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レルシャ誕生



 レルシャはとても可愛い男の子です。生まれたとき、その美しさに、彼に自分と同じプラチナブロンドと青い湖色の瞳をあたえた母親ですら、「この子は妖精からの贈り物だわ」と感動したほどです。


 しかし、神からのレルシャへの加護は、それがすべてでした。


 この世界では生まれたときの基礎値で成長したあとの最大能力が決定してしまうのですが、レルシャのそれはあまりにも低かったので。


 父侯爵は落胆し、出来のよい長兄と長女の教育によりいっそう力をそそぐことにしました。レルシャには末っ子としての愛くるしさだけを求めて満足したのです。


 これは家族に愛されながらも出来そこないの烙印らくいんを押された少年の苦悩と成長の物語——



 *



 広大なレグナナラン大帝国のなかでは辺境のシャルムラン地方。領主はレムラン伯爵だ。現当主は壮年のアルムザバード。ふだんは国境を越えてくる魔族から国を守るため、前線の砦にいる彼が、今は落ちつかなげに伯爵邸の廊下をうろついている。愛する妃が三人めの子どもを出産するのだ。


「まだか? アラミスのときも、ラランのときも、もっとこう、スポンと出たではないか? ひどく難産なのか?」


 グルグルと柱と柱のあいだを行ったり来たりする伯爵につきそうのは長年の忠臣バサムースを初めとする臣下たち。そして、十歳の長子アラミスと、七歳の長女ラランシャだ。


「お父さま。落ちついて。お母さまが寝室に入ってから、まだ二刻もたっていませんわ」というラランシャは女の子ながら、いつも冷静だ。


 今度はアラミスだ。

「そうですよ。父上。おれたちがあわてたところで何もできません。母上と乳母を信じましょう」


 伯爵は自慢の息子と娘を心から嬉しく思いつつながめた。まだ少年ながら、卓越した武将としての才を十二分に見せるアラミス。聡明なラランシャ。この二人が生まれたとき、神官のかざした女神の器からは、あふれんばかりの才光ひかりがほとばしった。名武将として名高い伯爵をかるく超えるほどの才光だ。


 おまけにアラミスの生まれ持つ特技スキルは炎の剣、ラランシャは風嵐。どちらも戦場でとても役に立つ。実戦むきのよい能力だ。さらには、ラランシャの風嵐はアラミスの炎の剣を強める。相性抜群のスキルだ。


(この子たちがいれば、わが家は安泰だ。やすやすと魔族の侵略をゆるしはすまい。いや、それどころか、父の代に失ったクーデルの砦をとりもどせるかもしれぬぞ)


 伯爵は魔族との戦いで、若くして父を亡くした。そのときの無念を晴らすのが夢だ。この子たちなら、その願いを叶えてくれるに違いないと思えば誇らしい。


 そんなことを考えていると、夫婦の寝室の扉がひらいた。乳母のメムルが顔を出す。


「伯爵さま。ぶじ、お生まれです。それはそれはお美しい男の子でございますよ」


 伯爵は寝室にかけこんだ。三国一の美女と名高い妃シャルラスが、疲労しつつも、やりとげた顔つきで伯爵をながめている。その腕には生まれたばかりの赤子が抱かれていた。


「おお、なんと美しい子だ。そなたに似ている」

「きっと、性質はあなたに似ておりますわ」


 ところがだ。別室にひかえていた神官が呼ばれ、女神の器をかざす段になって、伯爵はいっきに失望した。


 女神の器はどの街にも一つはある。古代より伝わる神具だ。個人の能力を見極められる。人の頭上にかざすと、才能の数だけ光がとびだすのだ。並の者なら二十くらい。多いときには百以上。最低でも十だ。一つずつの玉の能力値は成長するにしたがって増し、十五歳ごろには限界に達する。それ以降は特別な事情がなければ伸びない。たいていは生まれたときの三から五倍が成長率だ。まれに十倍で伸びる者もある。ゆえに、最初に得た玉の数ですべてが決まる。


(アラミスの才光の数は驚異の二百十三だ。伸び率も五倍。たぐいまれな才能だ。そこまでではないにしろ、この子もわが家の息子。武人にふさわしい才を持つに違いない。果たして、どれほどか?)


 期待を持ってながめる侯爵の前で、杖のさきに銀の金輪でとりつけられた神具が、赤ん坊のひたいにかざされる。

 神具が淡く光りだす。その光の色によって、どの方面に才能を持つのかがわかる。赤なら剣技などの直接攻撃をする力。戦士の才だ。青なら知略に満ちた軍師。緑なら魔法使い。そして、金色なら魔法も剣も使いこなす剣聖。銀ならば、あらゆる魔法をあやつる賢者。薔薇色なら詩人、踊り子のたぐい。


 赤子のひたいを照らしたのは、最初に青、そのあと緑。さらに金色へと変化し、最終的には銀色になった。つまり、軍師、魔法使い、賢者の資質を持つに違いない。素晴らしい。賢者は数千人に一人いるかいないかの貴重な才能だ。レムラン伯爵家でも初になる。あとは器のさきから才光がどれほど出てくるかだ。


 アラミスのときはひろうのがたいへんだった。次々に湧きだした玉で作った護符は、それは立派な首飾りになった。きっと、この子も……。


 だが、銀色の玉が一つ。ころりと器からころがり出る。それだけだ。どんなに待っても、それ以上、光り輝く玉は一つも出てこなかった。

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