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第一話『プロローグ』

あらすじ


霞ヶ丘高校に通う紅燐クレナイ リンはいつもの様に郊外でサボっていた。

商店街でサボり続けて過ごすのが彼の日課。帰路に着いたとき彼は不審人物が

『とある場所』に向かうのを見かける。

彼が全てを失った場所で彼の全てが始まろうとしていた。


- Another side -


空は清々しく澄んでいて、雲一つ無い快晴。真夏なら暑くて邪魔な陽光も、

この時期なら日向ぼっこをするには打ってつけだ。

季節は夏から秋へと変わるなか、まだ残暑を匂わせる風が吹けば、

眠気を誘う陽光の中、お昼を告げるチャイムがなる。


「もう昼飯の時間か…」


彼は今まさに眠りの海へ潜っていく途中だった。

一度潜ってしまえば心地よい陽光と程よく緑の香りが混じった風で最高の日向ぼっこが出来ただろう。それをチャイムで邪魔され、完璧に覚醒してしまった彼は少し不機嫌になりながら毒づいてる。

確かに腹は減っていたが、今の彼にとっては食欲よりも睡眠欲の方がこの時は大切だったらしい。

この『生徒立ち入り禁止』の屋上は彼にとって憩いの場であり、存在的に言うと…。

まあ『秘密基地』といったところだろうか

…とはいえ雨を凌ぐ屋根もなければ風を防ぐ壁も無いお粗末なものだが…。

要は『サボり場』だ。


彼は公立霞ヶ丘高等学校第三学年『クレナイ リン

かなり自由奔放な性格で、楽天家なうえに面倒なことが大嫌いという人間としてかなり堕落しているが成績は優秀、運動神経もかなりのもの。クラスメイトの中心的な人物であり、

生徒からの人気は自覚していないが親衛隊まで出来るほどだが、教師達からは忌み嫌われている。


「そういえば、下駄箱に手紙が入っていたが…嫌がらせか?」


彼はポケットから薄いピンクの可愛いらしい封筒を取り出すと不審物を見るような目で、

世間一般で言われるところの『ラブレター』を凝視しているが、見飽きたのか口で

ぼそぼそと何かつぶやくと手紙は燃え散った。

一体あれをどういう風に見れば嫌がらせの類に見えるのだろうか…。

実は彼、かなりの鈍感であり恋愛面ではあまりの鈍感さに周りが呆れてしまうほど…愚鈍。

どこをどうやって間違えたらそんなに愚鈍になれるのか、爪の垢を煎じたいくらいだ。


< Pause >


さて…急に話が変わってしまうのだが、実は彼、超能力者である。

皆様も聞いたことがあるかもしれないが『念発火』といわれるものをご存知だろうか?

火を発生させたり自由に動かしたりすることのできる能力である。

Pyro<パイロ>とは『火』または『稲妻』を意味し、

Kinesis<キネシス>とは『動き』を意味する。

まあ簡単に言えば自分の思うところに発火の類ができるといっても過言ではないだろう。

おや?彼が動き出すようだ…。


< start >


「さて、商店街にでも行くかな」

これから午後の授業もあるというのに呑気なやつだ。

制服に付いた汚れを軽く払うと思い立ったら即行動。

軽やかな足取りで商店街へと向かった。


- RIN side -

教師達の『抜け出し防止』の見回りを掻い潜り俺は商店街へと向う。

今日の空は清々しくて、雲ひとつ無くて風が気持ちいい。こんないい日に教室で将来役に立つかどうかが確立されてない教師達のご高説をノートにまとめるなんて俺には無理。

こういうときは商店街で時間を潰すに限る!俺は足早に商店街に向った。


霞ヶ丘高校から歩いて二十分。この田舎で唯一の暇つぶしができる貴重な遊び場だ。

平日の夕方は学生達や主婦の方々で賑わい、タイムセールの時間になると戦場と化す。

休日はデートというものを楽しむカップルたちも多い。田舎の商店街の割には中身は充実していて、

生活するには持て余すほどの多種多様な店がある。

要は客の個々として求めるものが何一つ欠けることなくこの商店街にはある。


「暇を潰すには適した場所だが…」


俺みたいな商店街の常連にとっては暇つぶしなどほぼ無意味に等しい。

その店のトイレの場所、品物の位置、更にヘソクリの隠し場所まで分かってしまうほど

この商店街には来ているからだ。(これは言い過ぎか(笑))

ただ歩くだけでそこに目的などは一切無い。砂漠を歩く旅人の様に商店街を放浪した。


放浪すること約一時間、俺の足はある場所にたどり着いていた。

その場所は商店街が賑やかになってきた近年は人気が全く無くなってしまった小学校の時によく来ていた砂場と滑り台と鉄棒しかない質素な公園。そこはまるで時代という事象からから切り離されたのかと思うほど当時のままだった。


(ガキの頃、母さんがここで遊んでくれたよな…。)

俺の母さんがまだ生きていた頃、人見知りが激しいくせに寂しがり屋な俺を気遣ってくれたのか、この公園で母さんと二人で砂の城を作ったことしか今は思い出せない。それが俺の唯一覚えている母さんの姿だ。近くにあったベンチに座り溜め息を吐くとあの頃の思い出は空気と同化して消えていくようだった。


< Pause >


-Another side-


彼は小学校の頃、交通事故で母親を亡くしている。父親の浮気が原因で離婚。離婚後は母親が引き取り女手一つで彼を育てていた。しかし母親は彼を迎えに行く途中で事故に巻き込まれ他界。母親は親族とは絶縁状態だった為、保護者が居なかった彼は施設に保護され、そこから諸々を経て今に至る。

おや?彼は眠ってしまったみたいだ。こんな人気の無いところで寝ていては死体と勘違いされそうだが…。まあそろそろ日も暮れるみたいだから起きるだろう…。


< Start >


-RIN side-


少し身体が冷え始めて目が覚めた。すでに日は落ちてカラスすら鳴いてない。

この公園には明かりが無い為漆黒の闇だ。幽霊を信じるわけじゃないが正直気味が悪い。

「うわ…もうこんな時間かよ…」

携帯を見て毒づく。時刻は二十二時を回っていた。どうやら居眠りを通り越して本気で寝ていたようだ。今日も遅くなると舎監には伝えているから大丈夫だとは思うが出来る限り早く帰らないと…。


季節の変わり目は寒暖が激しく昼間は暖かくても夜はかなり寒い。この時期には風邪を引く人も多いらしいから俺も気をつけないと…。風邪なんか引いてたら授業単位が足りていないところの補修という公開処刑の名の下に、教室で教師と一対一のスウィートタイムが待っている…。それだけはゴメンだ。

そんなことを考えながら歩いていると俺の目に不審(?)な物が…。


暗くて男か女かは断定できないが、とにかく怪しい。なぜならこの季節にトレンチコートを着用、帽子は深々と被られ、夜なのにサングラス、そしてマスク。俺の目が節穴でなければ不審者確定!…というわけで舎監のことなどすっかり忘れて俺は不審者を追いかける事にした。


< Pause >


- Another side –

彼は遂に見つけてしまったみたいだな…。そんな好奇心が原因でこれから起こることなんて予想が出来ていないのだろう。誰でも好奇心が原因で失敗したことが一度はあるはずだが大抵は取り返しが付いたはずだ。しかし彼の場合はそうはいかない。

後はただ出口を見つけることしか脱出手段は無い。いよいよ…開幕のようだ…。


― 賽は投げられた…ここから先は幻想が織り成す迷宮…終わりの見えない螺旋階段 ―

― 果たして彼は出口を見つけ出せるのだろうか? ―


< Start >


- RIN side –

不審者を尾行し始めて約二十分。不審者は俺に気付くことも無くただ黙々と歩いている。

奴との距離は約五十メートルといったところか…。さてこの二十分間でどこを歩いているかというと…実は商店街だったりする。さすがにこの時間になると開いているのは商店街に一つだけあるコンビニくらいだ。日中とは違い静まり返っていて少々気味が悪いのは仕方無いことであるがそこまでしてなんで追いかけるのか…。

このときの俺にはそれを考える余裕が無かった。


「あれ?あの先は…」


不審者は商店街の裏路地に入って行った。確かあの先には空き地があったはずだ。

あんな場所に向う奴なんてこの近辺では誰もいない。だってあの場所は…。


「…ッ…」


精神的に参ってしまいそうになるが唇をかみ締める。

忘れもしない空き地の思い出…。皮肉にも俺がこの能力とであった場所。

とにかくそこで何かあるとすればここまできたら確かめるべきという使命感が沸き、

俺の足は商店街の冷え切ったアスファルトを蹴った。


< Pause >


- Another side –

この空き地だが…母親を亡くしてからの彼がよく遊んだ場所だ。

母親がもう居ない事をなるべく思い出させないために施設の人が彼とその他の子供達を

ここに連れてきて皆で遊んでいた。昔はここに廃工場があり、そこでかくれんぼや鬼ごっこがよく行われていた。しかしある日を境にこの施設の憩いの場は惨劇の舞台になる。

彼が小学校四年生のとき、工場にあった処分されていない燃料が流出し、大爆発が起こった。被害者は十数名。施設の先生と子供達だった。

すぐに消防隊が駆けつけたが火が消えた頃には工場は全焼し、遺体は表面では誰なのかわからないくらいに焼けてしまっていた。しかし彼はロッカーの中に隠れていたので助かった。爆発でロッカーが吹き飛び、幸いにも炎から守られていた為、脱水症状と打ち身で救出された。つまり唯一の生存者である。彼はまた一人になってしまい自分だけ生き残ってしまったのだ。皮肉になるかもしれないが悪運は強い方だろう。ちなみに彼はこの時に超能力に目覚めている。爆発させてしまったのは自分ではないかという思いが渦巻く中、現在では何とか立ち直り、先ほどの屋上で紙を燃やす程度なら使用できるくらいにはなった。さて、彼が空き地に着いたようだ。


< Start >


- RIN side –

軽い眩暈と動悸を抑えながら空き地に着いた。

九年前大惨事が起きたこの場所も、公園と同じように時代から切り離されたかのように

当時のままだった。あの頃の事は今も忘れない。ロッカーの中に隠れていたから助かったが、あの時の悲鳴、焦げた肉の匂い、鉄臭い血の匂い。俺だけが生き残り、他の皆は…。

感傷に浸っている場合ではない。あの不審者を探さなければ…。


あの頃は広い場所と感じたこの場所も、今となってはそうは感じない。

奴を見つけるのは簡単なことだった。事故現場の中心にただ立っているだけだったが

その行動は逆に疑念を深めるだけだった。工場の名残がある壁の残骸に隠れ奴の行動を見張ることにした。しかし奴は一向に動く気配が無い。どうもおかしいと思い、地面を踏む音すら立たせず壁に隠れながら俺はゆっくりと奴の真正面の壁の方へ移動した。

息を整えながらゆっくりと奴を見…る?


「え?」

信じられない光景に思わず声が出てしまった。


(い…ない?)

俺は慌てて奴が居た事故現場の中心に向う。そう。そこに奴はいなかった。

先ほどまで居た俺が見た不審者はまるで煙の様に消えた。見失うはずは無い。

この空き地は入口と出口が裏路地から入ってくる一本道しかないからだ。

空き地から出ていれば俺が移動後に見たときに空き地から立ち去る姿が見えるはずだ。


(まさか…幽霊?)


楽観的な考えかもしれないが、俺をここに導く為にあの頃の残留思念とかが固まって

奴という姿を形成させていたと考えれば説明が付いてしまう。


(あの頃を忘れかけていたということなのか?)


自分だけ生き残った罪悪感がこみ上げ、眩暈と動悸が激しくなる中、なんとも言えない

複雑な感情の中、溜め息を一つだけ残し俺は歩き始めた。

背後から忍び寄るこれから始まる熾烈な運命に気付くことは出来なかった。


第一話『プロローグ』 終


『次回予告』


忍び寄る漆黒を纏う影。迫り来る死神の足音。


冗談じゃない…。俺は死ぬわけにはいかない。


こんなところで訳も分からないまま大人しく殺されてやれるほど…


俺はお人好しじゃない!


足掻いてやる…。徹底的に最期まで!


次回

フォーチューン

第二話『壊れ逝く日常』


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