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二話 祝いの儀式



 レグナナランでは古来より、『人は二度生まれる』と言われる。能力値をはかる最初の誕生。そして、スキルの決定する十歳の誕生日。


 日常生活では発現しにくいスキルでも、この儀式で確実にわかる。ただし、そのスキルが必ずしも戦闘に役立つとはかぎらない。針穴通しとか、編みものとか、野菜刻みとか、皮なめしのように、日常の作業に特化している場合もある。


 自分のスキルもそんなものじゃないか……そう思うと、レルシャは次の誕生日が恐ろしかった。


 でも、ついにその日は来た。初めはふつうの誕生祝い。ごちそうを食べたり、贈りものをもらったり、魔女や神官の祝福を受けたり、親族のお祝いの言葉を聞いたり。そのあと、日没前になると、いよいよ本番。


 広間に移り、玉座にすわった父の前に、レルシャはひざまずく。父のとなりには神官が立っていた。神官の手から、荒地の蔓薔薇つるばらを模した銀の冠が、レルシャの頭にかぶせられる。蔓薔薇は女神の象徴なのだ。


 レルシャは不安な気持ちで目を閉じていた。それでもわかるほどに強い光が冠から発するのがわかった。光が強いほど、スキルの能力が高い。ちょっとこれまでに見たことないほどの光の洪水だ。


 思わず、レルシャは期待して目をあけた。黄金色の光が広間を昼間のようにすみずみまで照らしている。それが自分の頭に載せられた冠から発されているのだとわかる。


「おおっ、これは、スゴイぞ。ものすごい光だ」


 父も興奮している。

 もしも、それだけで強い戦闘スキルなら、能力値が低くても、兄のよこで戦える。たとえば、みんなの戦闘生命力を十倍にするスキルとか。もしそうなら、どんなに素晴らしいだろう。


(きっと、そうだ。ぼく一人じゃ何も起きないのは、ほかの人の助けになるスキルだからだ。きっと……)


 期待に胸がふくらむ。レルシャ自身、これで自分も一人前の騎士になれるかもしれないと考えた。これほどの輝きなら、そのスキルの強さはすでに約束されているのだから。


 やがて、光が渦をまき、一点に結集する。それが空中に文字を描きだした。みんなの視線が集中する。一文字ずつ、ペンで描かれるようにつづられていく文字——



 "発見"



 これには誰もが首をかしげた。


「発見? 何を発見するのだ?」

「たとえば、宝箱、隠し通路などですかな?」


 などと、父と腹心のバサムースが小声で話している。

 探索系……。


 レルシャは絶望した。もうダメだ。自分はどうやっても、魔族と戦う戦士にはなれない。父や兄のようにはなれない。二人のサポートすらできないのだと、この瞬間に理解した。


 まわりの人たちの目にも、落胆の色が濃い。


 そのふんいきをこわすように、アラミスがいつものように快活に笑った。


「何、これも素晴らしいスキルですよ、父上。レルシャは賢者の才を持つのだから、それとあわせて、遺跡の研究にたずさわるのはどうでしょう? 古代の聖地にはまだまだ謎が多い。我々があたりまえに受けている女神の恩恵ですら、その根源はなんなのかわからないのですからね。レルシャが学者になってくれれば、ものすごい発見をしてくれるかもしれませんよ」


 たしかに、それはそれで伯爵家の役に立つのかもしれない。それでも、遺跡の探索となれば、どんなトラップがあるかわからないし、魔物もひそんでいる。一人で行くにはレルシャの能力値は低すぎる。護衛がたくさんいるだろう。それでなくても、国境を守るレムラン家にとって、お荷物である事実に変わりなかった。


 レルシャは打ちのめされ、あとのことはよくおぼえていない。その夜はベッドのなかで一人泣いた。



 *



 それからしばらくたったのちだ。兄がクーデル砦の最奥で、古代の遺跡を見つけたのは。遺跡のなかはダンジョンになっていることが多い。だから、まだあまり研究も進んでいないが、たいていは大いなる宝物や、女神の知恵を記した魔道書などが隠されている。


 だが、父はこれに対して、何やら思いあたるふしがあるようだった。


「そういえば、わが父が若いころ、クーデル砦の奥で女神の解放を受けたのだそうだ」

「解放ですか?」とたずねる兄の目は輝いている。それはそうだ。もしも、それが解放の遺跡なら、素晴らしい奇跡が起こせるのだ。


 解放の遺跡——

 それは、女神がこの世に遺した最大の恩恵。個人の生まれ持つ能力を、限界を超え、飛躍的に解放してくれる。遺跡の種類によって、能力値を二倍、三倍にしてくれるもの、スキルの威力をあげるもの、またはスキルの能力を分岐させ、新たな技を得られるものなどがある。


 だが、それはひじょうにまれにしか存在しない。レグナナラン全体でも、これまでにほんの三つが四つしか見つかっていない。つまり、ほとんどの人は一生、解放を得ることはない。きわめて運のいいひとにぎりの者だけが、生涯に一度、あるいは二度、その遺跡へ行ける。


「私の父。おまえたちの祖父だな。解放によって能力値が二倍になったのだ。ただし、解放の遺跡に入るには、たいてい条件がついている。または守護する者が守っているなどな。誰でも入れるわけではないのだ。クーデル砦の奥にあるものは、かなり強いガーゴイルが守護していると聞いた。なみの者では太刀打ちできないが、アラミス。おまえなら行けるだろう」

「はい! さっそく、試してみます!」


 報告のために伯爵家に帰っていた兄は、すぐさまクーデル砦にひきかえした。

 夜になり、早馬が報告にやってくる。伝令の兵士からアラミスの書状を受けとった父は歓喜した。


「おお、やったぞ。アラミスがガーゴイルを討ち倒し、女神の解放を得たそうだ」


 スゴイ。兄の能力値はもともと千を超えていた。それが倍になったのだから、二千だ。もはや、そのへんの魔物など、まったく歯が立たない。魔族の四天王にでさえ対等に渡りあえるだろう。これで伯爵家は安泰あんたいに見えた。このときまでは……。

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