いつでもこなせる条件だし)


 そんなふうに考えながら、西の湿地帯へ移動する。が、レヴィラディーンはレンコン畑で仕事中だった。泥沼に舟を浮かべ、収穫中だ。


「おお、坊主。訓練に来たか? 仕事が終わるのが昼前だから、それまで待っててくれるか?」

「わかりました。ぼく、ファイア以外の魔法もおぼえたいんです」

「おれは戦士だからな。魔法はファイアとアイシクルしか使えないが、その二種類あれば、ほぼすべての敵にどっちかはきくからな」

「アイシクルを教えてください。お願いします」

「いいだろう。あとでな」


 ディーンを待つあいだ、レルシャは沼地を散歩していた。湿地の上にかかる木の歩道を歩いていると、どこからか声が聞こえてくる。


「た、助けて……」

「ん?」


 キョロキョロ見まわすが人影はない。


「今、声が聞こえたよね?」

「うむ」

「なー」

「ラビリン、お耳長いから、よく聞こえます」

「聞こえましたね」と、最後のがウーウダリだ。ずいぶん、にぎやかな一行になった。


「たす……助けてください」

「あ、ほら、また」

「うむ」

「なー」

「ラビリン、あっちから聞こえると思います」

「レルシャさま、危険なことには首をつっこまないほうがよろしいかと」


 ぞろぞろとひきつれながら、歩いていくと、声がひときわ近くなった。


「ああっ、こっちです。こっち。助けてください!」


 見ると、沼に泥オバケがいる。背丈はレルシャより小さいくらい。


「出たー! オバケー!」

「なー!」

「ラビリン、オバケは苦手ですぅー!」


 あわてて走って逃げようとすると、また声が。


「オバケじゃないです。助けてー!」


 オバケじゃない。

 あんなに泥まみれの顔なしオバケなのに?


「えっと、ディーンさんちのカカシがおぼれて泥だらけになった?」

「なんですか? カカシって?」

「違うの?」

「いいから助けてくださいー!」


 しょうがないので近づいていくと、どうやら底なし沼にハマって、魚? あるいは森の動物? のようなものが、もがいている。顔が見えないのは泥だらけだからだ。


「魚? 動物?」

「わたしは清流の人魚です」

「人魚?」


 そうは見えないが、そこを指摘してたら話が進まない。


「まあ、人魚でいいです。それで、どうしてほしいの?」

「わたしたち人魚は清流にしか住めないんです。でも、大雨のとき流されてしまって、こんな泥沼に迷いこんでしまいました。どうか、もとの川につれていってください」

「川って、村のまんなかを流れるやつ?」

「そうです」


 どうせ、ディーンは昼まで仕事中。待つあいだに川まで行って帰ってくる時間はある。


「わかったよ。困ってる人……じゃないね。人魚をほっとくわけにはいかないからね」

「マスターレルシャ。ラビリンはお花やリボンが汚れるのはイヤなので、応援だけさせてもらいます」

「わ、わかった」


 たしかに、あの泥オバケを沼からひきあげるだけで、自分たちも泥だらけになるだろう。泥オバケは伝染する……。


「じゃあ、ぼくにつかまって」

「よろしくお願いしますぅ」


 自称人魚は腕を伸ばしてくる。たしかに上半身は人間型だ。五歳児くらいか。そう重いはずもないが、泥にガップリつかまって、ビクともしない。


「うっ! 動かない……」

「マスターレルシャ! ファイトですよ。ラビリン、歌います」


 ラビリンが歌ってくれるが、いっこうにあがってこない。逆に沼にひきずられそうな気分になる。

 ウーウダリが眉間にしわをよせた。


「レルシャさま。もしや、助けを求めるふりをして、沼地に人をひきずりこむモンスターなのでは?」

「でも、この村にはモンスターいないよね?」

「いないとは言われていますが、ダンジョンから出てきたのかもしれません」

「いいから、ウーウさんも手を貸してよ」

「……私がですか?」

「ニャルニャもお願い!」

「なー」


 三人で必死になってひっぱっていると、急にすっぽぬけた。レルシャたちは勢いで歩道の上に尻もちをつく。


「ぬけた……」

「ああ、レルシャさま。服が泥だらけです。あとで洗濯しないといけませんね」と、ウーウダリがなさけなさそうな声を出す。

「とにかく、川までつれていってあげようよ」


 マントにくるみ、グランデに乗せて川まで移動した。小川につけると、泥がキレイに洗い流される。レルシャはビックリした。澄んだ青い瞳の美少女だったからだ。神秘的な淡いピンク色の髪。虹色のウロコの下半身はほんとに魚の尾びれになっていた。


「助けてくれて、ありがとう! お礼にコレをあげます」


 レルシャの手に巻貝のペンダントを残し、人魚は去っていった。

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